第23話 睥睨
金魚が泳ぐ袋をぶら下げて、銀髪少女はゆらゆらと
「沢山やって一匹だけ。はあ」
白熱がくたびれて収まる俺は芳ばしい香りに戦がれる。
腹減った…。
あれから金魚掬いで勝ったはずがやけになったメイミアに付き合わされてドッと疲れた。
俺はとぼとぼと屋台に歩いていくと同じ心境かの二人組とすれ違った。
「お姉さんお姉さん! 今一人? 俺ら友達とはぐれちゃったんだけど人が多くて見つからないんだ。一緒に探してくれない?」
「私と?」
茶髪の毛先を遊ばせる観た目十六歳位の小柄な人と、浴衣を
その光景に惹かれていた俺は新鮮な環境に引き立てられていたかもしれない。
でも距離を置いて絵になるというか。
「そこのタコ焼き買ってから行こうよ。お姉さんも食べよ?」
魅力、なのか──綺麗って思ってしまった。
熱がある、体が熱いし、額を触れば微熱っぽい。そういう確認が済んでいるとメイミアがこっちを向いて赤らめた。
「うーん…食べたいけど彼と周っシオン? って、やっぱり食い物かい‼︎」
反射で逸らしていた先はお好み焼きと書いてある。
思わず直ると首を
神社の方に行くメイミアを二人組は追い掛けた。
「待ってよ!」
二人組が不思議そうに左右に付き添った。
「もしかして友達とはぐれちゃったのが嫌だった、それならマジでごめん。本当は一目惚れで」
会話が途切れる。
俺は他所の視線を感じ逆方向へ歩いた。
人々を縫う様に行き交う度その一部が耳に届く。
「誰見てんの?」
「え。いや今通った子可愛いなって…」
「…最低」
時に。
「さっき綺麗な人と居た人だよ、ヤバイ目の保養だわ」
「でもあの人、女の子じゃないの?」
「違うでしょ。男物着てるし……声掛けちゃう?」
そして。
「ここ何処だ」
逃げる様に迷い込んでいたら誰も居ない広場に来ていた。
ただ、慣れていない人当たりで気力が
「すみません。私達迷子なんですけど、この辺でお祭りやってるって聞いて」
その声に心臓が収縮した。
勢いで振り返る俺を微笑む、同い年位の女の子が三人居た事に困惑し。
「お祭り…ああ。この方向に行くとありますよ」
来た道を伝える俺は席を外す。
つもりが「来たばかりでどこ行くんですか」と橙色の浴衣の子が巾着を持ち直し、上品に首を傾げていると、フルーツが香る黒髪の子が俺の隣に来る。
沈黙していると花飾りのブレスレットを付けている白い浴衣の子が口にした。
「一緒に行きませんか?」
誘いだった。
どう応えようか迷っている広場に、車と似たエンジン音が聴こえ出す。
「あっ。もうこんな遅かったんだ…やっぱり私達。ごめんなさい帰ります」
目で意思疎通する女の子達は言い残し、足早に広場を出ていった。
妙に不自然で、更に疲れたから石器席に座り直した。
それが、あっという間の異常事態の様に、爆音が広場を取り巻いて二輪仕様の物騒な車で埋め尽くされた。
難聴になる…。
まばらに停車し派手な人集りから全視線を受ける様な、捉えられる目付きの内、
「誰?」
「見たことないけど」と付け足し重心を押し付けられる。
一回り大きな体でカラフルな髪の男。
そんな輩に圧迫されていると反感が口走っていった。
「お前が名乗れよ?」
この言葉で男の瞳孔が迫り出し、追い打ちされている。
不快。それ以外の何者でもない奴が、しかし、拍子抜けとなるばかりに男の一言にそれは解かれた。
「何だよ、ヤケに機嫌が悪そうだな。ちょっと気になってからかっただけだよ」
笑い混じりでしゃがみ込む、その男が最も繊細な部分を触れ出した。
「一人か?」
「嫌味か…」
「っはは! 威勢はいいがそんな態度じゃ仲間に入れないぞ。まず先輩に挨拶だ、それが出来ないとここでは駄目だ」
腕を組んで頷く男を
うん…。
「帰ろう」
「工藤和樹」
「……。」
「和樹だ。名は?」
「……シオン」
俺は席を立って言った。
家に帰るには来た道を戻ればいいと、そう思っていた。
「そっかシオンか……行くなよ、待てよ」
和樹という男が走り付いて腕を掴んでくる。
力強い握力だった。
俺は沸点を通り越し。
「和樹一々絡むな!」
代弁された。
一喝し全員の注目を受けるそこには、数十人を囲った中心の人物で長髪金髪の同い年。そういう風に見える男に和樹は向き変えて手を離す。
「悪いつい」
陽気っぽく言い片手に拳を作る。
俺はそんな和樹を越えて中心の人物に歩んでいった。
なんか興味があって、釣られるみたいに、今俺が一番欲してる何かの気がしていた。
すると舎弟っぽい人達を通過する度に罵声が飛ぶ。
「テメェ誰に断ってこの人に近寄ってんだ」
「もしも〜し耳ついてますか?」
「待てや?」
どんどん野次達に囲まれるが、その中心の人物が誰かと似ている気がして辿り着いた俺は顔を見定める。
「どっかで会ったことない?」
顎を持ち上げて見ていると今にも殴られそうな顔前で短髪黒髪を写し出し、パズルをはめる様な脳内で合わさった。
「ミグサじゃん!」
完全に一致したその容姿はミグサそのものだった。
俺は元気が湧いて声が弾んだ。
「急に変わってたから驚いたよ。イメチェン?」
待っていると、噛み締める様に瞑り嫌悪の口が開かれた。
「お前…誰?」
虫唾が走る。
そういう念が伝わる眼差しや他人行儀な言葉に頭が真っ白になっていた。
「誰って俺だよ…シオンだよ。もしかして何も言わずに転移したこと、怒って…」
「シオン、転移、つうか。お前みたいな
不穏で身が
「どうすんのこれ?」
一周し
情熱的な人達と次々に目が合っている、この知らない輩より、見るべき相手はそばに…いる。
「いやほら! あの時魔王城に来てくれて」
篭っていた心情が溢れる、それは周りの笑い声に消えていった。
「はいはい。水城さんは知らないってさ、いい加減。消えてくれ…お前等‼︎」
突然の掛け声。というには鈍感過ぎる位内心しんどかった。
嫌われたくない。いつもみたいに笑ってくれよ。
そんな顔しないでくれ、頼むから。
「笑って…」
笑い方なんて知らない。
咲う位にしか言えない表情で士気が上がった総勢五十人、やっぱりミグサの顔色は変わらない。
様子を見ていた中で、左右から二人の男に襲われた。
手元が光るナイフの刃先が米神を貫くミリ単位になる俺は、
「刺さるよ」
相手にする気は起きないし何がしたいのか分からない。
ただ自滅する未来が浮かんで、一歩下がっていた無人の両端から、互いの顔面に刃が目掛ける結末が目の前にあった。
二人の男が悲鳴を上げて、けれど死なれるのも嫌だから抑えて告げてみる。
「言った通り」
ナイフが地に転がった。
それを一人が凝視し震え上がっている。
「死が見えた、本気で。絶対…逃れねえ」
もう一人は地べたに蹲って発狂しているんだけれど。
「そこまで怖がるなら刃物振り回すなよ……ところでミグサ。どうして止めてあげなかったんだよ」
これを放心して眺めている、動く素振りは見せていない。表情も変わらず魔力だって感じない。
何があったんだよ…。
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