第35話 白より前を遡る

時計の針が縦一直線に刻み「信じていいのか」と不穏な顔付きが映る。

俺は話のまとめに入った。


「兄さんは生きてるん」


「門を…燃やした事を…」


「燃や?」


頭が?で埋まる。

今までミグサの戦闘を話していた俺は影達の事や、またそれに因んだお祭りも兄弟から知ったんだと伝えた所で。

…燃や?

…門。

…ん?

…あぁ。

俺は教員室に呼び出された話だと悟った。

伴って一生懸命話した内容から超どうでもいい抜粋にし尋問される。


「大事だろ。ある人って知り合いか、友達か? 教師ごと燃やそうとするって危ない奴だ。悪魔だそんな奴今すぐ縁を切れ‼︎」


翔がテーブルを乗り上げる。

眉間にしわが寄って尋問感然り気迫や勢いの迫力があった。

思わず魅入っていた。

こうして目を奪われた人間性に感心が高まりながら。


「悪魔じゃねえよ…危ない奴で悪かったな…」


段々イライラした。

ぽかんと目を見開く翔に続ける。


「災難の元になるっていうなら翔が合ってる。ただ言いたいのは常識外れの出来事で進むべき道が遮られても追い詰めるなって!」 


「…だな」


「おう?」


「知り合いを悪く言ってっつうか危ない奴は俺だな、わるい」


「どこが? いやそれよりある人は後から兄さんがそうなっていたって聞いただけだぞ。勘違いするなよ! たく生温いとか魔法とか…」


思い出せばキリがなく、ブツブツ独り言みたいに過ぎ去っていたら「兄弟が生きてるか」と遺影の方に語る翔。


「信じていいか聞かないの?」


「シオンが言うならそうなんだろ」


「…そう?」


余りに決まった反応に不満な声が漏れた。

どうせなら色々答えられるし疑って欲しいが、目頭から込み上げるみたいな、俺の前に来て幸が薄い腰を下ろして紡がれる。


「ここ極道だぞ。大なり小なり一般人と流れる血が違う。深海でお前を魅て…あのマフィアが成す事業を打っ潰した強者なんだよ俺にとって。だから信じるさ」


聞いて放心した。

先程まで罪悪感があった姿が今は冷酷級に落ち着いている。

何だか不思議な人情に触れていた。

思えば翔家は他と身の振る舞いが違う認識だったが、強者と聞く或いは、ミグサが学校で慕われる源を感じる。


「…信用できないか? あれから数日間、本来なら失態というケジメをつけに来る。今頃ここは焼け野原になってる筈だ、仮にそうなったとしても受け入れていたさ。ダメか?」


言われ混乱した。

翔の方角はこちら側でも言葉は白魔術界そのもので、それらを整理する知性はなく。


「ダメっていうか、人格者だなーって」


「そうか? まあ口ではどうとでも言えるしな。ただ、家を継ぐ気のない意識でも信用次第で生き残れるかどうかの世界から得たものがある。俺の誇りだ。なんたって海外の軍と密接相手に言葉で収めたんだから」


「偶々だよ、そこの偉い人が先生だった。運よく知ってる人でよかった」


笑って言った。

本当によかった。

心から。

よかったはずだ。

少なくとも五感ははっきりしてる。


◆なのに何がよかったのか分からない◆


圧倒的に敵は強かった。

死に掛けた感覚がしっかりあって、なのにその最中が思い出せない。

ぽっかり空いた様に。

時間が惜しくて…その前に何かが必ずあった。

翔の言う通り言葉で収めるには力量や納得いくやりとりが合ったはずが。

改めて振り返っても思い出せず「…先生」と呟く翔が真面目な顔付きとなった。


「ま…そこは触れないが。ここまで自分の身が安泰だと知らない間にシオンが動いてるとか思ったりするんだよ」


「動いてないよ」


「そうなのか…ならメイミアさんと関係があるとか」


「何が?」


「実は」


聞くと昨日のニュースについてだった。

学校ではその『ニュース』についての話題がなく、誰に尋ねても知らないの一点張りだったという。

また翔が言うに登校中に会った学校の勧誘で記憶の供給があの時行われていたらしい。

俺は体験できなかったが、俺と翔が入学する条件に深夜の事件をこの世から伏せると説明されたそうで。

ならニュースは何処へいったのかと、疑心に囁いた翔に「それは」と繕う。


「どうだろう、人をひれ伏す様な力を持ってるし。俺からはなんとも」


なくはなさそうだが一緒になって寝ていたし関連性も特に無く。

翔が「そうか」と腕を組む。


「意識を失っていた間にメイミアさんが白服をやっつけたんだよな」


「うん。どっちが敵か分からなくなった」


メイミアの戦闘は記憶にある。

翔の戦闘も。

そう認識していると笑いを堪える様な声でこちらを伺い。


「この際だから聞いてみたい、シオンとメイミアさんってどっちが強いんだ?」


この問いから暫く静寂に変わった。

時計の針が響いて、家人の足音が畳の一室に届いてくる。

外で鳴らしている虫の音を感じ取れる頃、遡った記憶を冗談っぽく告げていた。


「いっぱい負けてる。死ぬ程強いよ」


遡る感想は、まだ白ではなく、悪魔が纏う漆黒の翼の頃。

過信も油断も慢心も一括りに加えて対峙する、みっともない思い出と、ミグサに『一緒』と言われる些細な事で骨の髄まで蘇る。


「マジか…次から目を見て話せなくなりそうだ……よし、じゃあ行こう。いつの間にか消えるのは無しだからな??」


好奇心を満たした様に立ち上がる仕草を、口元が緩んでくる俺は鼻で笑った。


◇◇◇


地図を写している画面越しの翔と、生い茂った暗闇の奥地へ歩き続けている間、何度目かの「ん?」を囁いて、辺りを見渡している翔に。


「森林に病院が立ってる訳なくない?」


満月を映している水辺に黄色く発光するものが宙に泳いでいる、好ましい自然に囲まれているけれど迷子だと思う。


「だけど、地図だとこの辺なんだ。変だっつうかお前それ女郎蜘蛛だぞ! 肩に乗っけてないで振り落とせよ」


言われ利き手に乗せ見て、仕方なく地へ離した。

その視線から戻すと薄暗い人影がざわざわと来る。

長髪をゆらゆらと靡かせ、両手を上げている鳥肌もんの光景から、翔の背後で足を止め、唸り声と共にバンと両手が下がった。


「ぎゃああああああああああああああ」


悲鳴が上がる間に、髪を結く部長に、胸ぐらを掴んでいる。


「テメー心臓止まりかけただろうが‼︎」


「なんの此れしきよ、それでも総長?」


俺は笑い混じりの部長と挨拶し、何故か既視感を覚えた。

一方額に血管が浮いている翔は手を離しながら。


「辞めたし元々俺の族じゃねえから」


「そうなんだ。だったら部活動に専念しなさいよ…」


バチバチ対立している。

その光景が何処か懐かしく感じていると部長は思い出した様に。


「にしても見つかって良かった。この辺通信障害がある事忘れてたし、皆ここに行き着くんだよね」


胸を撫で下ろし、爽快な掛け声で歩き出す。


「さあ行こう、楽しい夏休みのイベントだ」


意気揚々の部長を翔が追い掛け、そのどんよりとした後に付いて行く。

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