第34話 遺影の話し
まだ、校庭から人の気配がなく門に背を預けていた。
暖かい風にウトウトしながら小さい生き物が飛んでいく空模様──その奥に──逆さの人が映る。
「浮い、立ってる?」
白装束に白い髪が逆毛の様に垂れて靡く、色白の肌に瞳が微かに認識できる空だった。
不思議に思い目を擦っていると足元からバンとする音と共に「わるい」と。
「抜けるのに苦戦して」
門をよじ登る翔がバックを掴んで続ける。
「遅れたんだけどオカルトって興味ある?」
そこで、視野を戻すとその姿はなく、逆さの女性らしき痕跡が消失していた怪奇現象に。
「オカルト、なんで?」
自然と繋がっていた。
「俺さ、オカルト部っていう幽霊部員なんだけど。なんか夏休みの活動を練っていたらしくて、さっきまで部長に来いって」
聞いてる間に主事らしき人が鍵を片手にやって来る。好ましくない顔でこの場を見るなり、門を開けながら溜息を交わした。
「全く君は…下校時刻に従わず他校の生徒と関わるか、髪色も校則違反じゃないか?」
「んな変わらねえし、友達と居て何が悪いんだ? 髪だって金から茶に変えたんだ、寧ろよくなってんだろ?」
いきなり気迫が上がる翔を、下校する生徒達が恐る恐る通る風景となった。
そうしてみるみる火が湧く翔の背後に、拳を作る生徒が忍び寄る。
髪を後ろに結いている同い年のクラスバッチ。
その凛とした女の子が手を上げる。
「は? んな訳わかんねー校則があるから今どきの奴はとか言われんだろ、大体大人になって髪染めができるかよ? 今しかできねえ俺の将来に痛えなゴラァ‼︎」
前に逸れる翔が振り返り「げっ」と繋げて言った。
「ドブス」
その頭部を叩いた女の子が更に翔の頬を打つ。
ビンタが炸裂していた。
「いいよ主事さんもっと言ってやって! 翔のせいで部活動の資金申請が生徒会に通らないんだから。あと…ちゃんと来なさいよ今日の夜だからね」
主事さんは痛々しそうに頬を摩って去っていく。
翔は腫れた赤い頬を抑えて言った。
「これがさっき言った部長、オカルトっていうか。心霊現象とかを写真やら動画に撮影する気味の悪い部活だ」
「気味が悪いって聞き捨てならないわ、未知よ未知。未だ見ぬ夢のような世界観を収める活動なんだから…ところで、あなたは翔のっ?」
俺に振り向く女の子が硬直した。
「友達です、送り迎え…いえ、遊ぶ約束があったんで。迎えに来たん」
「そうだったんですか、そうですよ…そんな訳…なわけ? あれ、デー…ト? デート、そうなんですか!」
「そうだ、家に寄ってから趣味の悪いお前に付き合ってくれるんだ」
「え?」
鈍器に殴られたかの部長に翔が応えた。
思わず俺が食い入っていると更に。
「幽霊なんざ生理的に無理だ、だから人が多い方がいいに決まってる。お願い来てくれシオン! こいつと二人きりで廃墟の病院はマジで嫌なんだ…」
翔に縋り付かれる。
俺は「嫌だ」と、お化けに怖がる翔を想像する間に。
「そう! お手伝いさんが増えるなら歓迎する、部員は皆幽霊化してるし確かに二人で廃墟はいき過ぎてたわ…」
俺の「嫌だ」を何故か無しにする部長が。
「神隠しっていう、知る人ぞ知る心霊スポットの中でも入ったら二度と出られないで有名なところよ! シオンさんだっけ、どうぞよろしく!」
早速の笑顔で翔の背をバシッと叩きこの場を去っていった。
◇◇◇
帰り道での小言は翔の部屋でも続いている。
「どういう神経したら廃墟になるんだ、つうか幽霊って何だ、初心者に全然優しくねえよ」
湯呑みを置いて両手で顔を覆う。
その暗澹が横目に映っていた。
「断ればいいじゃん、頭抱えなくてもよくなるよ。それにプライドは寿命を縮めるよ」
俺は遺影に呟いた。
気が引けるのは同じだが翔と比べれば軽症で、一度口にして捻じ曲げたくないらしい。
「ミグサも化けて来たりして」
行ってみたら案外面白いかもとクスクス笑っていたら「死人と会話より俺に助言してくれ」と悲痛が零れる。
見ると酷くやつれていた。
それがあの日の様に、些細な事だと思うのは俺だけだったと不安が襲う。
「あのさ、怪奇現象か分からないけどちょっと前、ある人が教員室に呼び出されたんだ」
そう言って翔の真向いに座る。
「呼び出したのはその人の担任なんだけど、化け物みたいに強くて…一時期は毎晩の様に補修させられ憂さ晴らしに学校の門を燃やしたんだって」
そう続けた。
すると苦笑いで。
「学校の門を燃やすって、ヤンキーでもそうそうしないぞ」
聞いて控えめに笑った。
しかし余興が尽きて仕切り直す。
「それでヤンキーが何か分からないけどその後は少女に会って寄生される。その後翔の兄さんに魔力を吸い取られた」
伝えながら記憶を辿っていく。
もしかしたら整理したかったのかもしれない。
俺は直感に従い暗黙のその日を紡ぎ出していった。
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