三章 白魔術と黒魔術と

第13話 魔力測定の日

寝室にガラスが散らばる。


「ばっ‼︎」


「…夢か」


勢いよくメイミアが飛び起きて朝を迎えた。


◇◇◇


清々しい位に立派な門を越えた登校は積乱雲が懸かる過ごしやすい気温だった。

生徒達が「鋼鉄みたいな門だったね」とか「要塞だね」って笑っていたがまた何で門が変わったのか考えていたら眠気が増した。


「ふぁあぁぁ」


「シオン君が、朝から来てる…」


賑やかな教室の自席に寝そべると隣の席で鞄を落とす生徒から視線を浴びた。

銅色あかがねいろの瞳と深い茶髪、指には青碧の爪が明るさを彩った女の子。

この人は一年から組が同じで遠からず近からずの関係だが話した事は少なく、


「心臓止まるかと思ったんだから、殺してやる…」


そう言って何かをブツブツ唱えているメイミアが隣の席で殺気立っていて居心地が悪い。

いつも通りの日常だった。

そんな一度は背いた現実に、ふと自分が体験した世界は夢だったと実感していたら肩を叩かれ、


「今日魔力測定だってよ」


登校したミグサに確かめたくなる。


「へー、だからみんな騒いでたのか」


「補修は嫌だ」と聞こえる。顔を上げると課題で分からない所があるとか黒板に方程式を書いて解説してる光景とか、必死こいて魔力を扱う教室から現実が押し寄せる。


「最下位は補修対象だしな」


「心配なさんでも俺が居んじゃん」


そう言っていたら多分から夢だと確信へ変わった。

まるで日々の習慣がここなんだと夢が遠のいていく。


「決めつけるなよ?」


「そうする」


「おう」


変わらない日常に笑みが映る。

その時気付いた。

最悪な時でも親しい笑顔があれば元気になれる事を。


◇◇◇


思えば点呼まで余裕のある朝は新鮮だった。

教室が賑やかになる程みんな揃ってるし、何ならミグサで全員出席したんじゃないかと観察すると何故か本能的に面白い。

一通り終えると前席のミグサが机を膝掛け代わりにし顔色がよれていた。


「所で…。メイミアは、何してんだ?」


俺は流されて目をやると真剣そうな様子が入る。

透明で青模様のちっさい玉。それがメイミアの手元に浮游し、掌を翳していく度、ドス黒い靄を生み出している不審な作業中。


「無限地獄に誘う呪い」


「誰に…」


「ふん」


体が引けてるミグサ。その質問から睨んでくるメイミア。

俺はぷいと背けたら銅色の瞳と目が合う。

いきなり吐息が掛かって硬直したが、椅子ごと向けて観察していた様で。さっきまで毒霧でも吸っていたかの状況とさして変わらず、言いたげにする彼女がニカって笑った。


「シオン君ってメイミアちゃんと付き合ってるの?」


悶絶する質問が飛んで来た。

何見てたのと応えると図星なんだ!と下からドヤ顔に晒され何かむかむかするから訂正した。


「どう観察したら彼氏に見えるのさ、呪われ」


「あ”ーもうどうして効かないの! この気持ちはどうすればいいの‼︎」


大声のメイミアに掻き消された。

教室中が静まり返り、机をバンバンと荒立てて、うつ伏せでいる仕草を生徒達が見守る異様な雰囲気に早変わりしやがる。


「って、言ってるけど?」


変な意味で誇張される言葉が返ってきた。

それも静かな教室によく通り、一気に注目の的となった俺はおちょくられている、いる。いるけど立ち回りが分からない。


「違うって…‼︎」


伝えると背が熱くなり息がし辛くなる。

首が締められる不調だった。

俺はぞわぞわする後ろから誰の仕業か特定しベールを首に張る。

粉の様な光が輝いた小さい規模だが、すると瞬時に距離を取るメイミアが死相の空気を漂わせ、魔力の余波と共に魔法陣が顕現する。

天井一面に幾何学紋様が覆う最速の魔術を完成させた。


「「凄…」」


奇跡に立ち合うかの無数の瞳がメイミアの魔術に惹き込まれる感想達。

一方で鈍い音の様なものが発現しているが、何、これ…。


「光の遊び」


心を読んでくるメイミア。

足して魔法陣から発現する黄、緑、紫の刃をした光が襲ってくる。

風の様に軌道する刃に服が裂けて、致命傷を避ける度に床をバサバサ刺していくその斬れ味に危機した。

それも再軌道というのか、鎮まった刃が再び床の飛沫を撒き散らし磁力の様に飛んでくる。

俺はそれら体験した事がない魔術を躱しミグサに訴える。


「剣くれ」


「えっえっえ⁉︎」


慌てて剣を作ろうと思い立つミグサ。

しかし『剣の魔術』は習得していないと言われ、焦って続けた。


「魔法陣に書き換えなくていい」


その頃三つの刃が旋風する。

速度ある魔術だった刃に更に威力が加わる光景が焦りを最大限に煽ってくる時だった。


「魔法陣に書き、どういうことだよ?」


ミグサにそう返答され頭の中が真っ黒に染まる。

『法則崩れ』という文字が浮かんだ。


「…いや」


俺はアルタイルにおける禁断を仄めかしていた。

幸い様々な魔法陣を作り出すミグサは余り気に留めていなかったが、追い詰められているとはいえどうかしていた。


「何でもな、忘れて」


「鋭い魔力と放電の同時生成で固化するよ」


仄めかす所かより丁寧にメイミアが言った。

正確にはそこまで詳細な手順は個人の体質によって変わるため予期していないが、シンとしているミグサは禍々しい眼差しにぼーっと宥め、意を消した様に口にする。


「…つうか、やり過ぎだろ」


「どこが」


「どこが…って」


何食わぬ顔のメイミアにミグサの表情が影掛かるが、俺の体から出血している事へ主張を重ねる。

「やり過ぎもいい所だ」と。


「もう辞めようぜ、みんなも怖がってるはずだ」


ミグサの声掛けが教室の異常さを諭し上げた。

四隅でしゃがみ込む友達の格好や両手を繋ぐ女子二人が小刻みに頷いて、またある生徒が壁に委ねて身を案じる。

実際に一周すると魔術を扱うには狭い教室で、この空間を刃が縦横無尽に駆け巡る。

魔術の操作を誤れば人を刎ねる事態など、傍からしたら逃げればいいと済まされるかもしれないが。

魔術師を志す教育の場で個人の意思は尊重され難いのがこの現状を作り上げていた。


「でも怖いもの見たさって様子だし、遊びだよ」


一帯を見渡すメイミア。

また改めてミグサがみんなの顔を伺う。

すると誤りを悟った様に「確かに」と感情が乗った。

動作は察知していたが個々の顔付きまで汲み取れてはいなかったと、高揚の瞳やこれに準ずるみんなの様子を痛感していくミグサがメイミアの信憑性を高めていく。

更に同時並行で魔術を操るメイミアを常人は才媛さいえんと感嘆する。

例えば魔術は魔法陣の幾何学から魔力を通し様々なものが具現化する。

内の一つ魔法陣は幾何学の演算が初めて成り立って魔力と呼応する。

魔術学校はこの幾何学の演算を一年で修得しなければ留年らしく俺は零点だった。

しかしそれ程まで魔術の学を欲するこの場でメイミアは模範のそれを上回っていた。

魔力の質、準ずる量、通常は脳の処理が追い付かず魔術そのものが暴れるか消滅するはずが平気で刃が飛んでくる。

もちろん何を発現させるかの紋様の知識も必然だが、学校の修得範囲に光なんてものはなく、過去に光を操る人はいたがどこで学ぶのか分からない。

そして魔術師の多くはこうではない、一部の圧倒的力を持つ個人は存在するし良いとして、常に理性も力も一丸で目的を遂行する未来の魔術師からすればメイミアの魅力以外は埋もれてしまう。

現にミグサの言葉は多くの生徒にとって理性が一丸となる提唱だった。

それが数少ない畏怖の生徒に届くばかりかその他大勢はメイミアに心を奪われている。

ある意味この状況も多くの人が夢中なら正義かもしれない。

それでもその他大勢の指針よりミグサの言葉が通じる世界になって欲しい。

盛り上がっていようと畏怖する人に逃げていいと心では叫びたい。

何故なら畏怖の先には『意欲』がなくなる。

実際に致命傷を躱すこそ可能だが同じ事の繰り返しで気力が失せる。

ミグサが主張する出血は怠惰の証だ。

きっと何処かで時間が解決すると縋ってる。

傷は増えていくわ立ち回りも、分からない。


「シオン、君…」


ポツリと呼ばれた。

向くと剥き出しの刃がぐるぐると回って飛んで来た。

俺は慌てて上下に手を揺らし、


「これでいいかな…」


剣を手にする。

端麗な魔力で発現する隣の席の人からだった。


「私黒魔術はムリだけど魔術の剣なら…」


上擦った彼女。

しかしどこか期待を宿した闘志が映っていた。

俺は剣を握る。

柄の所に組紐で巻き締めてある感じや危篤な模様が刃にあり形がやや変わっていた。


「これは…」


若干丸い形状だが太刀の部類なのか…?

品のある重さと上質な部位達が融合している。

同じ位頭が?で埋まる。


「振れ」


「へ…?」


ミグサが「業物」だと言う。

活気のある顔付きが熱意に満ちていた。

けど見た事がない剣に何で期待してるのか意味が分からない。


「…。ッブ」


芸術的な一振りに勿体なさすら覚えたが、軽く振ったら床が液体みたいに裂けていく。

ただただ仰天していたら視界の隅が光る。

メイミアの魔術だった。

左右と上から来る三つの刃が高密度な風を巻き上げ、間合いが広く致命傷を躱すばかりだった俺は嗤った。

剣を握り直し迎える。

結果は打ち破った。

振れば空気を断切するかの残像が淡い魔力を帯びていて、なんか異様に振りやすくまやかしかの切味に思わず咲った。


「マジアユラ最高…」


「でしょ! うちの故郷の賜物よ!」


彼女が跳ねて喜ぶ。

意外な一面の隣でミグサは安堵した。


「でも何で分かったの?」


俺はミグサが言う奇麗な業物を宙に翳して言った。


「あ…若い時、今だけど、好きで使ってたから」


少々赤らむミグサ。

俺はその姿に帯刀している想像が頭に浮かんだ。

細身で筋肉質の背高いミグサはとてもよく似合う。

更に剣捌きが合わさって想像が大いに捗る。


「すっご! 何て剣?」


「日本刀」


「へえー…。」


捗る想像が止まった。

頭で何かに引っ掛かっていたらメイミアの声が流れ込む。


「わざわざ躱す必要ないでしょ」


「…なんで?」


「ノウェム」


仏頂面のメイミア。

まるで最初から躱す意味すら否定される所か規則すら眼中にないらしい。


◆何より◆


体中の血が高速で循環する。


「本気じゃない…」


俺の目に不満げな呟きが入る。

メイミアは魔術という記憶より身体能力の高さや凡ゆる俊敏さに長けている。

本人が遊びと言ってるのはここから来ているはずだ。


「つまらない…」


愁然な響きが伝う。

刹那、剣にヒビが入る。


「トラ◯◯◯ト」


聞き取れない。

また握っている剣の破損前に奇妙な感覚が合ったが魔術とは思えない振動の類いと、改めて魔力の発現を感知する。


「今日のメイミア…どうかしてる」


俺は分厚い光の柱が魔法陣から放たれている事に恐れを抱いた。

本人はきっと手加減してると思う。

しかしその光が魔法陣から七つ集点を移動させ、照らすのもを焼失させる威力があった。


「ありがとう」


怨色の様な顔が髪に隠れる。

俺は七つの光に対抗する手段が見つからない。

正確にはこのヒビの入った剣ではメイミアに当たっても返り討ちに合う。

それもベールはいけない。

ここではダメだ。

だがメイミアは俺の行動を把握した上で誘っている。

来いって。

だからこそ行ってはいけない。

剣も、ベールも、魔力も、最も攻撃も回避も速度も劣る現状で成す術がない。


「むり」


自分に諭した瞬間だった。


「なら次からは私から離れない?」


「離れ…ない…?」


「分からない? 先生に拉致されたから学校に入学した。それって私と居るより拉致された方がマシって事だよね」


「何で今…その話?」


記憶がある。言葉通りに喋った事があるが今更感が合った。

一方で魔力を通わすメイミアから圧迫される様な空気に仕立てられ、ここ一番に不穏さが際立っていた。


「私はさ、嘘が嫌い、光が嫌い、善はもっと嫌いだし私に執着させるためなら何だってするよ。約束して?」


闘争の瞳でニヤけるメイミア。

その背景に黒い炎を身に纏い両手を広げる般若が居る。

まるで般若の手で締められるかの息苦しさに幻覚を実感した。


「…その見返りは?」


「抱き締めてあげる」


「そうかい…」


思わずしゃがみ込んで呼吸に専念した。

若干楽になり剣を見入る。

ヒビこそあるが逆に粋な艶が光る刃が麗しく思えた頃だった。

光の魔術が刃を捉えて焼失させる。


「抱き締められる位ならこっちの方がマシとか言われるとむかつくよ」


「残念ながら俺より可愛い奴以外に抱かれたくないでした」


「自分の容姿は好みじゃないんでしょ」


「うぅ」


「嘘下手」


「じゃ約束します。貴女様から離れません」


「靴舐めて」


「殺すぞ」


「大体シオンが何処にも行かないなんて約束守れる訳ない」


「じゃ何、嫌がらせ?」


ベールを使えば魔術学校には居られなくなる。その可能性もあり誘いには乗らなかったが。


「ヴァレンが泣くよ」


「ずる」


一帯に空虚な風が吹き抜けるみたいに魔力が薄くなる。

呼吸が安定し立ち上がると教室に鐘の音が鳴り響いて小さい穴が床に開く。

溶けた痕跡から煙が炊いて頬に血が流れていた。


「まだ許してないよ」


首を傾げるメイミア。

一見して脱力しているのか拍子抜けしている様にも見える顔で、しとやかで整った相貌が突拍子も無く教室を支配下にするかの魔力を蔓延し皆の顔付きが畏縮していくが、至って半目で佇むその思考が理解不能。


「で?」


横に顔を振ると教室を水の中に浸す様な身動きの取りにくさ、息苦しさ、加えて発光する魔法陣。

その眩しい光に捉われ覚悟した時、ドアがあり得ない音を立てて開かれる。


「貴様らは朝から何してる‼︎」


黒表紙を持つヒビキ先生が叫び出していた。

また迅速に生徒達を壁の方に誘導させ、教室を灼熱の魔力に追いやる。

フンと喝が響く中で爆風の熱に魔法陣もろとも吹き飛ばされ、窓側の壁が校庭に着弾する。

転げ回りながら校庭に突っ伏していた俺は何とか教室を眺めると、仁王立ちの先生が右手をくねくねして体操している。


「シーオーンンン‼︎」


メラメラ燃える眼力が瞳の中で俺を焼いている。


「クソ俺ばっか執着しやがって」


カッとなっていたが不意に見渡すと誰もいない。

逃げやがった。

アイツ…。

しかも俺だけ砂まみれで校庭にいるのが凄いイラつく…。

だが怒りを収める暇なく砂地の足場から魔法陣が顕現する。

俺の立つ所を紋様が覆い…こう、狙いを定めるみたいに読み込みながらはっこうしながら収縮してる?

あと積乱雲が懸けてるのに直射日光を浴びてる。

何で?


「とっておきだ。だが安心しろ。いつかはこうなると思っていた。大人しいのも辛いだろう。これでも暴れ足りないなら朝まで付き合ってくれる…」


歯をガリガリ噛み合わせる先生。

その上部。

校舎を照らす巨大な炎の塊が鎮座していた。

凡ゆる残滓が吸い寄せられ、コンクリートがジュンと燃える。

コンクリートが。

もう一度、コンクリートが!

そんなものが飛んで来た。

あっという間に視界が熱で揺ら揺らするし。


「どいつもこいつも俺に対する執着重過ぎんだろバカぁああああああ」


学校中に俺の声が通りキノコ雲が打ち上がっていった。

もちろん言いたいことは山程あるし暴れたいと思ってもなければ頭は包帯ぐるぐるに巻かれた。

保健室から戻ると教卓に立つヒビキ先生が見計らって言った。


「よーし点呼をとる! 元気良く挨拶するように」


あれから何事も無かったかの教室で名が呼ばれ出す。

若干一枚壁足りないが無事点呼は終わり、全員が戦がれる新鮮な朝だった…。


「やや風通しがいいが今日中に直すから窓側の生徒達は落下しない様にな」


先生から注意を受けるが落ちたら俺みたいになる。こぞって窓側のみんなが内側へ寄せていると一人が挙手した。


「先生ノートが飛んでっちゃいました。取って来ていいですか?」


「構わんが黒板に書いた通り抜き打ちで魔力測定する。遅れず校庭に集合するんだぞ」


「はい先生!」


頭を抱える先生。その前をスタスタ通り過ぎていく女子生徒。ドアがバタンと閉まるが姿勢は変わらず「それと」と続いた。


「気が付いてるだろうが今朝方に正門を改築工事した。木製から鉄に、だ。理由は…」


重圧感のある声が止まると先生がばっと顔を上げた。


「何者かが放火した魔術の痕跡こんせきを確認した。しかも俺の教えた魔術で、だ…それを知った時は先生、悲しかったぞ」


それはそれは悲しそうな体中から炎の様に魔力が湧いていた。


「俺はこの組じゃない事を信じている。だが、心当たりのある生徒がいるなら……早めに名乗り出ることを勧める。以上だ」


聞いて「だが」から骨格を強調していく形相が煙を吐きながらギラギラした眼差しで捉えられたが、俺は思う…。

あれが勇者なら世も末だろ…。

てか勇者が炎の塊ぶん投げてくるはずない。

そう思っている熱気の籠った教室でミグサがこちらを見つめていた。


「まさかアレって」


俺はいい顔を振ってドアへ向かう。

丁度開けると小走りの女子がピタッて止まる。

運動より激し目の汗を流すさっきノートを取りに行った人だった。


「ごめん」


思えば俺が揉めなければ壁の負傷やノートが飛ばされずに済んだのだ。


「ノートのこと、神様?」


「ノート。うん」


「いいよいいよ神様〜」


「神、様?」


「神様」


「……。」


聞くと彼女は周りの補助の中で育ったらしい。

不自由な私がこうやって動けるのが毎日楽しいと教えてくれた。

更に彼女は両手を握り尊く口ずさんでいった。


「だって私は魔力を得て走れる様になれたの。でもそれはつい最近。魔術学校は魔術師を目指す頭脳明晰達が学ぶ所で、アルタイルの未来を担う志より煩悩で入学した当時は罪悪感で死にたくなって。こんな私にメイミアちゃんが笑ったの。持ってる人を意識しなくていい、持っていない人が持つ瞬間を学べって。だから見て来た。メイミアちゃんは私にとって道導なの。そんな人に魔力なしで戦うってそれはもう神様なんだよ」


彼女はくるんと一周して去っていった。


◇◇◇


移動していると準備運動していたり、会話に花を咲かせていたりする校庭で、


「シオン君って本気で魔力測定やった事ある?」


「もちろん」


「本当にそう?」


「…うん」


「嘘だね」


「……。」


アユラに尾行されている。

知り得ない魔力の事情に疑問を覚える、そういう顔に距離が縮まっていた。


「天才はビリにならないっしょ、隠してるの?」


「自分を天才って思った事ないし今まで全部本気だよ」


けして隠してるつもりじゃない、自分ですらよく分かっていないのだから。


「ふ〜ん…でも天才って自分が評価するんじゃなくて周りが評価する事だと思う」


言われて何も出ず、ひたすらに時間が過ぎるのを待っていた。


「始めるぞ! 四人ずつ測るから呼ばれたら前に出て測定器を付けるんだ」


赤い運動服のヒビキ先生が器具を持って、授業の合図と名を呼び始めている。


「平均いくつですか?」


「平均魔力量は学年で七十四だな」


そんな会話で思い出す直近の魔力量は確かニとか三だったような。


「じゃあ一分間だ。始め!」


記憶を遡っていると、四人の生徒が一斉いっせいに魔力を放出し、測定器の針が揺れ示している。

魔力を纏わした四人から風の渦が発生し、みんなを魅惑みわくしているその、肌を迫撃的はくげきてきな波のように触れる魔力が精神に安心と穏和を与えて、純粋な闘争心に強く訴えてくる、けど。


「五十六 六十六 九十三 四十二。良し次呼ぶぞ」


あくまで、この力在りきの話で途中で入学した俺はえぐい注目の中恥ずかしいだけだった。

また、活気ある歓声で盛り上がっている隣から。


「勝負しようよ!」


追い討ちが来る…。


「いいけど、賭けは無し」


「負けた方は放課後喫茶店の奢りで」


はや⁉︎

てか揉み消されたし剣をくれた恩が頭に過ぎって口が動かし辛い。


「俺の褒美が…無いんだけ、ど…」


「次! メイミア ミグサ アユラ シオンだ」


伝えていると袖を引っ張られ先生の前に出ていた。

あたかも承諾した感じになってるし、居ないはずのメイミアがしっかりいるし、


「その萎れた顔は何だ、シオン。早く準備しろ‼︎」


罵倒されるわ、手首に変な輪っかを装着されるわ、優秀だらけの間の配置につかされるわで合図が掛かる。


「真面目にやらんか‼︎」


風圧が勢いを増し砂の舞っている場で放出しない俺は更に叱られる。

正直憂鬱に近い時間が終わればそれでよかった。


「別にニも零も変わらなくない?」


憂鬱な時間を我慢すればいずれ過ぎ去るだけ。そう思っている残りの壮大なときを。


「二十秒ある。応援してるぞ」


その言葉が夢の中の。あの時も魔物達が。


アメジストが。


「七十四 二百五十五 百八十八 二百九十……よーし! 次呼ぶぞ〜」


黒い視界に満足気な声が聞こえる。

茫然して目を開けると爛熟していた活気や熱量が蒼白や戸惑いの情景に変わっていた。


「…シオン君って…黒魔術界の…。」


◆方角?◆


そう言ってアユラが目を光らせている。


何か嬉しそう?


…違うか。


思っている事が分かればあーはなっていないと、腰から着地し、雲の隙間を通す太陽が隠れていく、夢みたいな空だなーと。


違う。


これは魔王の。

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