三章 白魔術界に禁断とされる由縁につきましては身をもって体験していく家族達
第12話 測定の日
寝室にガラスが散らばる。
「ばっ‼︎」
「…夢か」
勢いよく飛び起きるメイミアと朝を迎えた。
◇◇◇
登校して自席に着くと鞄を落とす隣席から「シオン君が、朝から来てる…」と
「殺してやる…」
メイミアに挟まれたいつもの日常。
そんな現実に、あの体験した世界は夢だと実感していたら「今日魔力測定だってよ」とミグサに肩を叩かれ、友達同士で「補修は嫌だ」と聞こえる。
「それで賑やかなのか」
「最下位は補修対象だしな」
「心配なさんでも俺が居んじゃん」
そうミグサに言っていたら夢だと確信した。
「決めつけるなよ?」
そうして机に膝掛けるミグサは「何してんだ?」との流れで目をやる透明で青模様のちっさい玉。それがメイミアの手元に浮かび、ドス黒い
「呪い」
ミグサが誰に対してか聞くと無言で俺を睨んでいたし背けたら銅色の瞳と目が合う。
ニカってして「シオン君ってメイミアちゃんと付き合ってるの?」と聞かれ、何見てたのと応えれば「図星なんだ!」と下からドヤ顔に晒されむかむかするし「どう観察したら彼氏に見えるのさ、呪われ」と言ってる間に「あ”ーもうどうして効かないの! この気持ちはどうすればいいの‼︎」とメイミアに掻き消され静まる教室。
机をバンバンと荒立て、うつ伏せのメイミアをみんなが見てる中「って、言われてるけど?」と紡がれ、全員に注目される俺は「違う」と訂正する際に首が締められる。
慌ててベールを張った。
粉末状に輝いた小さい
無数の瞳が『凄い』と惹き込まれる。
一方で鈍い音の様なものが発現しているが、何、これ…。
「光の遊び」
俺の心を読むメイミア。
足して魔法陣から発現する黄、緑、紫の刃をした光が風の様に軌道する。
俺はその光に服が裂け、避ける度に床をバサバサ刺していく。
それも再軌道というのか、鎮まった光が再び床の飛沫を撒き散らし飛んでくる。
それら体験した事ない魔術を躱し「剣くれ」とミグサに求め。
「っえ⁉︎」
しかし『剣の魔術』は習得していないと言うミグサに「魔法陣に書き換えなくていい」と焦って続けた。
その時の心境はどうかしてたと思う。
それは「魔法陣に書き、どういうことだよ?」との返答に『法則崩れ』という言葉がよぎる俺はアルタイルにおける禁断を仄めかしていた。
幸い気に留めていなさそうだが「いや、忘れて」と罪悪感が募る上「鋭い魔力と放電の同時生成で固化するよ」と
正確にはそこまで詳細な手順は個人の体質によって変わるが、ミグサは只事でないと、その様な雰囲気を持って「つうか、やり過ぎだろ」と言っていた。
「どこが」
「どこが…って」
何食わぬ顔に俺の体から出血している事へ主張を重ねた。
「やり過ぎもいい所だ」と。
「もう辞めようぜ、みんなも怖がってるはずだ」
ミグサの声掛けが教室の異常さを諭し上げた。
四隅でしゃがみ込む格好や女子二人が小刻みに頷き、またある生徒が壁に委ねて身を案じる。
実際魔術を扱うには狭い教室で、刃が縦横無尽に駆け巡る。
魔術の操作を誤れば人を刎ねる事態など、傍からしたら逃げればいいと済まされるかもしれない。
ただ魔術師を志す教育の場で個人の意思は尊重され難いのがこの現状を作り上げていた。
「でも怖いもの見たさって様子だし、遊びだよ」
メイミアに諭されるよう一帯を見渡すミグサは「確かに」と、動作は察知していたが個々の顔付きまで汲み取れてはいなかったと、高揚の瞳やこれに準ずるみんなの様子にメイミアの信憑性へ囚われた声。
更に同時並行で魔術を操るメイミアにみなが
例えば魔術は魔法陣の幾何学から魔力を通し発現する。
内の一つ魔法陣は幾何学の演算が成り立って魔力と呼応する。
魔術学校はこの幾何学の演算を一年で修得しなければ留年らしく、それ程魔術の学を欲するこの場でメイミアは模範のそれを上回っていた。
魔力の質、準ずる量、通常は脳の処理が追い付かず魔術そのものが暴れるか消滅するはずが平気で刃が飛んでくる。
足して過去に光を操る人はいたが学校の修得範囲に光なんてものはなく、魔術師もそう。
一部圧倒的力を持つ個人はいるが常に理性や力を一丸に目的を遂行する側として、ミグサの言葉は理性的な提唱だった。
それがメイミアの魅力に埋もれ、思考の『意欲』が減り、躱す原動力が失せていく。
「シオン、君」
ポツリと呼ばれた。
向くと剥き出しの刃がぐるぐる回って飛んで来た。
慌てて上下に手を揺らし、
「これでいいかな…」
剣を手にする。
端麗な魔力を帯びる剣の魔術は隣席の
「私黒魔術はムリだけど魔術の剣なら…」
上擦った彼女。
しかしどこか期待を宿した闘志が映っていた。
俺は剣を握ると柄の所に組紐で巻き締めてある感じや危篤な模様が刃にあり形がやや変わっていた。
「これは…」
若干丸い形状だが太刀の部類なのか…?
品のある重さと上質な部位達が融合している。
そう考えると頭が?で埋まる俺に活気ある声で「業物」と補足するミグサ。
俺は芸術的な一振りに勿体なさを覚え、軽く振った床が裂けていく。
目が出そうな中、三つの刃に致命傷を躱すばかりだった俺は握り直し魔法陣を切断した。
振れば空気を断切するかの残像が淡い魔力を帯びていて、異様に振りやすくまやかしかの切味に咲った。
「アユラ最高…」
「でしょ! うちの故郷の賜物よ!」
彼女が跳ねて喜ぶ。
意外な一面やミグサは安堵した。
でも「何で分かったの?」と奇麗な業物を宙に翳していたら「若い時、今だけど、好きで使ってたから」と赤らむミグサ。
俺は帯刀してる姿が浮かぶ。
細身で筋肉質の背高いミグサはよく似合う。
また剣捌きが合わさって想像が大いに捗る。
「すっご! 何て剣?」
「日本刀」
「…。へえー」
捗る想像が止まった。
何かに引っ掛かっていたら「わざわざ躱す必要ないでしょ」との声に「なんで?」と呟けば「ノウェム」と仏頂面のメイミア。
まるで規則すら眼中にない所か「本気じゃない…」と不満げな様子。
メイミアは魔術という記憶より身体能力の高さや凡ゆる俊敏さに長けている。
本人が遊びと言うのはここから来ているはずだし「つまらない…」と
聞き取れない。
また握っている剣の破損前に奇妙な感覚が合ったが魔術と思えない振動の類いと、改めて魔力の発現を感知する。
「今日のメイミア…どうかしてる」
遅れて魔法陣が発現していた。
やはり魔術でないものだと思うが今はもう、分厚い光の柱が魔法陣から放たれる光景に恐れを抱いた。
本人はきっと加減してる。
しかしその光は照らすものを焼失していた。
「ありがとう」
メイミアの
対して対抗策が見つからない。
そしてメイミアは俺の行動を把握した上で誘ってる。
剣も、ベールも、魔力も、攻撃も回避も速度も劣る現状で「むり」と漏れたら「なら次からは離れない?」と不思議な言葉が聞こえる。
「離れ?」
「先生に拉致されたから入学した。それって私と居るより拉致された方がマシって事だよね」
なんで、その話なのか。
喋った記憶はあるが今更感がある。
ただ、飽和領域かの空気に仕立てここ一番に不穏さがあった。
「私はさ、嘘が嫌い、光が嫌い、善はもっと嫌いだし私に執着させるためなら何だってするよ。約束して?」
眼力に縛られる俺をニヤけ出す。
足を引けば息苦しさを覚え「…見返りは?」と聞けば「抱き締めてあげる」との応えにしゃがみ込む。
若干楽になり剣を見入る。
ヒビこそあるが
「抱き締められる位ならこっちの方がマシとか言われるとむかつくよ」
「残念ながら俺より可愛い奴以外に抱かれたくないでした」
「自分の容姿は好みじゃないんでしょ」
「ぅ…」
「嘘下手」
「じゃ約束します。貴女様から離れません」
「靴舐めて」
「死ね…」
「大体シオンがどこにも行かないなんて約束守れる訳ない」
「じゃ何、嫌がらせ?」
「ヴァレンが泣くよ」
「ずる」
空虚な風が吹き抜けるみたいに一帯の魔力が薄まる。
教室に鐘が鳴り体調が安定した俺は立ち上がると足元に小さい穴が床にあり、溶けた痕跡から煙が炊いて血が頬から流れていた。
「まだ許してないよ」
首を傾げるメイミア。
一見して脱力してる様で、教室を突拍子も無く魔力で支配し出すが、至って半目で佇む様子に「で?」と顔を振ると水中の様な感触、息苦しさ、魔法陣の発光。
その時、ドアが開かれ「貴様らは朝から何してる‼︎」と黒表紙を持つヒビキ先生が激昂。
みんなを迅速に端の方に誘導し教室は灼熱と化す。
フンと喝が響き爆風の熱で魔法陣もろとも窓側の壁が校庭に被弾。
転げ回って校庭に突っ伏す俺は何とか立って、教室で仁王立ちの先生が右手をくねくねしてる。
「シーオーンンン‼︎」
メラメラ燃える瞳の中で俺を焼いてるし「クソなんで俺ばっか」と探す暇なく魔法陣があった。
俺の足元を紋様が覆い…こう、狙いを定めるみたいに
あと積乱雲が懸けてるのに直射日光を浴びてる…。
「とっておきだ。だが安心しろ。いつかはこうなると思っていた。大人しいのも辛いだろう。これでも暴れ足りないなら朝まで付き合ってくれる…」
歯をガリガリ噛み込む先生。
その上部。
校舎を照らす巨大な炎の塊が鎮座していた。
凡ゆる残滓が吸い寄せられ、コンクリートがジュンと燃える。
コンクリートが。
もう一度、コンクリートが!
そんなものが飛んで来る。
あっという間に視界が熱で揺ら揺らするし。
「どいつもこいつも俺に対する執着重過ぎんだろバカぁぁぁあああ‼︎」
俺の声がゴミの様に消えキノコ雲が打ち上がった。
もちろん言いたい事は山程あるし暴れたいと思ってもなければ頭は包帯ぐるぐるに巻かれた。
保健室から戻ると教卓に立つヒビキ先生が見計らって「よーし点呼をとる! 元気良く挨拶するように」と名が呼ばれ出す全員が戦がれる新鮮な朝。
「やや風通しがいいが今日中に直すから窓側の生徒は落ちない様にな」
落ちたら俺みたいになる。こぞって窓側のみんなが内側へ寄せていると一人が挙手した。
「先生ノートが飛んでっちゃいました。取って来ていいですか?」
「構わんが黒板に書いた通り魔力測定する。遅れずにな」
「はい先生!」
頭を抱える先生とスタスタ通り過ぎていく女子生徒。ドアがバタンと閉まるが姿勢は変わらず「それと」と続いた。
「気が付いてるだろうが今朝方に正門を改築工事した。木製から鉄に、だ。理由は…」
ばっと顔を上げる先生。
「何者かが放火した魔術の
それはそれは悲しそうな体から魔力が湧いていた。
「俺はこの組でない事を信じてる。だが心当たりある生徒がいるなら……早めに名乗り出ることを勧める。以上だ」
俺に骨格が張る形相が煙を吐きギラギラした眼で捉えていたが、やっぱ思う…。
勇者が炎の塊ぶん投げてくるはずない。
またミグサに見つめられていた俺はいい顔を振ってドアへ向かう。
丁度開けると小走りの女子がピタッて止まる。
激し目の汗を流しノートを取りに行った人だった。
「ごめん」
俺が揉めなければノートが飛ばされず、走らなくて済んだんだ。
「ノートのこと、神様?」
「ノート。うん」
「いいよいいよ神様〜」
「神、様?」
「神様」
「……。」
彼女は周りの補助の中で育ったらしい。
不自由な私がこうやって動けるのが毎日楽しいと、彼女はなお教えてくれた。
「私は魔力を得て走れる様になれたの。でもそれはつい最近。魔術学校は魔術師を目指す頭脳明晰達が学ぶ所で、アルタイルの未来を担う志より
彼女はくるんと一周して去っていった。
◇◇◇
移動してると準備運動や会話に花を咲かせる校庭で。
「シオン君って本気で魔力測定やった事ある?」
「もちろん」
「本当にそう?」
「…うん」
「嘘だね」
「……。」
アユラに尾行されている。
魔力の事情に疑問を覚える、そういう顔に距離が縮まっていた。
「天才はビリにならないっしょ、隠してるの?」
「天才って思った事ないし全部本気だよ」
けして隠していない、自分ですらよく分かっていないのだから。
「ふ〜ん…でも天才って自分じゃなくて周りが評価する言葉だと思う」
言われて何も出ず、ひたすらに時間が過ぎるのを待っていた。
「始めるぞ! 四人ずつ測るから呼ばれたら前に出て測定器を付けるんだ」
赤い運動服のヒビキ先生が器具を持って、授業の合図や名を呼び始め。
「平均いくつですか?」
「平均魔力量は学年で七十四だな」
そんな会話で思い出す直近の魔力量はニや三だったような。
「では一分間だ。始め!」
記憶を辿っていると、四人の生徒が
魔力を纏わした四人から風が発生し、肌を
「五十六 六十六 九十三 四十二。良し次呼ぶぞ」
あくまで、途中で入学した俺はえぐい注目の中恥ずかしいだけだった。
また、活気ある歓声で盛り上がっている隣から。
「勝負しようよ!」
追い討ちが来る…。
「いいけど、賭けは
「負けた方は放課後喫茶店の奢りで」
はや⁉︎
てか揉み消されたし剣をくれた恩が過ぎっていたら「次! メイミア ミグサ アユラ シオンだ」との先生に引かれ居ないはずのメイミアはしっかりいるし。
「その萎れた顔は何だ、シオン。早く準備しろ‼︎」
罵倒されるわ、手首に変な輪っかを装着されるわ、優秀だらけの配置につかされ合図が掛かる。
風が勢いを増し砂の舞っている場で放出しない俺はなお叱られる。
正直憂鬱に近い時間が終わればそれでよかった。
そう思っている残りの壮大な
「二十秒ある。負けるなよ。自分に」
先生の声が聞こえる。
その言葉が夢の中へ。
あの時アメジストも同じ言葉を。
「七十四 二百五十五 百八十八 二百九十……よし次呼ぶぞー!」
黒い視界に満足気な声。
目を開けると活気や熱量が蒼白や戸惑いの情景に変わっており。
◆シオン君って黒魔術界の方角?◆
そう言ってアユラが目を光らせていた。
何か嬉しそうだが、違うか。
思っている事が分かればあーはなっていないと、腰から着地し、雲の隙間を通す太陽が隠れていく、夢みたいな空だなーと。
違う。
これは魔王の。
魔力。
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