第14話 隠匿
そう思い起き上がればビリッとする。
全身から静電気みたいな感覚が走って、電気を帯びてるみたいになっていたらジト見のアユラが掌を叩いた。
「待ってて! 直ぐに太鼓とバチ用意するから」
用意?
心で思った。
太鼓とは?
バチとは?
けど聞く間も無くアユラは走り去ってしまった。
しかももっと疑問がある。
「なんで全魔力消耗した直後で走れるんだか──いで…」
歩いたら強い電気を感じ視界がグラついた。
遠くから「大丈夫か」と声がして、いつの間にか人集りができていた。
「誰か保健室に付き添ってやってくれ」と聞こえるし、気付けばミグサに支えられていると。
「私が…」
メイミアが人集りから眉を
「ウチもいったげる」
息の切れたアユラだった。
何やら
「一人で充分だろ? メイミアに付き添ってもら」
「アユラで!」
思わず先生の声を掻き消した。
瞬間紫色の魔力を噴き出すメイミアが顎を上げて睨んでくる。
目の前の出来事に感知もクソもないが、干渉自体が
その様子をミグサが慌てておさまえる中、アユラに腕を引かれながら顔から火が吹きそうになった。
◇◇◇
座った椅子からカーテンが開いたベッドが見える。
「君って丈夫ね…」
渋い顔で言う保険教師が分厚い本をバシッと閉める。
涼しい室内には医療器具がありじっくり診察された。
「ズバリ。
言って白衣からペンを取り出す保険教師。
続いて本棚や器具の密集する机にそう書いてある用紙が提示された。
「ども」
納得するまで突き詰めた様な達成感が伺える。
「所で君、生まれは白魔術界で記載されてるけど合ってる?」
「…うん」
顔が近かった。
また確認事項なのか冷淡に診断内容を記入し始める保険教師は続けた。
「粛清対象と遭遇時の合言葉覚えてる?」
ペンの音が止む。
唐突過ぎて「なんで?」と聞くと薄笑いで問われる。
まるで保健室の明かりが遠のいて寒気が漂い始めた。
「第六位、青い髪は瞬麗の黒魔術師にして智慧を喰らう。囮は巨体の者にせよ、さもなくば全情報網が喰われるだろう」
尋問かの空気感で「次は?」と聞こえてから時間が経った。
理由は答えていいか戸惑ってしまったし、嘘を付いても見破られる可能性が大なので仕方がなかった。
「墓の骨見ぬ生け贄術師は底なし地獄。腕切り舌切り屈さず沼地の外へ退避しろ。第五位」
「意味は?」
「知らない」
「そう? 最近被害が多いそうよ。餌食となった生殺しの写真や四肢を魔術師達にばら撒いて脅迫してる大災。何が怖いって場所が写真に書かれていて行ったら最後、次の犠牲者となるらしい」
「管轄内で?」
「両方あるらしいわ、けど比率は管轄外が多数よ」
「最近粛清された人っている?」
「最近はヴェンネルバリという人物が二日前に粛清されたわね」
「…。」
幼少期に関わりがあった人だった。
詳しくは正式な公表が二日前にあったそうで黒魔術界へ潜入した魔術師達の有志らしい。
以降から携わった人達が災いの様に狙われているのが最近だそうで、ヴェンネルバリとは黒魔術師の弟子入りから会ってはいないが、意識が乱雑した。
「君の方角は怖い。まあ気を付けて!」
「…あ。はい」
結構軽いが正直悲しい。
弟子になったと喜んでいた姿がもう居ない。
何より病弱な体質が治ったと慕っていた師は黒魔術界の第五位だった。
「戻ります、お世話様でした」
体が良くなった気がする。
正確には死と比較したら大した事なかったと痛感した所だった。
歩き出す背に声が掛かる。
「それってね、自分と違う魔力を消耗する事で抗体が誤作動を起こす
言われ保健室の電気が消える。
数秒の静けさに紡がれた。
「まあ成長期って可能性もあるかな。魔力の性質は大人に成るにつれ変わるものだからね…だとすれば、闇の性質に特化してるね君は!」
楽しそうに語る保険教師に、半ドアの出口を行った俺は改めて挨拶した。
「はいお大事に」
水滴の付いた廊下からシトシト降る窓に人の姿が無い。
校舎を繋ぐ道なりで
俺は突き当たりの階段を上がった教室に辿り着く。
気配のない、消灯する教室の扉を開けると。
「遅いよ‼︎ 五十分よ五十分、すぐ治るからって言ったよね?」
居ないと思っていたらアユラが傘を持って駆け寄った。
「言ったけど、授業はどうなって」
「今日は午前授業! 魔力測定で終わり…約束したじゃん奢りって。待ってたんだから奢ってよね」
胸に傘で叩かれた。
「知らなかった…じゃ一度家帰って準備して。あっそか、風呂入るから待ち合わせ時間は」
「はあ? そのまま行くに決まってるでしょ。小学生か」
予定立てが
「煩いな! 傘持って来て無いんだよ」
意地で突き通そうとする俺に首を傾げるアユラは傘を掲げた。
「そんなもん、ウチの使えばいいじゃん?」
と、流れる会話で外へ出て
「さあ入って入って」
手招きされて意味が分かった気がした。
「使えばって…」
下駄箱の屋根で歩が止まる。
また、アユラが指先で髪を
「二人で使えば濡れずに済むじゃん? これしか無いし…なにその顔は!」
赤らんで片手に力んでいるアユラが、しかし燃え尽きた様に。
「放火バラすね」
瞬時に察してしまう。
体が反応して傘を取り上げていた。
「よし行こう‼︎」
話を捻じ曲げる。
その隣でクスクス笑う様子に違和感を覚えている一存で。
「あれれ〜。やっぱりシオン君が犯人だったのか」
「ハメやがって」
ゲラゲラお腹を抱えて更に。
「やっと出してくれたねシオン君、その顔だよそれ! いい顔になってる」
…やっぱりこの人苦手だ。
◇◇◇
「注文おねがいしま〜す」
天候不良でも賑わう喫茶店で、来客する景色をぼーっと見ているテーブルにリボンを飾る店員がやって来る。
「ストロベリークリームパフェにキャラメルティラミス。ミルフィーユ。あとモンブランとレアチーズケーキで。シオン君は?」
言われ食べ放題で心底よかった。
注文してほとぼりが冷めていたら思い出したかの声が上がった。
「そうだ。後で聞こうと思ってたんだけど、付き添いの時。メイミアちゃんが睨んでた気がするんだけど…やっぱりウチが行ったの不味かった?」
上目遣いなのか俯いているのか、しばらく呆然と眺めて思う。
「ん…それは、朝の目覚まし時計を止めようと勢い余って吹っ飛ばしちゃって。メイミアの寝てる正面のガラスを割っちゃったからそれで怒ってるだけ。気にしなくていいよ」
「そっか〜、やっぱり付き合ってるかと思ったから。寝てたの⁉︎」
くどいし、
「全然想像と違うよ」
店員がアイスコーヒーを持ってくる。
我慢と一緒に飲み干す中アユラが複雑な表情で突っ伏す。
「ヤッたんだ」
思いっきりブチまけてしまい、濡らした衣服に怒りが湧いた。
「俺に恨みでもあるのかおい‼︎」
無反応の対面で、視野の隅に小さい頭部がぴょんと跳ねている。
覗くと幼い声が耳に届いた。
「お兄ちゃんだ」
「…優斗君?」
走って小さい手を椅子に付けて隣に座る。
可愛い。
また、見広げるミグサの姿があった。
「よう…! 珍しいな二人って」
ぼんやり魔力測定の話題が聞こえる。
一方で
「ねえ僕この席に座りたい!」
「いいよ、優斗君は何が好きか」
「駄目だぞ、デート中なんだから」
──なんで?
癒されてるんだけど?
「じゃ」
憩いの場を取り上げていくミグサは、ケーキを持ってくる店員に断り離れた所へ案内された。
「空いてるんだから座ればいいのに…あの、そんな急いで食べるとお腹に悪いんじゃ」
「ホッといて! 丈夫なの」
ならいいけれど、ホイップがハーフアップの髪に付着してる。
きっと知らずに食べてるから拭き取ってあげたつもりだった。
「近寄んな!」
怒鳴られた。
思わず謝っている時に
「もしかして…さ!」
衝動に駆られながら前に乗り上げる。
アユラが息を飲んだ。
「ミグサ好きなの?」
考えれば俺と親しい関係は誤解が生まれるから怒られたと感じる。
けどミグサとは仲良いし、俺がメイミアと付き合っていたらもっと遊べる関係を築けるかもしれない。
だとしたらアユラはミグサが好きで合ってる!
「は? 何でよ」
暫く会話を交わす事は無かった。
◇◇◇
太陽が返り咲いている帰り道。
俺はさりげなく傘を持っていた。
「晴れたね」
きっと無理に言った別れ道で、
「送ってく」
気まずさを打破したかった。
「いいよ近いから、ご馳走様でしたシオン」
それが、いつぶりの笑顔で言われ、傘を渡し。
「いえ……‼︎」
冷気に煽られた。
突然。
陽の方角に塗れる、逆さの異質。
人混みに紛れて映る人物に腕が止まっていた。
「どうかした?」
「…ううん。帰るよ」
アユラに傘を渡す。
改めて同じ場所を観て──家族連れの光景に変わっている。
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