第65話 呪縛怨霊

 誰かの名前だろうか。

 イカれてるというのは輪廻の概念が消えているし、そんな奇天烈的方角は地獄の系統だと存分に笑っていた。

 何故注目を集めているかは、凛界と地獄は犬猿の仲だとの事で。


「醜悪が‼︎」


「恥を知れ‼︎」


「大犯罪者が‼︎」


 万人てんしの睥睨に実感する。

 そうなりたかった模範に言われれば尚更顔が引き攣った。


「「史上最悪の悪魔が‼︎」」


 何か想像と違う。

 悪魔……?


「ぶぶっ、寿命分笑いました。この混乱に紛れれば貴方はメイミア様を助けられる可能性が飛躍していたと、後の祭りですが、少し希望がある様で」


「どこが?」


「地獄は死神位しちじげんです。階級は一つ下ですが、そう定めるのは天使であって、下に位置付ける最重要に指定していると言う話し。こちら側にいたんですね?」


「あのさ。さっき地獄って通ったかっていうぅ⁉︎ 話が聞きたかった!」


「いないです」


「魔力(の概念)が通用しない、幻想も。何なんだ一体……」


 俺は天使に抗えていた。

 軍勢が近距離になると、天使の剣や弓や槍が消失している。

 攻撃は一時的に警戒の態勢となって休止とする天使達。

 それは伺う限りに打つ手無し、かは不審している様で、


「どう言う事だ?」


「私に聞くな」


「そうだ今年大凶だった」


「諦めてはならない。誰か地獄の方角に携わる者は居ないか?」


「居たら大罪ですよ…」


 困惑している。

 でも時間の問題で攻めて来るはず。

 抗えているのはあくまで攻撃しゅだん、戦線は未知数の術式だらけだし白い靄の様に移動する天使達に対応できるか…。

 何より本領を発揮されていなければ刀が擦り抜けて当たらないし、何かいい方法を考える間は対立し合っているだけで浮かばず。


 スウッ──

   ドクン──ドクン──

     ガブ ──


 一帯の景色が真っ黒の泉となる。

 静寂に浸っているかの感覚が、覚める頃には橋の上に、誰か居る。

 「干渉しないならさせればいいじゃない?」と降りて来る。

 人。

 背に染色的な黒と混じった翼を羽ばたかせる?

 眼帯している。

 片腕を隠す何らかの現象じゃなければ、ない。


「穏便であれば出張らずに済むと思っていたよ、契約者。でも残念。少数の時点で奇怪だし、無理あるよ。それでそいつに何を捧げた?」


「契約…、捧げ…た…」


「ふふ」


 会話より風貌に意識が持っていかれる。

 凡そ天使は模範的な見た目で判断し易い、けれどこの人には引き込まれそうになる心が反応する。


 ◆そうなってはいけない◆


 恐る恐る見つめているとその人は舌を引っ張り出して、


「ほらお目めと左腕と味覚、肺を片方捧げてる。君は?」


「…弱らしてどうするのかそこら辺から聞きたいんだけど?」


「うふふ」


 地に腕を浸ける様に入れ、剥き出す牙が赫っている。

 周りの天使達は一気に顔を歪めた。

 俺の足元に黒い手が生えていたからだと思う。

 揺ら揺らと、黒い手に足が掴まれていく。

 まるで黒い花畑に引き込まれる感覚が、絶望だった。

 何かに人体を捧げてるからか、この人の方角に行かせたくない拒絶感がある。


 悪そのもの。


 無数の模範なる未来に外道なものだと。


 ──どうして?──


 そうよぎる。

 今俺は善の目線にいる心地で。

 自分の都合に善を使うなんて。


 そうか。


 いつの間にかこの人に理想像を打つけていた。

 その時シイナから「メイミア様と同じ」と聞こえる。


「熾天使です」


 這い襲う剣が腹にあった。

 咄嗟に剣で受け切っていたが、危うく真っ二つになる所で受け止めさせる太刀筋だったと悟った。


「因みに同期なんだ? こんなに悲しむなら出会わなかったらって悔やんでる、殺し合っていい?」


「やってんじゃん」


「オッケーい!」


 余り天使っぽくない。

 熾天使というのがそうなのか、背後でふわっと降りるこの人特有なのか。

 そんな不審から黒い手に振り込んでいた。

 斬っては新たに生え、掌から生え伸びる手に体が絡み、視界が断切した。

 四分割、十六分割、何だよこれ、食物連鎖の上に喰われてる気分だ。


「それでいいよ。戦意喪失している間に終わるから、シイナとの契約は破棄しなさい。さもなくば」


 遠に真っ暗で声しか聞こえない。

 契約破棄…ってあれ。

 居ない⁉︎

 シイナ‼︎

 何処だよ?

 ……クソ。

 色々鬱陶しいし邪魔だし見えねえし、纏わり付くなよ、消えろよ、ウセロ…。


「凄いね、本当」


 視界が戻った。

 身の回りが飛散しシイナがその人に拘束されている。


「崇拝に献上されるべき人なんだ。三叉槍はちょっと怖いな」


「畏れてる様に見えない」


「なら聞かせて?」


 そうして「君はメイミアの何?」と聞こえる。

 本人いるんだし聞いてみたらと思ったが沈黙。


「なんでメイミアに必死なの?」


「別に」


「そう。会頭ってさ、いつも居ないし君に任せっぱなしだった」


「そう?」


「急にヴァレンを連れて来たと思ったら君に任せるってさ、酷い話しだよ」


「…そうかな」


「君はヴァレンを選んだの」


「…」


「君を不幸にしている所に行かないで、私と行こう?」


「行けない」


「なんで?」


「俺は。シイナが居てこの地に来れた。どれだけ周りに反対されようと」


「君を不幸にしてるのがそいつらなんだって」


「だったら。自らが道導になればいいって、この人達を見て思えるから」


「はぁ。やっぱ距離感ないよ、全然」


「俺の力になって欲しい」


「うん!」


「凄い悲しかったし、でもあの頃より人の心は分かる様になって。え」


呪縛心中じゅばくしんじゅうする気だった」


「何それ?」


「心の調和の御呪おまじない。破ったら骨もろとも灰になる」


「体を大切にして欲しい」


「そんなおっかなくないよ、契約を守ればいいんだから」


「……分かった」


「気、だったの。私の契約者は呪縛怨霊じゅばくおんりょうとして心中を代償とするの。それが君の生命に繋がらなかった。君の中の封印も、崇拝系守護念も、シイナも、悉く邪魔されて本質的な居所にいけないけれど、契約は易々としない方がいい」


「よく分からない」


「君の理性が無くなった姿に愛感じた。もっかい感じれるなら死んでいい」


「いやだから」


 一帯の黒い泉が既に捕縛していたかの様に、泉内の天使達が五臓六腑の断切と共に泉の中に身が堕ちる。


「干渉しないならさせればいい」


 裏切りと叫ぶ声が響いて止まない。


「誰に言ったと思ってるの鈍感」


「分かる訳ないじゃん」


「ごめんね意地悪なんだ。私をあんな風にしたメイミアに夢中な姿を見てたら、嫉妬しちゃう。いいんだそれで、私にだって非がある所か、今だって未練たらたら」


「あのさ」


「ん?」


「何か視野が明るい」


「奇遇だね」


 これが何なのか分からないけれど、漲る。

 凄い漲る。

 生命力ってこういう事を指していたのかと。

 ああ。


 ──幸せかもしれない──

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