五章 紡いで来たものと残されたもの
第31話 ひと時の安らぎ
食卓で体育座りのメイミアと対面する。
晩ご飯はカニ鍋と河豚というらしく、お椀に注ぐ翔とメイミアで料理を囲っていた。
「これ河豚っていうんだ。てか和食凄え…俺なら焼いて食うしか頭が無かったわ」
俺は大皿に白い花が咲いてるかの盛り付けに感動した。
というのも興味本位で料理を眺めていたら食材をさばく姿が超真剣で、場違いながらに待っていた食卓がこんな豪華になると思わなかったと。
「…はっ!」
「何⁉︎」
「さばけてよかった」
「料理好きなの?」
「ああ…好きだ! 何気にシオンって毒耐性ありそうだよな!」
「毒? ねえけれど?」
「………クスっ」
何故かメイミアに笑われているけれど、翔に催促されて食べる鍋も河豚も美味しかった。
食事ってみんなで食べるとこんな感じ、なんだなーと二人の顔を眺めていた。
──安らぐ──
思えばメイミアと何かを食べるのはここに来てからで、少し罪悪感がある。
なのに落ち着いている実感が懐かしい。
◆冷たくて暖かい◆
あれ。
なんで?
純粋に楽しめる、友達と、メイミアと……。
翔がいるから?
それだけ?
安らぐってメイミアを受け入れてない、か。
あれ。
なんか懐かしくて無性に嬉し。
◆なんで楽しめるの?◆
目の前が真っ暗になった。
頭の中で声が響く。
──なんで離れるの──私が嫌い──君はヴァレンを選ぶの──
心臓が圧迫される。
楽しいが脱線する。
「そんな似てます? 似てる…似て…似てる?」
「…へ、似て、ああ」
「「そっくり」」
笑いに満ちる食卓で鼻にくっ付きそうな翔が尋ねていたので、即答した。
メイミアと眺めていると汗を掻き半開きの口から「…へえ?」と、もどかしさが醸される。
◇◇◇
俺は五連敗を阻止したいゲーム中にふと思い出した。
「そういえば集会ってやつ。アレの時間はいいの?」
晩ご飯を終えたテーブルは絵札のカードが山になり、メイミアは就寝している。
「おう。辞めたからな…1」
「いいのかよ? 大事な所だったんじゃ…2」
言って手札を切りながら慎重に進んでいたゲームは我慢の限界だった。
俺は手札を四枚山に重ね動揺を打つけていた。
「元々は兄貴を慕った仲間達だからな、名残惜しくて俺を迎え入れた様なもんだしダウト‼︎」
「……そう。…もう嫌だ、勝てる気しないわ」
絵札のカードを集める俺は永遠に減らない上に大量の手札が舞い戻る。
それを宙に投げ出し、寝そべった顔面にカードがバシバシ降り掛かり飛び上がった。
「クソ‼︎ 何で分かるんだよ俺が出した絵札‼︎」
何もかも上手くいかず怒りを覚える。
俺はカードを掻き集め切り終わった。
そして暑い。
「だって四枚持ってたしフルで出すって? おい待て何する気だ」
得意気に語られる。
また汗で濡れた服を脱ぎかける俺に遮ってきた。
「汗で気持ち悪い…! ちょい、何すんの?」
邪魔されたまま一向に退けないその手を避けようとした行いで、翔の顔に血が上りだした。
「だったら風呂に入ってこいや!」
一喝した翔に渋々従う俺は風呂場でブツブツ言いながら髪を洗う。
「…何なんだよ…人をわいせつ物扱いしやがって……」
泡を洗い流し浴室を出た。
水気を拭いて、鏡に立って、ドライヤーで髪を乾かしていると。
「なあ、暇だし遊びに行こうぜ!」
洗面所の戸を開ける翔が楽しそうにそう言うので「うんいいよ」と、髪を梳かす片手間に目をやると真っ赤にする顔が映った気がした。
「…普通、着てから乾かすだろ」
一瞬で消えたかと思いきや、戸越しから声を荒げ逃げていく足音などが洗面所を反響させている。
「お前故意的にやってんだろ‼︎」
ドライヤーを投げて怒鳴り散らしたら、背後に現れるメイミアから「煩い」とはたかれ「ふん」と洗面所を出て行かれた。
「お前は恥ずかしがれや変態!」
思わず憤然しながらタオルで包み、纏わせる姿を凝視していた。
鏡の前に写す自分の容姿、それを改めて見ると冷静になっていった。
「誤解されても…無理ない、のか…」
呟いて、自分の容姿について思う所が無い、訳じゃなく。
特に青い髪が背に掛かる長さなのは罪人だから人前に出ずらかったし散髪する習慣がなかった。
けれど誤解される根本的な理由は恐らく、この顔だ。
女性よりの肌色と中性的な顔立ちは我ながら少年とは呼び難く少女と思われて当然かもしれないと。
「はあ…、傷つくんだけど」
思えばアルタイルでもティバイでも、同じように気にした事は幾らでもあったわけで、印象にある言葉で示すなら美貌と言うんだろうか。
でも豚に真珠とか他人にどう思われても基本どうでもいい、はずなのに何でこんな些細な事で傷ついているんだか。
「バカバカしい、容姿なんてどうせ遺伝だ。なんなら文句の一つでも言って……やる、親はいないんだ」
◆なら俺ってどう生まれてきたんだ◆
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