追憶戦術

神崎蒼葉

一章 魔術世界

第1話 不可視な人外

 砲弾かの拳に見舞われ授業が浮かぶ。

 ・身体能力を上げる作用と。

 ・魔力という才能を操る事が我々の使命と。

 一度の失敗で四肢を失う魔術師は実戦的練習を重んじるとか、よし、逃げよう。

 納得し諭すが、この化け物どうしよう!


「漸く声が届いたなら集中しろ」


 圧巻の筋量、胸の硬さ、魔力に筋力が促進する先生は硬い。

 繰り出される拳は頬を掠らせ、腹に喰らい、この訓練に僅かな魔力で凌いでいた。


「してるって」


 ヒュー──ヒュルルル──ドクン──グシャ──


 戦っているのは人、なのに、吐息の様なものに撫でられた感触がる。


「いいや、当時の生命力そんざいかんは今の比じゃ無いだろう」


「存在感は死活問題になるわ!」


「喋ってる余裕があるなら」


「余裕なんて…」


 フゥゥ──

  ビリュルル──


 また、不気味な音に気が散る。何、うろこ

 大きい、鱗が後ろにいる?

 ──精一杯の攻撃に背を取られ、こんなのどうやって勝つんだよ。


 ◆いやいい、いいんだ◆


 遠のく意識に砂ぼこりの視界が傾き出した。


「魔力は体の隅々すみずみに届かせて強化できるが、今日のお前は迷いが多いぞ。背中に使う魔力が多かった様だが、抑えるべきは前の上半身だ、それと脚力にもその場で切り替えられると速度の向上に繋がるぞ」


「努力、します」


 拳は腫れ皮膚が痛む、全身はジーンとする放心状態に「次は魔術の実戦だ」と先生。


「終わり、じゃないの?」


「ふんだんにと言ったろ」


「もう。魔力無いよ、チビっとしか」


「なにも大魔術をやるって訳じゃない、初歩的な魔術だからチビっとで充分だ」


「無いって言えばよかった」


「そう言うな、合格したら帰っていいんだから」


「今帰りたい」


「今から魔術を放つ、それを魔術で受け止める事が出来れば合格だが、流血の覚悟があるならさぞかし簡単だろう?」


「いやあれは…つか初歩的な魔術が使えないのに受け止めるも何も」


 俺は全身の放心を忘れ、体から紅い光があふれる先生に立ち上がった。


「本来なら使えて当然なんだ。魔術をサボり続けたお前が悪い、だから今使えるようになれ」


 目前の砂地に魔法陣まほうじんが描かれる。

 そこから次々火種ひだねが発生し「メチャクチャな」と零してる頃には気温の上昇。

 火種を引き寄せる先生が低姿勢で構えた。


「メチャクチャなんだよ……べついってのは」


 声と共に分散する火種らは婉曲えんきょくに放たれ、体感ゆっくりに感じる。

 俺は優雅に躱す、はずが。

 …なんか増えてね?

 火種の数が予測の遥か多い。

 その要因は上にあった。

 上空に魔法陣が増え、迫り来る火種らに聞き返す暇無く。


「ムリムリムリムリ、熱! ふざけんな。服が燃えるわ殺す気か!」


 砂地の魔法陣は俺に意識を向けさせるもので、本命は上空の魔術。

 また追尾ついびして来る火種に逃げ回る中「この魔術の特性は俺の魔力に呼応して魔法陣から発動し続ける。破壊はかいしないかぎり半永久的な追いかけっこになるんだが…」と聞こえる。


「その説明の前に初歩的な魔術を教えてからだろこの状況‼︎」


 破壊という不可能な助言に、本来破壊より狙うのは術者と、想像している辺りに疲れや、魔力が底を尽く重い体と成り果てて魔法陣が消える。


「いい。お前にはぬるい手段だった」


 火種も消滅し、安らかな校庭へ。

 束の間。先生から膨大な魔力が砂地を奔る。


──鬼神化身きしんけしんし与える──大気をおこ妖艶ようえんまどわしうなれ──焔艶セルピエンテ


 言霊えいしょう。魔法陣が上空にきざまれる、異次元の大きさの不気味な模様もようが出現。


第六魔法陣セクス 焔艶セルピエンテ


 その言葉に呼応した。

 灯火が模様に宿り、焦がしていく。

 まるで魔法陣を呑んでいるあり様は、人外の如く、這い回っているみたいで。

 息切れの先生に隙が見える、補修を終わらす希望が舞い込んで、いるんだけど。


「これが魔術。訳わかんね…」


 鼓動が早まる。


 知らない。


 言霊なんて。


 魔術と無関係のもの。


 なのに言葉で作用している魔力、この現象は何。


 『震えてる?』


 『それとも嬉しい?』


 ・煩いよ、メイミア。


「知らなくて当然だ、シオン…これならかわそうなんて思わないだろう?」


 温度を飛躍ひやく的に上昇させる魔法陣の爆炎。

 飛び散る炎から共鳴するかの炎で閉じ込められ、時計回りに渦状化。

 肌は熱風に晒され、渦がせばめてくる中、心で(ノウェム)と呼び起こす。

 そうして身を呑む炎は空高く燃えたぎる火柱の様だった。


「しま…やり過ぎた、シオンを救出しなければ…」


 消える炎。

 俺は疲弊して膝をつく所に愛嬌を込め「その様子じゃ動けそうにないね?」と「じゃ!」を残すと白目を剥く先生。


「ゴラ待て‼︎ 俺は魔術で受け止めろと言ったんだオイ……待たんかあぁぁぁあああ‼︎」


 遠退とおのいていく怒鳴り声は約二年過ごした思い出をなぞりに正門へ寄っても聞こえる。


「これでお別れか……へっへっへせんせい


 俺はさっき体で覚えた魔法陣を起こし、可愛い火の粉が降り出した。

 微々びびたる魔力でも火の粉が門に付く火加減で。


「おー」


 魔術ってどうくんだろう。


◇◇◇


 少し早い夜の道は涼しく、開放性に優れて心地良い。

 そっか。

 何処かで現状を肯定してる。


 またいつもみたいにアルタイルで良いんじゃ。


 (まだ…間に合う…また…繰り返す)


 そうして変わらない。


 いや。


「行こう」


 向かう足を速め「ッ」と打つかりかけた。

 その時「残り十七時間です。焦らずとも間に合いますよ」といつから目の前にいる。


「どうも。ありがとう、ございます…」


 掌程の黒光りの生物に「いえいえではまた!」と短い手足で胸の服を掴まれ──グイグイと入って、くる。


「おぃおいおいおい⁉︎」


 体の中に入ってくるような、り抜けているのか、引き止めていたら「どういたしました?」と、短い首を傾げてそう言っていた間にそっとつかんで投げ飛ばした。

 直ぐに身体を確かめていたら、ゆらゆらと黒光りの生物。


「災難です、目が回って……おぇ」


 液体っぽく、個体っぽくもある触り心地、そんな感じが不安定に浮遊ふゆうゆるりと距離を詰めてくる。


「何なんだよ…どっから沸き出で来やがった」


「僕は本から生まれた精霊ですよ。シオン様の中から出て来ました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る