第3話 契約相手

言われ胸に寄る黒光りの生物に体をさすり付けられる。

悪寒が凄かった。


「止めろ」


俺は素手で捉え顔前に持っていく。


「精霊だか何だか知らないけどこれ以上かれてたまるか」


念を押す、するとビクっと振動が伝わってくる。


「拒否は困ります」


「こっちの台詞だ。こんな得体の知れない生物が体に居たら何されるか分かったもんじゃ……!」


言いながら色んな角度で観察して、吐きそうになった。


「さっきさ、俺の中から出て来たって?」


聞くと縦に振る動作を繰り返す黒光りの生物。

いやいやと内心疑った。

けれど心臓は止まりそうで耐え切れず、目をつむり。汗が吹き出す俺に決めての。


「はい」


二文字により逆流を抑えていた自我を失った。


◇◇◇


「落ち着きましたか?」


その声が尚ぶり返してくる。


「頭痛い…目眩めまいがする……気持ち悪い」


あんなものが憑依ひょういしていたんだと思うだけで背筋は凍るし、ひどい事をされていた想像が気持ち悪いし、事実を求め観察する悪循環から。


「うぷっ」


耐えているとささやく声が頭に響いた。


「そこまでされると流石に傷付きます」


同時に浮遊力が下がって項垂うなだれた様に見える、そう思い。


「なんかゴメン…でも」


「分かってくれたのですね、シオン様!」


派手に飛び込んでくる黒光りの生物をかわし、壁に激突げきとつする光景に続けた。


「体に居られるのは嫌だ」


壁から弾力感で返ってくる、穴の跡や破片を散らばらせて来たけど怪我のない体で「うっ」と繋げてきた。


「何で嫌なのですか?」


「普通嫌だろ。一応言っとくけど、俺の血とか臓器食べても美味しくないからな」


「あの、僕を何だと思ってるんですか」


「新手の寄生虫」


「は? こんな可愛い寄生虫が何処どこにいらっしゃると?」


空気をりジグザグに飛びねる黒光りの生物が、どういう心境か分からないがどう見てもヤバイし、また催しそうになるから。


「そうですか、どちらにしろ見た目が恐ろしいので寄生虫じゃなかろうがお断りします」


そう、あきらめてもらうつもりで言い切った俺は何をしてんだろう…。

相手の術中に掛かっていた様な、あおぐ様に視界を高速一周した黒光りの生物に虚無感を抱いていたら。


「恐ろしいって。仰いまして?」


「うん」


「え嘘本当に…僕が…もう! 照れますよ!」


更に増しながら、戦がれる髪を抑えていた。

意味不明。

こう言い掛ける時だった。

俺は不自然な風に硬直した。

つぅーと。

纏わりつく。

風に含まれるそれら感覚があの方角に当たる。

誰?

しかし探っても人一人いない光景はこの生物しかいなかった。

思わず身体が危惧し注視する。

すると、ぴょこんと跳ねるその、水面の様に頭上の空気に触れたかの現象から黒光りの生物は液状となって地にドロドロとなった。

水面の様に揺れる空気から煙が降りいて液状をおおい、充満していく中から人の影が見えてくる。


如何いかがです、如何ですか⁉︎」


下方を仰ぐ風で足首と思わしき肌が露わになった。

煙が薄まるとそでを折った小麦色の服にくるぶし丈のスカートを着る、黒髪の紅い碧眼へきがんの少女が告げている事に。


「──ッ⁉︎」


両手を繋げた少女は目線をしずめ、詰まっていた俺を紡ぐ、しかし。


「やけに凝っていらっしゃいますね、興醒めしました」


わずか数十秒の出来事から、少女が掌を振い空気を揺らす、煙が充満しあの生物に戻っていた節目から「ふう」と繋げて喋る。


「大袈裟に褒めても僕は…あの、何を驚いて?」


顔前でぴょんと跳ねる印象と少女の姿と比較し混乱した。


「何って…何がしたいの?」


「ですから戻りたいんですってば!」


すっ飛んで来る生物はりずに、二度目の壁へぶつかっていた衝撃しょうげきが地面を震った。


「精霊と十七時間って事は分かったから」


流れで言っていた。

空気を使わす現象が、戦慄が、歯止めをかけられる内に。


「痛いんですが、やっと理解してくれましたか!」


「…え? あ、似てるから、名前は精霊何だっけ?」


「その、精霊は名前でなく。いえ、伝われれば結構です」


「精霊。うん(さっぱりわからん)……名前って?」


「ええ、名は。シイナと呼んで頂ければ?」


「シイナ。分かった……でさ、何で俺の中にいたの?」


「契約を交わされたから、です。異界の書の事項に記載されていなかったですか?」


──ヤベ全然見てねえ。


「あ、あははは! 見て、なかった。ゴメン…もう一度。分かりやすい説明でお願い!」


「はい? 異界の書と契約成された瞬間、封じ込められていた僕が解放されました。同時に契約者であるシオン様へ僕の魂は移行したのですが」


「なら生まれたんじゃなくて封印されてたの?」


──小難しい語彙が分からないが不思議とそこは気になった。


「生まれましたし封印されてましたが、精霊として…‼︎」


声を上擦うわずらせるシイナがびくんと、不審な挙動に変わった。もぞもぞと俺を軸に回り始めて。


「で、ですよ? シオン様とは仮契約ですから、そろそろ戻らせていただかないと消滅してしまいますいざっ!」


飛び込まれたシイナに服を掴まれる、が予測はしていたし払いながら。


「嫌だって。覚悟の種類が違うっていうか、体に入れるのは怖いし。でも消滅されるのは気が引けるから何か他があ゙あ゙」


考えに夢中でいたら手先を弾かれる一瞬の隙に体へ擦り抜けられた。


「嘘だろ。出て来てくれ‼︎」


………出て来いともうされましても、仮契約中で上手く馴染なじめていないのです。僕の意識もじきに無くなります。また次の機会に………


「機会っていつだよ! つか体ん中で何するつもりだ…返事してくれよ」


シイナの反応がない、嫌だ、本当に。


「最悪だ…」

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