第38話 御礼参り

満月の森林は熱気が溢れ返っていた。


「こういうのムリ…」


病院の入り口にいるとそう聞こえる。

縮こまる部長の声だった。

また翔が対立してるかの光景があり、鎖、木刀、鉄の棒、それらを所持する大勢の注目に苦く笑い。


「多分…御礼参り…」


もはや苦い表情だけ残ると大勢を束ねる先頭の男が口にした。


「翔さん、ある奴に二人がられたそうだ。居場所を知らないかい?」


刈り上がった髪、体格はゴツゴツした印象で手に持つ鉄の棒を宥めている。

恐らく大勢の代表者であり、充分に待ち続け再び紡ぎ出す。


「応えてくれないか。病院送りにされた現場で、挙句そいつと仲良いらしいな。全員失望だよ」


鉄の振動音が響いて止まず、大勢の中に多くの遺憾が伺える。

更には喜悦な顔を貼るシイナが俺を見つめていた。


「いい所で見つけました…」


歪み切った囁きを更に。


「その人なら僕らの後ろにいま」


「別に庇うつもりも無かったが、刃物を振って病院で済んだんだ、良かったんじゃねえの?」


「そうか。アンタから聞ければ満足だ。これで未練なく始末できる」


翔の発言でシイナの口頭が消える。

代表者は鉄の棒を一振りし大勢に活気が醸す中、目一杯首を振っている部長のそばで。


「なら失望ついでだ、お前らは死人を慕い過ぎてる。これを機に形見は終わりにしてやれ」


「「⁉︎」」


凍り付くかの緊迫と化し代表者が歯を立てる。


「俺らを拾ったあの人が全てだ、ここに居る連中は片時も忘れやしねえ‼︎」


唸り声と共に芝からあり得ない足音が立つ。


「私どうなるの。嬲られる、死ぬのかしら…」


大勢の憤然の風貌に部長は膝から崩れ落ちる。

しかし思い出した様に立ち上がった。


「こっちには総長が居る。そうよ。この人達の頂点だよね大丈夫よ!」


部長にしがみ付かれる翔は優しい面影で応えていった。


「相手は二百人だ。大丈夫な訳ねえだろ‼︎ 逃げるにも場所が分からねえしどうすんだこれ…」


壮大な敵陣を右往左往に見渡す。

まるで圧倒的な支配下でいた姿が狼狽えるかの様に。


「アンタ総長でしょ! しっかり特攻なさいよ‼︎」


「ざけんな人間卒業するわ‼︎ いやそんな事いってる場合じゃねえ…」


その光景に代表者は口を開く。

顔付きから見苦しいと言わんばかりに。


「あの人の兄弟と思ってたが、やはり血縁は見た目だけだな…アンタはあの人と別人だ。これ以上醜態を晒されては沽券に関わりそうだ」


充血した目を見広げる。

残りの距離を加速させ、部長を匿う翔との狭間に、現れる。


「だな、沽券に関わる」


代表者は横目に薄笑いを写した途端、唖然の顔振りで止まる。

以降、森林を騒がす怒涛の騒然となった。

しかし祭りの様な熱狂に耳を澄ますと「静かに、耳が壊れる」と限界の声が上がる。


「煩えな‼︎」


歓喜の騒ぎにブチギレたのはミグサだった。


「死んだ筈じゃ…、夢なのか…」


代表者が零していく。

また感嘆な表情で続いた。


「殴って貰っていいですか?」


「いきなり何カミングアウトしてんだ…つか早く行けよ? 面白そうだから参戦しに来たってのによ」


ぶっきら棒のミグサ。

それが謳歌の様な掛け声が森林に駆けていく。


「死なねえよう見てやるから行ってこいよ?」


聞き手側からすれば挑発や情熱に類する籠った発言。

しばらく静寂した。

そして静寂を噛み締める大勢は嬉々として叫び出す。


「「しゃあぁあああああああああああああああ‼︎」」


我こそが討ち取ろうと人々は翔に突っ走る。

笑い、笑い、咲い。

闘争がミグサにより灯されたかの事態だった。


「ギャァアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎」


「あの野郎が!」


涙がちょちょぎれそうな部長。

方や鉄の棒を全力で振り出される翔。

鉄の棒を腕で受け止めるがその手首には鎖が巻き付かれる。

鎖に引かれ体勢が崩れる翔はみるみる囲まれていく。

傍からは袋叩きに見える。

なのに翔は降り掛かる攻撃に無防備で、避けるという行為が部長に被害が被ると配慮して何もしていない。

人々は高揚の中で一心不乱に武器を、翔は致命傷を避けて凌いでいる。


ああ…。


「かっこいいな」


「「──ッ‼︎」」


俺は翔の隣で言った。

続けて右腕を振り人々は吹っ飛んで体勢の攻撃が止む。


「シオン」


翔に呼ばれる。

もちろん言いたい事は分かってるつもりだ。


「部長」


「はい」


俺は部長の手を掴む。

「歯を食いしばって」と伝え遠心力の様に回す。

そうして叫ぶ部長を放した。


「ミグサ! この人はアユラの血縁関係だと思う。制圧するまで守って」


言い放った。

また部長に気付いたミグサは「え?」と唖然してる間に、流れ星みたいに直撃する。

部長は無事抱えられた。

ミグサは反動で後頭部を強打するが大丈夫である。


「助かった」


「おう」


「この後、どうする…」


聞かれ気が引ける印象を感じる。

翔からすれば元は友達や仲間であって、仕返しがしたいではないらしいが。


「どうするも家族に仇なす奴は許さないし、でも強え奴は生捕る。こうやって家族が増えるよ?」


「ブッ」


翔に寛大な親父だなと言われた。

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