第68話 主位見参

 上空に天使達が向かう。

 戦線へ進軍していく頃「叛逆とは」とガブリエル。

 神に仇なす代償は生命の尊厳剥奪、血筋を同様に始祖を根絶やす完全無欠の粛清と説く。


「大罪のあるべき因果は我らの前で」


 無力だとラファエル。

 善の成長を抑止する悪など潰えるまで清めると。


「覚悟しろ」


 ミカエルの袖が溶けていき「ミカエルの活動領域が変わる」と莉緒。

 その能力は肉体の尊厳破棄。

 ミカエルから負傷を受けた場合、治療不可。

 また急所と呼ばれる場所がミカエルにより負傷した場合、活路はなく。


「どうぞ、わたくしから離れぬよう」


 紅いベールの濃度が上がる。

 片やラファエルの対面に「嬉しいな。餓鬼大将」とアルト。


「すまんな、今は天真爛漫だ」


「そうだな、暗ければ照らしてしまえばいい」


「悪は…変わらぬ」


 ガブリエルが応えると「短所が強ければ強い程裏返したるや強靭よ」と老人が立ち合う。


「道外す興あらばさぞかし可愛がる甲斐もあろうて」


 そう言ってミカエルに九つの尾を揺らす女性や「成長の形は人それぞれ、だったねオルトロス」とアルト。


「ああ」


 橋が揺れる。

 天から雷が奔り。


「俺らの国で輝かす」


 オルトロスの額に目が生える。

 まるで青い雷を司る風貌や「最もうちでどれだけ暴れようとも王宮行きだ」との事にラファエル、ガブリエル、ミカエルは注視。

 それは「国王」と続く言葉に関心が寄る。


「そのままじゃ変わらないと痛感する」


 ラファエルは「君らの生まれる前の世代じゃ暴君、殺戮衝動たるや自らの抗体で不死身の戦闘を愉しむ。我々の一員にし力で君臨した」と耽る様子。


「奴は生命にまたとない影響力を生む。事戦いにおいて右に出るもの無し」


「だが我々の名が無ければ大罪人もいい所。奴の真髄を知ってか否や、叛逆まで企む国王とやらを。信頼し命を捧げられるのか?」


 ラファエルに続くミカエル、ガブリエルの助言。

 対して「「いい事聞いた!」」と卑しい表情が浮かぶ。


「何だと?」


「実績に基づいて叱り付ける実績厨には過去の行いがよく効くそうだ。アルト?」


「ああ本当素晴らしいお話しだよ。是非揺さぶってみようと思う…な玉藻前たまものまえ?」


「そうだったわ。不死身には精神攻撃がいいのよ」


「わしは尊敬しておる…」


 老人とラファエル、ミカエルは引いていた。

 俺は概念が洗脳に変わったと、莉緒に耳を塞がれガブリエルの声が薄っすら入る。


「良かろう。その国王に報いてみい」


 ぼんやりした。

 揺ら揺らする意識がアルトの声を広い上げていく。


「報いるも何も。うちらのメイミアが捕まる通りもない粛清において、遠に限界だよ」


「それが神に対する遺憾か?」


「好きに捉えるがいいさ、僕らの進言が通用しないのは百も承知。だが二度も仲間を失う位なら、同じ思いを…」


「童っぱが…」


「待てラファエル」


「僕は待ち人に恵まれなくてね、一人さ。生まれて直ぐに孤独の絶望感ったら希望もクソもない。それをも超える絶望は照らせそうにないんだ。そんな天空の神に一矢報いるのも、今じゃ悪くないって思ってる」


「悪はまた…悪を生むとはいえ、失言だ…」


「待て一つ、聞きたい。国王の人格が他と混ざっているが、何を言っている?」


「事実しか言ってないよ」


「では質問を変える。そこの若輩者を粛清したら封印から何が出る?」


「…ブっ」


 アルトの笑い声が聞こえる。

 橋がひび割れ「言ってくれる。こちとら瀕死の中で精一杯だったんだ…」と握り込む代物が銀色の剣となり、喜悦な顔を張るミカエル、ラファエル、ガブリエル。

 アルトを筆頭にオルトロス、玉藻前、老人が御大達と打つかり合う。

 俺にはその戦いが、何が起こってるか分からないあり様に、もう一度自分の力と向き合う、違う──記憶について。


 ◇知っているのは俺だけで◇


 ◆思い出さないと◆


 何も知らないままいる胸騒ぎが止まらない。

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