第53話 魔人

 白い魔力が顕現。

 フォールオルドは魔力を宿し、俺も咄嗟に介入するが頭痛が起こり平衡感覚を失う。

 これでは二人の考えから離脱してしまうし、この感覚。

 いつの間にか黒い魔力と入れ替わってる。

 一方で波動まりょくが奔るハイライトに続き余白を埋める黒魔術師達。

 魔力濃度でフィナが牽制、フォールオルドの配下はこの場から姿をくらました。


「良い軍勢だ」


 敵としてただ一人鎮座している。

 感激するその瞳にゾッとする軍勢が写っていた。

 俺は「退けよ」と零すが、誰よりも勢力を知っているフォールオルドは「見ての通りだ、俺に従う者はいない。己と向き合ういい機会だ」と上空から竜巻たつまきが発生。

 幅が広がる。

 殺意の湿気に歩んだら「王に、侮辱ぶじょくむくわれない」とシエラが阻む。


「…」


 人柱は見送っていた。

 大勢と拳を交え、黒魔術がフォールオルドを狙う。

 風の濁流で急所をかすめ、火傷凍傷の蓄積ちくせき、雷に降られる姿は四十もの数を地に倒し、殴り合う。

 その結末を見送ろうとする者を含め。


「…邪魔するなら」


 剣を顕現する。

 剣は白と黒を交互に彩り出した。


「どけ…」


「目的を見失ってる位に…動転してるぜ…嫌いじゃねえけど。敵陣前の内輪揉うちわもめだぜ、それ?」


「冷静だし共にいたい人が居ないんじゃ敵以前だ」


 言って頭痛の悪化。緩和していたが魔力を起こすと天地がひっくり返るみたいに、視界と感覚が一致しない。

 シエラは目の奥を曇らせ息で微笑った。


「そうかい、そういう事かい。何がそうさせてるかようやく」


 更に阻む姿勢が示される。


「退け」


「だったら殺れよ」


 ──ズキン──

 ズキン──ズキン──


 脳の脈が最高潮に打つ。

 一瞬で足場の大地が粉砕する黒い魔力の発現を。


「斬られるならそれで良い、それだけの話だ。けれど救えなかった過去を引きずってんならアタシには敵わねえから」


 前髪で表情が隠れ、ゆっくりと赤い魔力が流れてくる。

 肌から感じるかなしみや「みんなは姉貴のために闘ってる。けどお前は、姉貴もフォールオルドも違うものにみえてるんだろ」とシエラは引かず。


「俺の何を知ってんだよ」


「知っちゃいけないのかよ」


「…?」


「お前が全然喋らねえから苦労してんだよ!」


「…」


「魔力が少ないからって、なもんみんな知ってんだよ。テメーがヒビキつう教師にやられ白魔術界に行ったんだ。けどあん時本当に嫌なら叫ぶだろ…」


「…」


「姉貴でもハイライトでも、少なくともアタシはそこにいた。お前から一言でも帰りたいって知れてりゃ姉貴は準備していた。ハイライトが白魔術界に乗り込んだのは年跨いで限界だったんだよ」


「…」


「アタシは何が幸せかわかんねーし、一人がいいのか悪いのかもわかんねー。親の顔は見た事ねえし元々一人だったし姉貴に拾われ喧嘩ばかりでろくに会ってなかった。いつからか没頭してると心地良くて、何もかも忘れられた。けど白魔術界に行く勇気があってもお前の事わかんねーから知る以外に行動できねえし、それも叶わなかった。どこで産まれたとか、どこから来たとか見当つかねえし。お前の部屋で寝てみたが何もわかんねー」


「今俺の部屋で寝たとか言ったか?」


「でアタシは考えた。これが恋なんじゃねえかって」


「…」


「白魔術界に行って手籠にしようと。けど帰ってきたから諦めた」


「そう」


「アタシは」


「確かに動転してたわ」


「…。」


「ありがとう」


 黒い魔力が穏やかになる。

 感謝を抱いて向かったら闘いは白熱の域を越えていた。

 急所を外していた、そう感じるばかりに倒されていた者達は復帰を果たし、一体何人もの黒魔術師を相手にしたか。

 グランデレ エルコンドル フォールオルドは達成感で満ちている様に、体術に武力、黒魔術、それら行使を前に膝を付く。

 意識の無いその身に当たれば仕留められると思ったから。

 俺は斬撃で煙の焚いた境界線から敵のいない方にフォールオルドを寝かせる。

 重体だけど組織に送れば間に合う状態、だが。


 いない。


 魔力を探り、心眼というものに写る配下は遠く。

 俺が運んで送れば、そう思うと足がすくむ。

 ここを離れるとヴァレン、ユキ君、ミグサの安全が。

 殺気だった残党や人柱も敵に見えてしまう。

 いい方法が……ない。

 いや考えれば、ある、必ず。そうだよ。


 〝矛盾だ〟


 俺はそう認知した。

 楽になる真っ白の頭で確認して、やっぱそうだ。


 お前最強って言ったじゃん。


 最強は敗北と無縁なんだから。


 証明してもいいよ。


 全部滅茶苦茶にするし止めるなら今だよ?


 目覚めたら苦しくなるから。


 だからさ、

 頼むよ、

 死ぬなよ、クソ。


「シオン」


 フォールオルドの声。薄い目が覚めて「いるのか、そこに」と続いた。


「いるよ」


「狂人に祝福が訪れるとは、有り難い」


『どこが?』


 心なしか表情が穏やかになっていたが、熱の上がったこの場全員に、そう言う筈が、声が通らない。

 ほんの一瞬、森が浸水してる様に映った。


「お前がいるからだ」


 フォールオルドは続ける。


「あの日。エルコンドル様がお前にまさっていたら、俺はここにいないだろう。表向きは奴隷の売人として、裏は生贄いけにえとして、孤児の俺を引き取り、強くして下さった。寿命をくれたお方に何があってもこの身で尽す、そうちかっていた」


「後継者の選別じゃなかったのか」


「ああ。だが今宵こよいだけは思うがままに行動し、幸福すら知れる良い日だ。なあ、レナも一緒だ。お前は救えなかったのではない、既に救っていたんだ」


 ──全ての世界は均衡している。そこに障壁があったから。交わらなかった。

 そう言ってフォールオルドの眠る地に、幾何学紋様が発現した。

 見知らぬ力が漂う。

 悪寒。それすらぬるい陰の方角、末裔まつえいの繰り返し、いや、もっと。


「俺は一度も王と名乗っていない。最初からお前は王位の座にいるという事と」


 ◆契約はこれにてやぶれる。自身を生贄に魔人を召喚しょうかんする運命は変えられぬ◆


「最期に慕われる相手に気をつけろ、シオン」


 敵勢は強いぞ。

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