第20話 悪魔に向ける刃
「最後…」
そよ風に当たって視界が霞む。
落ち葉が横切って打ち消された小声に先生は反応した。
「そんなに変か?」
聖剣を表裏にさせ靴底まで気にしている。
俺は普段と違った一面に
「似合ってる。教えて下さい」
聞き違う先生へ伝えると途端に目付きが変わった。
「言っとくが加減が難しい。補修の様な
「…しないよ?」
俺が応えると地に聖剣を刺し腰に手を当てる。
更に「いや」と
「少し気難しい奴なんだ」
何が?
そう思いながら聖剣を眺める。
「もしかして武器に感情があるって言ってる?」
先生が聖剣を見ているので聞いてみた。
とはいえ大きな変化もなければ目が細くなっていく。
見逃しがない様凝視を続けた。
「疑うは大事だが表情に表すな」
誤解された。
それに解釈が違うのか。
でも気難しい奴と言うからにはやっぱり動くのか?
色んな想像が浮かぶが「まあいい」と先駆ける先生に着目していた。
「こいつが俺の依代だ。シオンが別世界に行った様に俺はこいつと結び…。何が分からない?」
首を傾げていたら意外な表情で問われる。
けど何がというより何もかも理解できないが自分なりに口にした。
「依代……ああ、武器はそれぐらいの気持ちで扱わないとって事か」
やんわり追い付いていく頭で答えが出た気がした。
しかし違ったらしい。
「依代は己として纏う、奉は契約、
「契約…。じゃその聖剣と」
言葉が止まる。
未だ幻にすら感じる体験の中で契約という現実を思い出す瀬戸際だった。
「結び、アルタイルで教師をしている」
両手を
「そんなに良いの教師? 勇者の方が凄そうだけど」
印象的だった。
けど気のせいかもしれないし、きっと返ってこないと独り言っぽく聞いていた。
直後、穏やかに。
「憧れだった、俺に取って勇者より子供を教え導く存在で在りたい」
記憶にある言葉だった。
一帯に温かい風が吹き、撫でられるかの様に吹き抜けていく。
何より初めての面影が蘇っていた、
「さて余興は終わりだ、メイミア……」
言ってる間に凛々しかった先生が引き攣っていた。
俺は同じ目線になって覗いてみると。
「ふん……喋るなとか……ふん……愚れようかな……」
小言が蔓延しているダークな姿を、先生は次第に慎んだ笑みに変わる。
「教わる事は無いのを承知で生徒をしてくれていたんだな」
「…へ⁉︎ そんなつもりないよ、特に恋愛に関してはまだまだ知りたい」
瞳が煌めくメイミア。
若干後退りする先生。
しかし鼻から吐く様に息を沈め悟り切った顔付きで紡ぎ出す。
「ちゃんと見ている、最も確信に至るまで時間が掛かった落ち度もあるが、偶然とは思えない。教師の間で
鼓舞みたいな、その一旦の休憩に弾ける声が上がった。
「ふふーん、やっと私の凄さに気付いたか!」
片手で体を這わせて咲うご満悦なメイミア。
それが、この後に紡ぎ出す先生から暗転の素顔と化していった。
「不思議だった。これまでの実技、筆記、魔力測定の数々の試験が誤差なし平均、別世界を行き来した能力。そして公園だ。一人を抱えた状態で追跡不能の移動速度。恐らくは俺の次元と……」
探り探りで且つ恐る恐ると沈黙している、まるで緊迫感を誇張するかの
「そのサインをどう捉えるかは先生次第。それに私は悪魔」
言いながら俺の肩に白い腕が通い抱き締められる。
「悪魔と言う名の位を俺は知らないんだが?」
「位なんてどうでもいいよ、先生が勇者のように私は悪魔のメイミア」
空虚な声が透き通り。妖しく発現した一瞬の殺気を肌に感じ、五感から憑かれている実感を現実に具現するかの情勢で。
「ならいい、しかしシオンをどうするつもりだ?」
発言に見え隠れする先生の揺らぎ、言い換えれば婉曲に進めている可笑しな会話に辛うじて正気を保った目で俺らを見ている。
「先生。節介は刻下で仕舞い、もう充分。私からシオンを奪えると思っているなら尚更だよ」
「お見通しって訳だ…なら聖剣を呼び起こした説明も要らないか?」
「聖剣は善の象徴」
メイミアの声が重くなる。
対して柄を握り引き抜く豪快な構え且つ、迷いが消失し高揚の顔が浮かび上がる。
「ご名答だ。第六魔法陣
莫大な魔法陣が天と地に顕現し灼熱の炎となる。
以前より濃い色で熱が感じず、盛り始める森林が地獄の業火の様に、違う?
「
熱が感じないのはメイミアの体温が低下していた事や、先生の業火が
更に木々の根や、土を、なだらかに覆い広がっていく光景はこの地を白衣に創造し
「何これ」
極寒で眠くなる。
体の硬直が進んでいるのか身動きが取れない。
「魔力系高位魔法を口上破棄か。はっはっは」
異様な現象を機に、
魔力を燃焼し司っている、存在自体が牙となって瞬身の脚力が加えられた。
「お墨付きの魔法があっさり砕けるとは。やはり聖剣を呼び起こして正解だった!」
地に鋒を擦り上げる聖剣は標的を捉えていよう速力を放っていた。
まるで多重音を奏でる咆哮。
地は磁力を帯びるかの振動を起こし足が浮いている感覚。
言い換えると立っている感覚が弱い。
視界は肩を映し頭部の髪が緩やかに靡く。
隕石の様に出現するその姿から刀身がメイミアの首へ振るわれる。
頃には凍てつく気配が蔓延していた。
先生は血相を変えて止まる。
「アルタイルでそれを振うなら私は貴方を殺さなければならなくなる」
刹那。聖剣の刀身が結晶に覆われ全ての炎は
魔法、というのか、先生が膝を付く頃には霜が砕け空気に馴染んで温度が戻る。
「この俺が尊厳に敗れるとは勇者失格だな」
「幾千の英雄に悲観は似合わないよ」
「ああ…それ程までに屈強を乗り越えたのだろう。指導者は誰だ?」
メイミアに問う先生。
また地に刺さっていた聖剣の隣で胡座した。
一見して戦う意志がないのか、それとも…。
「言ったら諦める?」
少々の抵抗感が現れるメイミア。
依然として口が塞がらない様な顔付きで言った不服な様子。
対して聖剣を虚空へ還す先生が立ち上がる。
「分かった」
しばし状況を伺うかの時間が流れていく。
すると口元を緩めるメイミアが楽観な格好を装って目を閉ざす。
「ホーロラム ラム」
思い出になぞらえるかの声が通る。
瞬間驚嘆の様に大きく目を開ける先生。
その瞳には白装束の華奢な女の子を写し出していた。
「…フッ。はっはっは…そうか、通りで笑う仕草が似てる。だが何故だろうな…メイミアの方角と対峙した際あの人を思い出した。最強と危険の」
「あいつの話しは嫌だよ。全然可愛くないんだから‼︎」
「かわ…いい? 聞いた話しじゃ高等文明の王としてその才を桜花してるとか…違う人じゃないか?」
口調がこんがらがるかの先生。
最も何を話してるのか分からないが突如空間が歪む。
◆一体どうして?◆
先生とメイミアの間に黒く澱んだ亀裂が発現していた。
しかしその亀裂が誰によって発現してるかは明白で、仄かに視界が揺れた逆鱗に触れる。
「先生。それ以上口にすることは許さないよ」
「…分かった。だが一つだけ教えてくれ、機密文献に記載された精霊と関係があるのかどうか」
縋っている様な、想いが込められた声に黒く澱んだ亀裂が消失する。
もし暗雲のままであったならこの場自体が消し飛んだと思う程、空間の歪みが死の想像を余儀なくしていた。
「無いよ」
「本当か?」
「………クスっ。私達が悪い方向に影響されると思う?」
「……そうか」
全身全霊に抜けていた先生が胸を撫で下ろした。
「要らぬ世話を焼いてしまったな。勇者も先生も失格だ。だがこれで安心して見送れる」
悔しいと笑いが混じり合っていた。
まるで光の中に隠している、そう思う。
「凄い契約者に恵まれていたんだな。違う世界でも達者でな」
もう光にしか見えないし、受け入れるにも限界ある。
「俺の契約相手メイミアじゃない」
「急に…何だ。名残惜しくなったか?」
明るく澄ます表情で言われる。
苛立ちが溢れそうになるが冷静に応えた。
「行けるなら旅立つよ、連れてってよ?」
「無理だ」
──は?
「認められていないからな」
「達者でやれって言ったじゃん。意味が分からないよ」
「だな。俺もなんだ。最後まで分からなかった。お前は何故アルタイルじゃ駄目なんだと。教師の立場で不謹慎だが今回の出来事での決断ならまだ分かる。だがそれ以前に探したいと志した居場所とは何か。今後の教師として教訓として、聞かせてくれないか」
「それは、先生の教訓になる事じゃないし、恥ずかしいし…それでも聞きますか?」
現状はむず痒く、下を見ていた。
そうしていると蝶が飛んで来る。
目で追っていると仰ぐ景色に親しむ表情があった。
「勉強させてくれ」
思わず心に響いた。
同じ過ちを防ぐ心構えだと過去から沸々感じる。
それが引き金の様に背けていた記憶が滝の様に流れ一杯になる。
この張った水を零したらどれだけ楽になれるか諭された俺は、口が開いていく。
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