第7話 離れても
淡い月が照らし砂利を踏む音、それが巨人だと認識した。
「間に、合って良かった」
胸がほっとする、しかし大きい外見に尻込みしていた。
改めて拝むと命を脅かされるミグサより安全な身体が震撼している。
もっと。
恐ろしいんだと。
憑かれる心境を疑似的に実感していた、それが前進の後押しになっていながら。
なんて声掛けよう?
君のことを知りたい、いや言葉が通じるならああなっていない。
まず声を掛けてから、それからのやり取りに決意して歩んでいたら「お取り込み中の様です、僕達はお
短い手先が肌をなぞりもちもちした質感に覆われ絶叫した。
「キモいわ‼︎ 息できねーし‼︎ 何なんだよ⁉︎ 決意が揺ら」
シイナを払いながら灯りを感じる。
見ると巨人から発している灯りだった。
また
聞き取れない、けれど巨人の立ち振る舞いにある境遇を思い出す。
それは一瞬の絶望と共に脳裏に過ぎる。
まるでこの世界に言い残そうとする念の様に、弱っている者が迎えるもの。
違う…。
「消される」
そう匂わす理由が見つかる。
月に晒される灯りの地に黒い影が発現していた。
四つ。
誰のものか分からないその影は生きものの様に巨人を取り巻いて、動き回っている頃には向かっているのに進まない。
「ちょっと! 早く去りましょう、本当に‼︎」
一帯に荒れた煙が吹き抜けていき、紅い碧眼の少女に手を引っ張られていた。
「…あの影に対してか? さっきまでは無かったし消えそうな原因って。アレを。払えばいいのか」
「いい加減に遊んでいないで正気に戻って下さいよ!」
「戻る時間はないよ」
「ないって。何が合ったか分かりませんが僕らと違う住人に、だから…。行かせませんってばぁああああ‼︎」
神社にシイナの声が響き渡った。
刹那。
つぅーと。
背後から黒いものに視界を喰われる。
まるで冷気が纏わりつく異質なものに体が晒される、それは少しして鈍感だったと悟った。
◆暗い場所に遠く、一瞬の存在感が玉座で俯いている。
真っ赤な髪が首元に流れ一見は眠っているみたいに、その目は確かに咲って。
俺を写す紅い瞳孔が最奥の闇に
俺は後ろを捉えられていた死の実感から現実に戻ると、引き合う体が持っていかれた。
…何今の。
俺は咄嗟に体勢を正す、しかし力は均一にしかならず焦りに襲われる。
情報過多で追い付かないが必死な引き合いでたった今少女に『負ける?』。
劣勢な状態だが時間の問題で引き負ける意識が過った。
負けたら=消される?
◇でもそれは不確実な予知◇
未来も過去も同時に存在してると授業で習った事を思い出す。
◆なら過去から併せて◆
俺は頭にその文字が流れつい最近を思い出した。
魔力は失せ、予定を省みず、恐怖さえし、少女に阻まれる身体能力の格差まで。
走馬灯みたいに弱点を描写される頃には、苛立ち、悔しみ、絶望と重ねていった。
あの日から居場所を探し求めた結末が今の障壁だと。
違う。
もっと奥にあるのは。
ポタン──ポタン──バシャン──
通ったものが薄まっていく。
形を失い、岩の棘を通し、雫が零れる。
波紋を生み落とし蓄積される水の奥底は安らぎと不安、高揚や恐怖といった無数のもの。
何でも知っていて、忘れ去られた形から活かせ出せる事はあると。
多くの光が奥底を照らし、覆せる可能性を主張するかの光達を拾い上げる。
それらが引き合いに齎していった。
「俺は今まで去った方がいい事だらけだった。この瞬間すらそうかもしれない。でも逃げ倒した先の結末は不幸だった、だから離せ‼︎」
劣勢の突破には気迫があった。
今を後押しする過去の実戦の心身的意欲の成功を思い出し、重心を味方に付けながらドーパミンが分泌され冴え渡る理性が自己効力を跳ね上げる。
同時に勝てる兆しが見える。
残りの力を絞り両手が
「離しませんってば‼︎‼︎」
また──
一刻と、また一刻して
奥底の輝きが消え前に出る身体が野垂れていった。
「もうそのままで、いいや」
抵抗する気が失せる俺は初めて気迫負けした。
──あの子とは。
シイナの額に打つかった俺は後方から
「触れない方がいい事もあります」
声が薄ら震え、掴まれている手首にも同じ感覚があった。
思えば黒い影が現れてからこの調子だし巨人より動揺する経緯が分からず。
「精霊さんや」
「シイナです」
「強いの、魔術師より?」
「未知数ですが…僕の知る限りで対になる戦力はアルタイルにありません」
「…へ?」
「
参考に知りたがっていた頭が
「分かったよ、ありがとう」
お礼し再び見る黒い影は流動体の様な、液体っぽい姿見で地上に出始めた。
一つがまた一つ人型に
細く
すると巨人の容姿がボロボロと
「あの子、ミグサに似てないか…」
巨人は殻だった、小さい手足や鼻や口、目元から血縁関係の様だと。たじろぐ男の子が辺りをぎこちなく見渡しながら
「埋まってるかも」
砂利を掘り始める傍らに囲う四体がゆっくりと剣を振り上げている。
構える刃の振動音が神社を暗澹に
身動きが取りにくくいつ刃が振るわれるかの状況は、バチリ。
バチリと。
紅い魔力が一面の地に奔り出し、見開いた男の子は目元を擦り付ける。
砂まみれの面影で、空を仰いで、光り輝く姿となった。
「こっちの世界は幸せになって、お兄ちゃん」
囲む四体は剣を振るい、無音の空に響いていった。
◆◆◆
俺は四つの刃が重なり合う視界に光を貫かれ、思考が行き来した。
──何故、襲われたのか?
意識にそう問われる。
俺は常識外れの事情が偶然交わった出来事。
そう思う。
もし賢ければ今までの『行い』から必然に変えられるのかもしれないが、常識外れといえば昨日もそう。
図書室で書物を
今まで結構な常識外れに
また本が一人でに回り出す事も風の渦を作り出す事も初めてだし。
人工的な魔術で風を起こしたならば紙の本は跡形も無くなると、思っていたら絵が開かれた。
青く、広大で、魅惑された。
奥底で音が鳴って、鎖にビビが入る様な、心に影響を与えるものだと認識して。
紅い彩の契約紋様を宙に描いて異界の書は消えた。
それからというもの。
補修で理解不能な術に攻撃され、黒光りの生物が現れるなり体に入られる。
友達は巨人に憑かれたと言っていたし巻き込まれたし予定も
次はミグサに似た男の子。
幼い、男の子が
──何故、襲われたのか?
やっぱり分からない。
でも、どうして似ているんだろう?
一通りの事柄に何か理由が合ったとして繋がっているものは……。
んー。
頭が追い付いていかない。
こういう時って頭の良い人ならどう導き出すんだろう。
頭に浮かぶその、人が、考えそうな決断は。
◆過信、油断、慢心◆
違う。
この感情が一方通行の様に思考を脱線させる。
俺は奥歯を噛み締めて力を呼び起こす。
通用するか分からないけれど、バカなりにあの男の子達に掛けていった。
◇◇◇
俺は光に奪われていた視力が戻っていく。
(どう…だろう?)
鼓動が早まりながら鮮やかな視界を映していった。
同時に高音が聞こえる。
まるで顕現した衣に振り落とした刃の音色が止む間、一人として微動だにしない中、白く透明な光景に潜め声が聞こえ出す。
「止められてる…というかこのベールは…シオン様。もしかして…」
脱力していくシイナが急激に青ざめ、俺の手が自由になった。
「何?」
言いながら赤くなった手首の跡を摩り、横目に映るその口々から歯を噛み殺す勢いで。
「何、じゃないでしょうよ! 何がありがとうですか、全然僕の話し聞いてないじゃないで……!」
真っ青で
「だって難しかったし…でも魂を喰らうって事は何となく想像が追い付いて……だから、守りたかった」
言っていて火が吹きそうだった。
けれどシイナと同じ目線に直すと冷静になれる。
そこには、一寸先に飛び出したミグサが背を向けて大きい影で
「あぁ…あぁぁああ…」
十秒程、そして意識が戻った困惑状態のシイナに。
「ビビり過ぎでしょ…そんなに危ない奴ら…なの?」
余りの動揺っぷりに危機感がうつった。
全身の汗がもう凄い、もし、とっても凄い拷問されたらって想像が頭にこれでもかと思い付く。
大丈夫。大丈夫。大丈夫。
楽観的な気持ちでなったらなっただと、言い聞かせていると溜めた吐息から
そこに
「危ないとかじゃなく。いえ危ない事には変わりなく、この世界の三つ上の住人です、
「あの、俺らしいって?」
近距離で向く状態、にも関わらず風に打ち消されたであろう無反応から。
「いえ、取り乱しました。あの方々は制限されていますから別の場所にまで追ってくることは叶わないでしょう。よって今のうちに転移するのが適切です、行きますよ」
会話が噛み合わず早々と呪文の様なものを唱え始め俺らは灯りを帯び出した。
どうやら転移の儀式らしく、望んでいた事が始まろうとしている。
本当にアルタイルから消えるのか、実感は湧かないが未知の法則というのか、一貫性のない光と不規則な紋様が俺らを繋ぎ合わせるみたいに不思議な光景を創り出す間、ほんの少し、心構えをしている中で突風が
「待って」
宙を浮く魔法陣から紅い落雷が地を這った。までは分かる。
でも轟音の中心に突き潰されそうな爆風を複数回に渡り発現しているし、一帯に魔法陣が無い。
それは
「勝手に乱入して悪いが俺が代わりになってもいいか。詫びに本気で付き合ってやるから」
辺り一帯を血色に染め出し、魔力が空気中を飽和している。
魔術学校の言葉を借りるなら飽和領域という表しがあるが、魔力がその者で飽和している現象はこちら側だと支配の証。
他の魔力は畏縮し、魔術や、身体的な性能も支配者の前では無意味となる。
俺はそれら光景に目を奪われていた。
「見届けたい」
「…え?」
呪文が止まる。
続けて全身の灯りが弱まっていく俺は更に言った。
「覚悟が足りなかった、もしミグサの事で時間が過ぎるなら契約破棄してもいいと思ってた」
「今、なんて?」
シイナが脱力し瞳孔から光を失う。
「夜に、今まで何とも思っていなかった事に痛感してさ、それに紅いもの見ていたら揺らいだ」
薄い記憶にバレンタインというものを思い出した。
甘い菓子をくれる日をそう言って色んな異性に求めている人から聞いた一員が、菓子でなく貝殻をくれた。
その出来事が蘇っているとシイナから湧き出す紅い煙の様なものがやんわり髪を仰いでいる。
また大胆に首を傾げていくシイナに補足した。
「…紅いものっていうか、ちょっと思い出してさ! それで、決別出来ていなかった」
「はあ? 誰ですか? 女ですか? 名は? 場所は?」
「何で場所?」
「いえ、思うがまま続けて下さい」
「それで。ミグサを見ていて反対側に興味が湧いた。そういう人だと知れたから見ていきたい」
思うがまま言っている間に、紅い煙の様なものが視界全域に充満した。
また紅い空間に直径四センチ程の縄が発現し、宙を泳ぐかの様に下から上にじっくり螺旋してくる縄が俺の喉へ絡み付く。
締められそうで緊迫していたら吐息を吐かれた。
「シオン様のお好きなようにして下さい」
事情は分かりませんがと補足され、煙が和らいでいく。
大粒の砂利が見えてくる綺麗な視界に正直凄い安心した。
あの縄で何をしようとしていたかは怖いから触れなかったけど、穏やかに両手の指先を重ねるシイナから身の安全を得て。
肉体戦があった。
二体の黒い人影がミグサを前後から剣で襲う。
また、上から飛び降りる一体が視覚の外にいる事を知ってか知らずか、軽快に躱し蹴り上げるミグサ。
黒い人影が剣もろとも吹き飛ぶ先に一体は既に倒れている。
鈍った体が立ち上がろうとしているが共に復帰は難しく。
顔に切り傷と、肩と腕から出血しているミグサは爽やかに笑い、弱った雷を帯び出した。
残り二体、内後ろの黒い人影を軽々と掴んで背負い投げるミグサは、大きい構えに筋を痛めたかの険しい表情を走らせる。
また男の子はベールを纏っているものの、四対一の戦いに息が上がるミグサはその子のそばを気に掛けて、行動は制限している様子だった。
クラクラしているミグサに事実上動けそうな敵は残り一体。
そして自らの剣を粉砕して体に取り込む最後の黒い人影が突っ立つまま、一瞬のひと時が神社を過ぎる。
刹那、空気を歪ませるかの現象を機に変形した魔法陣が発現し出す。黒い人影の魔術だった。
しかし魔術を操る隙もなくミグサに破壊され、ならと、全身に雷を帯びる黒い人影がミグサと取っ組み合う。
互いの奔る雷がいっそうと増し、打つかる火花が、眩しく、激しい戦いに見入る
「まあどの道連れて行きますから、気絶させてでも」
「気絶?」
後ろ手で戦いを観戦しているシイナに聞くが、無反応から
欠片の様に地を散らばる
「シオン、助かったよ。危うく斬られるところだったわ」
目を開けた間に晴れ晴れとしたミグサが、男の子を抱え俺の元に来ていた。
「おう! え……戦いは?」
砂煙が舞っている背景をもって、荒い地面が見えてきた俺が現場を探し観ていると。
「お陰で完勝!」
「すご…」
瞬きしてる間に雷の衝突を打ち負かしていたんだと知り、
「お兄ちゃん」
「ん?」
「ごめん」
二人の会話から察するにこの子は弟だったらしく。魔力を吸い取っていた事や、
「でもできなかった」
上目遣いで詰まらす男の子にミグサはただ眺めて手を伸ばし「気にするな、優斗」と頭に当てる。
反動が
「僕ね、ここに居るって教えてくれた人と約束して来れたんだ。だけど破っちゃった…」
そう言って足元から六角形の柱が五つ。男の子を囲う様に出現した。
六角形の柱は魔力でできており、空気に溶け出しながら形を失う。
続いて幾何学的な線が契約紋様を描き、地に浮かび出す。
ミグサは深い
「優斗も…そうだよな」
「お兄ちゃん。苦しめてごめん」
「おいおい。さっきも言ったが魔力なんて気にするな。俺には最強の加護が付いてるから、案外、どうと。でも」
暗澹な瞳が笑顔と交わる。
それが表情に表れる頃には男の子が穏やかに言葉を使った。
「これからは自分のために力を使ってね」
淡い姿から
◇◇◇
木陰に潜め情景を眺めていた俺はシイナに告げられる。
「心は癒えましたか?」
「うん、向わないと。場所は何処だっけ」
「ここですよ? 準備は済んでいますし、心ゆくまで」
静まった草木に挨拶という声を置き残した俺は、枝を掻い潜り、腰掛ける所に駆けていった。
言葉通りにミグサの後ろ姿へ。
「あの…俺、来れから」
その先が思う様に出てこない。
ただの挨拶に重い体を滑らせ、得意げに笑い、俺を見ている目には光がない。
その様子がいつもと違う事は、一体どれだけの心境か。
そう思うと沈黙を生んでしまった。
もしかしたら一人で居たかったかもしれないけれど、あの時、一頻り重いものを光の中へ潜める感覚が、仮面の下が見えている筈なのに剥がし方が分からない。
でも一つだけ可能性が浮かんだ。
俺は戦がれながら意を決して口にする、そんな時だった。
いつからかこの風が自然的でないものだと感じ、見ろという様に俺らの隙間を白い羽が通り過ぎていく。
同時に『あっ』と
「お兄ちゃん、青いお姉ちゃん」
白い羽を目で追うと、メイミアと手を繋ぐ男の子が笑窪を作っていた。
「行ってきな」
メイミアは男の子の背中を押す様に手引きする。
ぴょんと進む男の子は赤らめて止まった。
戻ると背伸びして袖を引っ張られたメイミアは、屈んでひそひそと伝えている。
すると頷いた視野を最後に白い容姿がぼやけていった。
視力を疑っていたら、そばで打つかった音が聞こえる。
音の方に振り返ると失われた光が溢れている光景があった。
「優斗…?」
「白いお姉ちゃんが助けてくれたんだ」
「そうか」と頭に手を当てる二人の姿は、太陽の一筋に照らされた暖かい兄弟みたいで、そう映っていた男の子が『お姉ちゃん』と口を開いた。
「僕らを守ってくれてありがとう」
俺を見ている元気そうな姿がなにより、なんだが。
「どういたしまして! ちなみにね、俺お兄さんだよ」
「そうなの? 白いお姉ちゃんがそう言ってたよ?」
聞いて
「青いお姉…お兄ちゃん。怖い」
「あっ…はは! 目が悪くてこうしないと遠くのものが見え…ないんだ。そうだ、白いお姉ちゃんはどこかな?」
男の子はミグサの背に隠れると顔の半分をはみ出して引っ込めた。
「白いお姉ちゃんなら…やることがあるって言ってたよ!」
この際メイミアより
「うん、それとね! 凄いんだよ。白いお姉ちゃんが通るとみんな倒れちゃってね」
「何だそりゃ? ああ、そういえばシオン。俺に何か言ってなかった…か?」
何だかヒーローを目にしたかの興奮を共感したそうな男の子、そんな光景を眺めて口元を
「言ってない」
「そうか…もう、朝だ…魔力無いだろ直ぐに送って」
「大丈夫! その子と帰ってあげて」
男の子に「またね」と伝えそそくさと木陰に向かい「またねー!」と見送られた。
涼しげな木陰に戻った俺はよそ見するシイナに終わったと告げる、過ぎ去る間が空いた頃。
「シオン様って隠し事多そうですよね」
「ねえし」
あの子を見ていて、また会えそうだって思ったことを、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます