第100話 業力
愚冴は汗を流した。
女神の言葉を頼りに魔術学校へ辿り、入試を制した彼はアレイオンと会い、身の危険たるや常人より鋭く、本能的に惹かれた。
黒魔術界でメイミアが攫われた際、現実との乖離を見直し、ワルプルギスとの契約を迎える。
黒魔術界で救われた際一瞬でもアレイオンを悪と感じた向き合い方を昇華して、契約の引き換えに助けるという実感が御大を凌駕する度に報われ、雷霆を止める実績は、エルヴィとルシフェルに並ぶ人類史に名を入れる。
そうして更なる景色が映った。
神々。
それが異次元と感じていたら、今目の前に同率が居る。
煩悩が信憑性へ刺激し、若干身体が畏縮し出す実感すら彼の五感は繊細に反応していた。
「野望は何だ?」
赤い眼光が彼を捉える。
彼は『強者』と過った。
「俺は…」
煩悩を俯瞰する声。
彼の意識する強者とは、今まで通して反吐が出そうな思いに駆られ出すが、魔術学校首席という環境最大にして抽象的な要素、彼には成長が遅いまで体感していた。
それ故に優れた身体に恵まれながら死したのは、圧倒的な環境下で、精神の障害すらきたす無類の支配者がいた。
魔術師を志すはこの支配者という悪と黒魔術師を重ねていたと後に悟った。
そこから転換期を迎え、魔人という
そして。
「どうした?」
彼は耽入っていた。
縦横無尽に飛行する熾天使達に危うく隙を突かれる様を、ラプラスの呼び声から反応していく。
首に打ち込まれる槍の先端を柄で当てがい、数段疾い身のこなしに天使達は悉く倒れ、事殴り合いの動体視力は熾天使クラスを凌駕し、またそれは天使側も想定していた。
ゼウスの諭しは問題を迅速に処理するとのこと、その雷霆を受け止める愚冴に多大なる戦力が必要であると、軍事力を厭わずここへ降り立った強い天使が三名居る。
「天変地異」
緩やかに一語一句の発言が響く。
アルタイルが鼓動を打つ揺れが起こり、ルシフェルの尊厳が達する。
「重力崩壊」
純粋無垢な発言が響く。
天にはガラスの様な音や空気中に亀裂が無数に発現。亀裂は異常な速度で大地へ降下や遠心力の様に回って降り注ぐラムの尊厳。
「十分だ…」
ラファエルが指揮する。
またラファエルの尊厳へ天使一同エネルギーを集結する。
現在導き出せる最大の力で愚冴を捕る想定をしている。
「
そう言ってラファエルの気迫が跳ね上がる。
「少年よ。我はヌシに惹かれた、命の取り合いといこうぞ」
「あたしもやる。破壊神の子孫なんて存在自体初めて知る。どうやって免れていたんだい?」
ギギィとアルタイルに響き渡る。
刹那、愚冴は大地を見失った。
「戦いながら質問されて答えられるかよ‼︎」
朦朧の頭で叫び上げる愚冴。
ルシフェルの活動領域に平衡感覚は失われ、重力崩壊により愚冴の重力はラムの支配権に移っている。光景としてルシフェルに蹴られても飛ばずエネルギーが全て集約された攻撃を受けては反撃していた。
「なら答えは持ってるのかい?」
「知るかクソが‼︎」
ラムは戦線のサポートという形で見届けていた。
理由はラプラスの存在で天使一同ラファエルのエネルギーへ着手し第一位はその敵に集中しているため、身動きが取れずにいた。
念には念を。
その思考がラムの脳裏に働く。
「さらばじゃ」
気負いしてルシフェル。愚冴の視野は大地が反転し白黒の世界を映していた。
その状態が極めて残酷な劣勢であり何が起こっているか分からない。
ただ意識だけの世界で死を待つのみだった。
俺は…。
何を呼び起こす?
俺は。
彼は誰かと対話した。
黒い眼光に目を奪われ、現実は終わりを迎えようとしていた。
ルシフェルの大刀が首へ振るわれている。
死ぬ…。
たった今観測した未来に声が続く。
死期は煩悩を捨て心を写す。
そう聞いて黒い眼光は消失。
彼の頭はすっと無くなった。
抗いたかったんだと。
強者のみ残ったそれは今を肯定している本源で、五感は自然体となって思考を止めた。
全てを受け入れる姿勢で、彼は爆風の埃に晒され大刀を弾き返す光景が映っている。
まるで安泰の背中に守られた様に。
「初めまして
黒い洋服に黒いマフラーを身につける古風な風格。その男はルシフェルの大刀を弾き返していた。
一見してその古風は仙人かの容姿を携えて、五人の人影が愚冴を取り巻いている。
「何ヤツ」
ルシフェルを筆頭に人影に着目する天使達。天変地異の象徴たる大刀を弾き返した風貌が埃の浄化から「姓はヴァイシュラヴァナ、又は
「嫌じゃ」
「…」
引き攣る顔面へ男は不貞腐れた様子。
「
肌寒い風が吹いていく。
愚冴を取り巻く三人は一帯を視察中、後ろに髪を結いてる少女が「愚冴君ぅーん」と目をハートにして抱擁。
愚冴の肩はよだれに侵され「テメェー人類史上最強相手に汚ねえ粘液でマーキングしてんなカスが!」との罵声が飛んだ。
彼女の愛称はブラバン。罵声が飛ばされている少女はシグラと親しまれ、のほほーんと観察するフィリップに人差し指を二本突き立てられる。
「一足す一は?」
「さん!」
「ダメだこいつ…」
シグラの答えにラスカリナが頭を抱えた。そんなシグラ、ブラバン、フィリップ、ラスカリナの愛称の彼女達は近日アルタイルに侵攻した機密指名手配達で、愚冴は死の直前家族を欲していた。
「これが雑念のない…世界」
彼はこの人達に敵味方の分別は付いていないが、側から見れば願いが、夢が叶ったかの現実は、やはり違う。
本当に必要なものを気付けず、自らが拒絶してる認知の歪み。
ただ少々独特な家族に拒絶する気持ちは分からなくもない。
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