第27話 開幕
閉まる扉を背にして映る。
中央は石器が敷き詰められたひし形舞台があり、白服の男に賛美が上がる。
暗がりの周囲は赤い欄干で敷居を繕い、観客なのか、着物の女性と幾つもあるそれら眼がこの賛美の発信源だった。
「今宵の最大風物詩。皆様は大富豪であられる指折りの権力者、よってこの世で裁けない権力も熟知している事でしょう」
静まり暗がる。
真っ暗となる中白服の声が続く。
「安らぎを奪われ、生きるは恐怖へ変わる。付け入れられたら最後、
それは畏怖を言霊に現す、幕開けの様に語り始めた。
体が霧に覆われる感覚で、耳の近くにある語り声。
恐怖とは何か、そう訴える独特の囁きが懐を捉えるかの如く。
深層心理へ問いながら得る悪の尊厳は、万福の抑止となり。
死すれば血縁者に被ると揺さぶる。
骨の髄まで吸い尽くされるその者共の悪辣は共存の形で。
如何なる時も潜め、蝕み、腐った所を喰らう。
痛みが総じて奪い続ける。
目を通し感受性に光など受け入れられない所に堕ちていく。
這い上がれないと。どん底に底はないのだと。悟り。
怪しい風が吹き出す中で「失礼」と繋げて喋り出す。
「悪人には悪人を」
冷厳な口調で「時に」と紡いでいく。
薄笑いを無かったかの様に「殺人鬼」と。
故に食事より睡眠より勝り、衝動に駆られるのだそうで。
「その人らは血を浴びなければ平常心を保てない」
道徳心に揺らぐものが多く。
恐ろしさを語り綴らえた内容には生まれながらに基く殺戮を糧に「見境なく」と断言して。
「しかし観戦側の身が危なくなってしまう、あなた方に頼れる戦士を紹介しましょう」
バンと音を立てる照明が俺らを照らした。
「未知の力を持つこの戦士、裏世界の首魁の次男。翔様とその他が貴方達堅気の身代わりです」
大々的に見せしめられる、その歓声が湧く観客に強い念を感じた。
合ってるかは分からないけれど、今までの演説だったり念から感じる憎悪には、首魁という人に翔をなぞり合わせている事と。
翔を見世物にして稼ぐ算段だと考察していたら、照明に照らされる大柄の男が舞台に上がり出す。
「殺戮を糧にする凶徒と共に、権力などファミリーには通用しない、そういう所だ青髪の子よ。大方甘い蜜でも吸わされ懐いていたんだろうが、裏の世界に踏み入って天寿を全うする者はそういない。まあ精々、残り少ない寿命で思い出にでも浸ってろ」
満悦に吐き捨てる白服の男は、大柄の男と入れ替わり舞台を降りる。
方や迷彩っぽい上着を捲る大柄の男は、分厚い腕が露出し、黒みのある皮膚に血管が浮く、その皮膚には赤い傷が残り、野獣の様な顔が仰いでいる。
うつつを抜かす、そういう風に天井を見ている様な、左手を広げ右手を内服に入れている大柄の男は観客の注目を浴びていた。
それが、著しい筋肉の動きが起こる頃には、弾丸が俺の足元に痕跡を残し。
「誰でもいい…銀髪か…倅か…それとも青髪か……早く来い‼︎ そこで射殺されたいかガキ共‼︎‼︎」
張り上がった顔で喚き出す、起伏の激しい性格が根強い。
しかし「説明」と言い一対一のバトル形式と付け加える大柄の男にはやや理性を感じる。
ただ表上は声質も声量も振り幅を伴って野獣の
「俺が」
名乗る様に言った翔。
「いや俺が」
思わず止めた。
同時に練り上げていた作戦がぶっ飛んだがそれ位動揺した。
相手の懐に入るというのは、それは囮であって今じゃない。
敵ならば初見殺しが優位であって最初に行くべきは俺であり、戦略の糧にして欲しい。そう思っていた。
「シオン。彼奴は兄貴の仇なんだ、そして弟の仇でもある。だから俺は戦わないといけない、じゃないと兄弟に産まれた意味がないからな。それと会ったばかりで安心させられたよ。ありがとな!」
笑顔だった。
綺麗な歯や笑窪の残像が舞台へ上がるまで消えない。
「なんかあったら会わす顔ねえっつうの…」
血の味がする。
唇が切れたし言い残したのは遺言だ。
「そうだ…やっとだ。血だ…血をくれ」
弾丸が翔を襲う。
腕から血が滲んでいく。
その負傷に喜悦な笑みで大柄の男。
「キャッハッハ」
一方心臓を狙った軌道に対応していた様は、活性化した脚力に思える。
しかし欲情を乗せるざらざらの声、まるで好奇心に溺れるみたいな変わりっぷりは、吉凶の表情とばかりに歪み、睨み、はしゃぐ気性が薄気味悪く。
翔は微動だにしない。
だが、惚けた顔となる大柄の男が五体を研ぎ澄す身のこなしで銃を構えた瞬時。
大幅に上回る瞬発力で間合いに移動した翔が拳を振り込む。
鼻先にいく拳は見事に当たり、重心が反り返った対象に続けて連撃を繰り出す。
「この日までテメェを思い出さない時は無かった。皮肉みてえにこの力が呼び起こされてから、呪いみてえに囁いてきやがる、毎晩毎晩許すなっつう殺意に洗脳されそうなんだくそ野郎」
炸裂する打撃に銃を持つ腕が伸びただれる。
そして、冷徹な魔力を漂わす翔は簡単に息切れに達し、通常のよう立ち尽くす殺人鬼が発言した。
「だから?」
効いていないという顔振りで肩を回す頑丈さ。
常人の超域に驚いていた、束の間。
一心不乱と思える翔の魔力の性質に目を疑う。
不安定で淡い闇系に属するであろう魔力が殺人鬼の一言で、確実に色を固めてしまった。
正しく、心臓を圧迫する魔王のような系統に。
「ああ…この感じ。思い出したぞ、確か祭りだったか。依頼があってよ、似た顔が飛び込みやがったから刺したんだ。アレは良血だったぜもっと教えてやろうか」
高揚を現した殺人鬼に、蹴り込む翔がその体格差のある巨体を吹き飛ばし、
「ふざけんな‼︎ 外道に教わることは何も」
放心している翔。
それは武力に塞がれ足を抑える体勢に二度目の銃声が響き渡る。
「あぁ最高だ、足と肩…たまらねえ。俺はコイツがなけりゃダメなんだとつくづく実感してくるが……さっきの威勢は何処行った?」
翔から血飛沫が噴出し、姿勢を直そうとしているけれど、負傷を抑える身体は立ち上がれず。
下一点を見つめている所に距離が詰められる。
「この引き金でキマっちまうとは。期待より脆かったか、原型を留めている分評価すべきか…ただボスに比べれば綺麗に逝ける。言い残すことはあるか?」
脳天に銃口を当てる殺人鬼は観客の方を伺い。
舞台の漂う魔力が振り幅を伴うが、表情は和らいでいく。
「この力すら邪魔でしかなかった。使い切ったら息も出来ねえや……やっ…と終わりだ」
重心が前によれていく姿を、宥める殺人鬼が指に力を入れた。
「ジ…エンドだ」
弾丸を射出し満たされた雰囲気で佇んでいる。
空気という距離間、撃つ瞬間、どれも結果を見る前にある祝福の面影だった。
それは背中に被弾しても変わらない。
「な、似たものに引き寄せられるだろ?」
最も遅く、最も丁寧に、翔を抱き抱えた時間を持ってして。
「青髪。銃が、効かない…あ? いつの間に…」
殺人鬼が時差の様に鈍い言葉に更に鈍く口にしている間、傷に触れないよう歩き出す。
「深海のコロシアムは勝者以外降りる権限は無い‼︎‼︎」
豹変する殺人鬼に回り込まれ銃口を突き付けられた俺は、空いた逆手でバレルを潰し魔力を纏う。
「何でミグサが負けたか知らないけれど、賢い人が選択した事は基本正しい」
ギイと奥歯を立て鳴らす横を通り。
充血した目が視野から消える。
繋げて「ただ」と、湧いてくる魔力が青から黒に変幻し陰の方角に染まる。
「その命がある限り翔はまた危険な目に合う。覚悟しとけよ殺人鬼ども」
纏わりつく体の黒全てを利き手に集め、払った俺は、逃げもせず、ただ形相とする殺人鬼に残滓が振り掛かり。爆破し巨大が吹き飛ぶ。
宙を回転し客室を破壊していく頃には翔を寝かせて。
「俺の魔力を渡したい」
メイミアの元で、ティバイで知り得た方法を縋る様に聞いていた。
遅かったから、断られる恐怖が今になって悔やまれる。
俺に生命維持の治癒は間接的に難しく浅はかだと、けれどあの意志を尊重できなければもっと悔やむ。
「私の魔力じゃ悪化しちゃうからね」
メイミアは翔の心臓位置に手を翳した。
魔力を込めれば渡せると説明されながら。
「頼む。支配されていたこの魔力を打ち消す位めいいっぱい送ったら、後は俺が終わらす」
透き通る青模様に翔が包まれる。
「まさか魔力を宿していたなんてね、生命系統から分かったよ。この子はミグサの血縁だ。気付けなくてごめんよ。翔君」
舞台に白服の男が上がる。
演説が始まり。満悦な顔で視線を送る態度は確かに殺人鬼にふさわしい。
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