第15話 銀の手紙

 気が付くと外にいた。

 まだ名残りが身体に残る。

 きっと逃げて来た俺は服の中に手紙を見つけ公園の椅子に座った。


 ──拝啓 先輩へ──


 そんな宛名でやや不安なヴァレンの手紙。


 …


 おはようございます。今日も殺伐とした良い天気ですね、如何お過ごしですか?


 おはようございます。刃をぎっしり仕込んだ落とし穴を用意して一週間経ちました、如何お過ごしですか?


 おはようございます。先輩の枕に火薬を仕込んで二週間経ちましたけど如何お過ごしですか?


 おはようございます。一ヶ月経ちましたけど如何お過ごしですか?

 ……

 …


「怖わ…」


 ……

 …


 あれから一年経ちました。先輩の消息不明が知れた他組織が連合を組んだり、それはそれは大変な事態に兄弟や会頭の義侠ぎきょうに支えられ生き永らえた次第です。

 そして先輩の象徴シンボルを付けていた私には桁外れの猛者もさが集う危機的抗争に追い込まれた苦悩は死んでも許しませんから。


 …


「なんか、すいませんでした」


 いえ苦悩は消えませんから謝っても困ります。

 さて、先輩の象徴は青い羽根でしたね。

 近寄る者は恐れを抱き、向う者は征服する。綴っていくと面影が見えるようです。

 文字って不思議ですね。

 そう、最近耳にした情報ですが豚に真珠という物取りがいるそうなんですよ。大ウケしました。


「クソ」


 そして明日、私の所に兄弟が来るそうです。なんでも別の世界の出身?で優秀な後輩だとか。

 ……それで。


 本日限りで、先輩の象徴を返上する議決となりましたことを趣旨しゅしに絞めさせて頂きます。

 御世話になりました。

 最後になりますが皆先輩の帰りを待っています。ふらっと帰ってきて下さい。

 ヴァレンより。


「そう…。」


 思ってたのと違う。

 警戒も要らなかった。

 生きて帰れるか、そんな考えが払拭する俺は「言い忘れてた。大きくなったな」と伝える。


 …


「驚かないんですね」


 椅子の裏側で腰を預けていたヴァレン。

 驚かないというのは背後を取られた事だが白魔術界で慣れてしまった。


「公園ですか。昼間といい暇なんですね」


「ん。そっちはやることないっの?」


 俺が引き攣ってると「合ったんですが、前日失敗しました」と流されていった。

 片や公園の入り口から姿が見える。

 空気中に明瞭めいりょうな魔力を漂わした、だだ流れの狂気が向かって来る。

 俺はヴァレンに背後を取られた様に「今みたいな瞬間移動って俺もできる?」とせかすが「スキルですか…‼︎」と同じ目線に振り向くヴァレンが椅子から飛び離れ、掌に滴る直線状の魔力が凍結音を鳴らし白い剣を構えていた。

 何を緊張して?

 そう感じ取り「狂気が誰に向けられてるか見てよ?」と促す。

 一先ず冷静に意味不明な緊張を解いてあげたい。

 内心逃げたいという身振りを留め「誰って私達……嘘」と聞こえ、光が舞っていた目にメイミアを映し白い剣を下ろしていった。

 メイミアは「大丈夫?」との声を掛けながら「夢みたいでつい、すいません」とヴァレン。


「全然! 詰めてシオン」


 元々隅すみにいるが余白を詰める。

 真ん中にヴァレン、メイミアが隣に座って続ける。


「ほら安全だよ、剣を渡して?」


「はい」


 冷気を帯びる剣はそう言って渡されると「コレで死ぬなら本望だよね!」と椅子から消失した。

 それは側の木陰に移動していた様で、月下の光に煌々とする鋒。

 丸みのある新緑に剣を振り下ろし悲鳴が響いた。


「久しぶり。ユキ」


 斬り裂かれた葉や茎が白み掛かる。

 そこから脱する彼の姿があった。


「何するんすか⁉︎」


「ユキもおいでよ」


 メイミアに引っ張られ俺らの所に来る。


「どうも…数時間振りっすね」


 軽い会釈でバリバリ鳴らす服が凍結していた。


「大丈夫?」


「いつもよりは、マシっす…はい」


 思わず蒼白の彼に席を渡した。

 また、メイミアとは初めましてでない印象だが。


 ◆何でだろう?◆


 戦がれて不思議に思うと、微量の魔力が含んでる。

 目で追うと公園の入り口に魔術師達の姿。

 内に腕を組むヒビキ先生が俺らを監視してるみたいな光景に「失敗って何したの…」と聞くと「はい…魔術学校にある王の戦利品収奪をしくじりまして」とユキ君。

 ──へえ。

 戦利品って何だろう。

 それにヴァレンが慌てた理由がこれと。

 それで王を相手に失敗し魔術師から追われ、撒いて帰るのは難しいという状態なのか…。


「青い髪に紅い羽根の装飾。通報あったぞシオン!」


 張り上げる先生を筆頭に魔術師達が距離を狭めて来る。

 ヴァレンとユキ君に慌てて伝えた。


「逃げる準備を…んっ⁉︎」


 あ…。

 通報の理由はヴァレンの象徴。同時に足音が押し寄せる圧迫感、鋭い眼差しで「抵抗するなよ。罪が増える、お前のためだぞ」と先生。

 片や「最後に先輩達に会えて良かったです」とヴァレンの声に「死罪っす。吹っ切れてはいたけど魔術師に追われるってこういう事なんすね」とユキ君。

 不穏な話しを聞いていたら俺らの地面に魔法陣が浮かび上がってるし。


「どうするシオン?」


 魔法陣に沿う透明な壁で出られなければメイミアに薄ら笑いされるし、同罪かよ…。

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