第40話 メイドさん遊び①

 カッ、カッ、と。


 黒板の上でチョークが躍る。


「……という訳で、我がクラスの学園祭における出し物は、メイド喫茶になりました~」


 クラスメイトたちは拍手をする。


「メイド喫茶か~。ベタだけど、悪くないな」


 道三郎が言う。


「うん、そうだね」


「うちのクラスの女子はまあまあレベルが高いし。それなりにお客さんも入るだろうな」


「確かに」


 とか頷きつつ、俺は可愛らしいメイドの姿を想像していた。


 クラスの女子ではなく、可奈子さんの。


「……お願いしてみようかな」


「どした?」


「あ、いや。何でもないよ」




      ◇




 休日。


「ふんふふ~ん♪」


 いつも通り、可奈子さんは家の掃除をしていた。


 俺はそんな彼女の様子を伺いつつ、


「ねえ、ちょっと良いかな?」


「えっ、何?」


「実は可奈子さんにプレゼントがあるんだ」


 そう言って、俺は箱をテーブルに置く。


「突然どうしたの? 誕生日でもないのに」


「まあ、何ていうか……とりあえず、開けるね」


 掃除の手を止めて、何かとドキドキした目を向ける可奈子さん。


 俺も何だか緊張しながら、箱を開けた。


「これなんだけど……」


「……えっと……何かの衣装? 可愛いね」


「うん、メイド服なんだ」


「メイド服……」


「これを可奈子さんに着て欲しいんだ」


「へっ? な、何でまた?」


「いや、学園祭でうちのクラスがメイド喫茶をやるんだけど。俺はクラスの女子よりも、可奈子さんのメイド姿を思い浮かべちゃって」


「そ、そうなんだ」


「ほら、この前も可奈子さんに制服のコスプレをしてもらったでしょ?」


「あれはコスプレじゃありません!」


「あ、そうだった。とにかく、それで少し目覚めちゃったと言うか……」


「……変態くん」


「ご、ごめん。嫌ならあきらめるから」


「嫌ってことはないけど……」


 可奈子さんは包みに入ったそれをまじまじと見つめる。


「……メイドさんって、せっせと家事をこなすものよね?」


「えっ? ま、まあ、そうだね」


「じゃあ……ちょっと待っていて」


 可奈子さんはメイド服を抱えると、脱衣所に入った。


 俺はドキドキしながら、その場で待った。


 耳を澄ますと、衣擦れの音がするようで……って、バカ!


 やがて、脱衣所の扉が開く。


「……お、お待たせ」


 理想のメイドさんがそこにいた。


 顔良し、胸良し、照れ具合良し。


 って、俺は本格的に変態かよ。


 けど、そうなってしまうくらい、可奈子さんは魅力的な存在なのだから、仕方がない。


「可奈子さん、サイズはどう?」


「う、うん。平気だよ」


「胸とか、苦しくない?」


「こら?」


 可奈子さんはジト目になりつつ、両腕で胸を隠す。


「ご、ごめ……」


 と、謝りかけて、俺はふと思いつく。


「……可奈子さん、その服に袖を通したということは、もう立派なメイドさんだね」


「へっ? あ、うん」


「と言うことは、ご主人様である、この俺に従うってこと……だよね?」


「ご、ご主人様……!? あ、でも……そっか」


「だから、可奈子さん……いや、可奈子」


「よ、呼び捨て……!?」


「ダメかな?」


「う、ううん。何か胸とかお腹の奥がキュンキュンしちゃって」


「じゃあ、可奈子。引き続き、掃除をがんばってくれたまえ」


「は、はい、冬馬くん」


「違うだろ。ご主人様、だ」


「ちょ、調子に乗っちゃって……」


「んっ?」


「な、何でもありません、ご主人様」


 半ば投げやりのそう言って、可奈子さんは掃除を再開した。


 俺はソファーに座りつつ、その光景をチラチラと眺める。


 いよいよもって、変態的だけど。


 仕方がない。


「は、恥ずかしいな~」


 可奈子さんは赤面しながら、掃除を進めて行く。


 しかし、メイド服ってのは……良いな。


 カチューシャは可愛いし、全体的に清楚なイメージだ。


 それは可奈子さんのイメージそのものだけど。


 体はすごくエッチだから、ところどころでそれが浮き彫りになっている。


 ウエストを締めているから、豊かすぎるバストが目立つし。


 身を屈めた時、突き出すヒップも、何だかエロチックだ。


 いやいや、あまりジロジロ見るのはやめよう。


「ご主人様、掃除が終わりました」


「あっ、そうかい。ありがとう」


「次は何をすれば良いでしょうか?」


「そうだね……じゃあ、美味しいお茶を入れてくれるかな?」


「かしこまりました」


 可奈子さん、意外とすぐに順応したな。


 キッチンにて、優雅な所作でお茶とお菓子を用意してくれた。


「お待たせしました」


 テーブルに置いてくれる。


「ありがとう」


 俺はずず、と紅茶を飲んだ。


「うん、美味しい。可奈子の入れてくれるお茶は最高だよ」


「ご主人様のために、いっぱい愛情を込めました」


「具体的には、どんな風に?」


「へっ? ど、どんな風にって……」


「例えば、あるでしょ? ほら……萌え萌えキュン♡……みたいな」


「そ、それは……変態」


「ごめん」


「そ、そんなにやって欲しいの?」


「うん、やって欲しい」


 俺が懇願するように見つめると、可奈子さんはまた照れてしまう。


「ちょ、ちょっとだけだからね」


「やったー!」


 俺はついハシャいでしまう。


「行くよ? コホン……」


 可奈子さんは軽く咳払いをして、


「萌え萌えキュン」


 そう言った。


 ご丁寧に、手でハートの形まで作ってくれて。


「こ、これで良い?」


「うん、すごく良かったよ。あ、写真を撮りたいから、もう1回お願いしても良い?」


「へぇ!? も、もう、バカ~!!」


 可奈子さんの叫び声が響き渡った。







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