第47話 嫉妬する可奈子さん

 修学旅行は楽しく終わって欲しくない時間というもの。


 けど、俺はこの時をひたすら待っていた。


「ただいま、可奈子さん!」


 玄関ドアを開くと、


「おかえりなさい、冬馬くん!」


 パタパタと玄関先まで駆けて来た可奈子さんは、そのまま俺に抱き付いた。


「わっと……」


「あ、ごめんね。久しぶりに冬馬くんに会えたから、嬉しくて」


「たった2日ぶりでしょ?」


「そ、そうだけど……」


「嘘だよ。俺もすごく長く感じた。やっぱり、可奈子さんがいない日常なんて、考えられないよ」


「私もよ」


 俺たちはキスをした。


「えへへ」


「そうだ、可奈子さん。お土産を買って来たよ」


「わぁ、何かしら?」


「ソーキそばにちんすこう、サーターアンダギーに……」


「食べ物ばかりね」


「あとは、これ」


 俺は可奈子さんを抱き締めるようにした。


「……あっ」


「可奈子さんに似合うかなって思って」


 俺がプレゼントしたのは、貝殻のネックレスだ。


「これ、沖縄の海で拾ってさ。で、お店の人に頼んだら、すぐに作ってくれたんだ。


「え~、すご~い……ありがとう、冬馬くん。とても嬉しいわ」


「どういたしまして。俺も嬉しいし……そのネックレスも、たぶん嬉しいよ」


 ネックレスは、ちょうど可奈子さんの谷間にかかっていた。


「こら、エッチ♡」


「ごめん、可奈子さん成分が不足していて」


「とか言って、修学旅行先で浮気とかしてないでしょうね?」


「うっ……し、してないよ」


「ちょっと、今の間は何かしら?」


「いや、その……ちょっと、クラスのビッチに襲われたから」


「ビ、ビッチ? ふぅ~ん? やっぱり、冬馬くんはモテるんだね」


「で、でも、必死に逃げたよ? 本当だよ?」


「分かっているけど……何されたの?」


「いや、言えないよ」


「言わないと……」


 可奈子さんにジト目で睨まれて、俺はたじろぐ。


「……こ、ここを、いじめられました」


「そ、そんな……まだ私も、いじめたことないのに」


「可奈子さんは、いつも俺にいじめられる側だもんね」


「こら、調子に乗らないの」


「でも、最後にはいつものSっぷりを発揮して、そのビッチを退けたから」


「嫌らしいことしてないでしょうね?」


「してないよ。俺は可奈子さんにしかしないし」


「なら許す」


「そうだ、ソーキそば作ってよ。これ、美味しかったんだ」


「分かったわ。冬馬くん、疲れたでしょ? お風呂に入って来て」


「うん」




      ◇




「「ごちそうさまでした」」


 2人で仲良く手を合わせる。


「美味しかったわ、ソーキそば」


「それは良かった。でも、本場のお店のはもっと美味しかったから。いつか、2人で行こうね」


「ええ、ぜひ行きたいわ」


 可奈子さんは微笑んで言う。


 はぁ、たった2日ぶりだけど、やっぱり俺は可奈子さん欠乏症だったんだなぁ。


 この笑顔の尊さが、普段の何割増しにも分かってしまう。


「あれ、可奈子さん」


「どうしたの?」


「ちょっと見ない間に、また胸が大きくなったんじゃないの?」


「……セクハラ冬馬」


「いや、嘘だよ、ごめん。でもやっぱり、すごく重そうだなって。同級生の女子たちと比べて」


「ちなみに、冬馬くんに迫って来たビッチちゃんは、どれくらいだったの?」


「ん? そこそこ」


「冬馬くん、女子を胸でしか判断しないなんて、最低よ」


「いや、そんなことは……だって、可奈子さんのおっぱいがデカすぎるのがいけないんだし」


「もう、おっぱい星人なんだから」


「男はみんなそうなんだよ」


「冬馬くんだけは違うって、信じていたのに」


「いや、もう今さらでしょ。ていうか、可奈子さんこそ、今まで散々そのご自慢のおっぱいを俺に食べさせて……」


「こ、こほん。冬馬くん、いい加減にしなさい」


「ごめんなさい。2日ぶりの可奈子さんにテンションが上がっちゃって」


「まあ、私もだけど……じゃあ、罰ゲームを与えます」


「え、何をするの?」


「この2日間、私に寂しい想いをさせたから……今晩は、いっぱいシて欲しいなって……」


「か、可奈子さん……よし、今すぐベッドに行こう」


「あ、でも私、まだお風呂に……」


「どうせ、汗だくになるんだから。後で一緒に入ろうよ」


「……うん」


 可奈子さんは俺の腕に抱き付き、頷く。


「あ、そうだ、冬馬くん。お願いがあるの」


「え、なに?」


「今日は、私の方が冬馬くんを……いじめても良い?」


「えっ」


「だって、その……他の女の子にされっぱなしじゃ、悔しいし……」


「可奈子さんも、そんな風に嫉妬するんだね」


「当たり前よ。だって、私だけの冬馬くんだし……」


「可奈子さん……うん、良いよ。けど、あまりやりすぎないでね」


「大丈夫。ちょっと、つねるだけだから。これくらいの力で」


「いたっ……あ、でも」


「ん?」


「いや、その……ちょっと目覚めちゃうかも」


「むっ、そのビッチちゃんがきっかけで?」


「違う、違う。可奈子さんのせいで。だって、普段は優しいお姉さん彼女に責められたら、ヤバいでしょ」


「じゃあ、今日はいっぱい、いじめちゃうからね」


「可奈子さんも、色々と成長しているな~。おっぱいだけじゃなく……あいてて!」


「おしおきだよ♡」


 その晩、俺は新しい世界への扉を開いた。







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