第48話 もっと、奥まで入れても良い……?

 町に冬の足音がやって来た。


 まだ本格的に冷え込んではいないけど。


 徐々に秋から冬へとスライドして行くようだ。


「可奈子さん、朝早くに起きるの辛くない?」


 夕食のとき。


 俺は可奈子さんにそう言った。


「まあ、少しね。でも、平気よ」


 可奈子さんは微笑んで言う。


「でもな~……あ、そうだ。もう晩の内に、明日の仕込みを済ますのはどう?」


「普段からなるべくストックを作って、お弁当は詰めるだけの状態にはしてあるけど……」


「じゃあ、朝ごはんもその延長で良いよ」


「手抜きみたいで嫌じゃない?」


「ううん、全然。それよりも、可奈子さんが辛い冬場で無理して苦しむ顔を想像する方が、嫌だよ」


「冬馬くん……優しい」


「それに、ほら。朝ゆっくり出来れば、長く一緒にベッドに入っていられるでしょ?」


「もう、それが目的?」


「まあ、半分くらいはね」


「もう、エッチなんだから」




      ◇




 風呂から上がると、2人で色々と準備を済ませた。


「名付けて、冬の朝をゆっくり温かく過ごそう作戦だね」


「冬馬くん、素敵よ」


「はは、安易なネーミングだけどね」


 俺は軽く笑う。


「じゃあ、歯を磨いて寝ますか」


「うん」


 俺と可奈子さんは2人で洗面台の前に立つ。


「一緒に磨きましょう」


「でも、ちょっと狭いね」


「むっ。私が太っているから?」


「うん、おっぱいがデカくて……あいてて」


「このお口かな~? イケない子だね~?」


「ご、ごめんなひゃい」


「あまり悪い子だと、教育的指導をするわよ?」


「教育的指導……例えば?」


「へっ? え、えっと……じゃあ、ちゃんとした歯磨きを教えてあげるとか……」


「ちゃんと磨いているつもりだけど……」


「ちょっと磨いてみせて」


「こんな感じだよ」


 シュコシュコ。


「うーん、奥の方がちょっと磨けてないんじゃない?」


「あー、そうかな?」


「ちょっと貸して」


 可奈子さんは俺が咥えたハブラシの柄を持つと、


「こんな感じで」


 シュコシュコ。


「あっ……」


 な、何かこれ、気持ち良いぞ。


 いや、別に変な意味じゃなくて。


 思えば人にやってもらうのって、気持ち良かったりするよな。


 髪を切ったり洗ったりしてもらうのもそうだし。


「ねえ、可奈子さん。もっと俺の口の中、磨いてくれない?」


「へっ? い、良いけど」


 シュコシュコ。


「あっ、気持ひいい……」


「へ、変な意味じゃないよね?」


「もひろんらよ」


「こら、歯磨き中に喋らないの」


 シュコシュコ、シュコシュコ。


「……こんな感じかな。どう、スッキリした?」


 俺はうがいを済ませてから、


「……うん。おかげさまで、スッキリしました」


「良かった」


「じゃあ、今度は可奈子さんの番だね」


「えっ? わ、私は良いよ」


「まあまあ、遠慮なさらずに」


「冬馬くん、何か嫌らしい顔になっているよ?」


「そんなことはないよ。ほら、至って真面目な顔でしょ?」


「何かムカつく」


「ほら、可奈子さんのハブラシを貸してよ」


「もう~、仕方のない冬馬くんなんだから~」


 少し嫌そうな顔をしつつ、何だかんだ言うことを聞いてくれる。


 可奈子さん、やっぱりあなたは、チョロイです。


 でも、そこが最高に可愛い年上のお姉さんカノジョなんだ。


「じゃあ、優しくするから。ほら、あーんして」


「あ、あーん……」


 シュコシュコ。


「どう、痛くない?」


 可奈子さんは小さく頷く。


「可奈子さんって、顔だけじゃなくて、歯もきれいなんだね」


 俺が言うと、可奈子さんが手をバタつかせる。


「どうしたの?」


「ひょ、ひょんなことないから……」


「ほら、喋らないで。大人しくしてなさい」


 俺が言うと、可奈子さんがジト目を向けて来た。


 ごめんね、可奈子さん。


 そんな風に少し不機嫌で怒った顔も、すごく可愛いんです。


 俺のこといつも優しいって言ってくれるけど。


 ごめん、そんなに優しい男じゃないんだ。


 だって今も、瞳が潤んでいる可奈子さんを見て、少し。


 いや、かなりイジめてあげたいって、思っている。


 これ、もっと奥に入れたら……いや、それはさすがにダメだろう。


「ハミガキは、歯茎のマッサージが重要なんだって。可奈子さんは、歯茎もきれいだね」


「んぅ~……」


「よし、結構磨けたけど……」


 奥……やっぱり奥が気になる。


「……可奈子さん」


 上目遣いでこちらを見た。


 何かこう、そそられる。


 そして、ますます俺のイケない欲望を掻き立てる。


「……もっと奥の方に入れても、良いですか?」


 俺が囁き声で言うと、可奈子さんは目を丸くした。


 その頬が、徐々に赤く染まって行く。


「ほら、さっき俺の奥もしてくれたでしょ? だから、お返し」


 可奈子さんは困惑した瞳で俺のことを見ていた。


 やはり、ダメだろうか?


 俺は可奈子さんの返事をゆっくり待った。


「…………」


 やがて、可奈子さんはコクリと頷く。


「じゃあ、行くよ」


 そして、俺は思い切って、可奈子さんの奥に入れた。


「んッ……」


「大丈夫?」


 コクリ。


「苦しかったら、俺の肩を叩いて」


 シュコシュコシュコ。


 俺は可奈子さんの奥場を磨いていく。


 けど、美人は歯もきれいだから。


 そこまで磨く必要もないだろう。


 だが、俺の手は中々止まることを知らない。


 もっと、可奈子さんの奥を……攻めたい。


 いや、攻めたいって何だよ。


 これはただのハミガキだ。


 ちょっと大人の……って、バカ!


 シュコシュコシュコシュコ……


「……んッ……ふッ……ハッ!」


 あ、やべっ。


 ちょっと、奥に入り過ぎちゃったかも。


 可奈子さんの瞳に、じわりと涙が浮かぶ。


「ご、ごめん、可奈子さん。俺、ちょっと調子に乗り過ぎちゃって……」


 そう言うと、可奈子さんは優しい手つきで俺の肩を撫でてくれた。


 俺は可奈子さんの口内からハブラシを引き抜く。


 うがいをしてもらった。


「……ふぅ」


「あの、可奈子さん……」


 改めて謝ろうとした時。


 ツン、と額を小突かれる。


「こら、いたずらっ子。いえ、そんな可愛いものじゃないわね。この変態紳士」


「ご、ごめんなさい……」


 俺はぐぅの音も出ない。


 今回の件は完全に俺がダメすぎた。


 もうどんな罰を与えられても、甘んじて受け入れる他ない。


「……もう、そんなシュンとした顔しちゃって。ちゃんと反省してくれたの?」


「もちろんです」


「じゃあ……ベッドの中では優しく……だよ?」


「あっ……たぶん、無理です」


「って、何でよ!?」


「いや、だって……可奈子さんが可愛すぎて、がまん出来ないから」


「バ、バカ……じゃあ、もう好きにしてよ……」


「あったまるどころか、暑くなっちゃうかもね」


「エロ冬馬」


「とか言って、可奈子さんもエッチなお姉さんでしょ?」


「なっ……だ、誰のせいだと思っているのよ~!」


 今夜は久しぶりに、かなり燃えてしまいそうだった。







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