第44話 冬馬のいない日常

「え、修学旅行?」


「うん。ビッグイベントの最後だね」


 夕食時に可奈子さんに話していた。


「修学旅行かぁ~、懐かしいなぁ」


「可奈子さんはどこに行ったの?」


「京都・奈良よ」


「へぇ~、舞妓さんになったりした?」


「そこまではしてないけど……着物を着たりしたわ」


「あ、ていうかそれ、アルバムで見たかも。めちゃくちゃきれいだったよ。けど、可奈子さんちょっと複雑な顔していたなぁ。恥ずかしかったとか?」


「まあ、それもあるけど……ちょっと、胸がきつくて」


 俺は思わず箸を落としそうになった。


「そ、その時も、さらしを巻いたの?」


「う、うん。着付け屋のお姉さんたちが巻いてくれたよ」


「さすがだね、可奈子さん」


「何がよ、もう。ところで、冬馬くんはどこに行くの?」


「沖縄だよ」


「良いな~。私、行ったことがないの」


「じゃあ、可奈子さんも一緒に行く?」


「こら、そんなの無理でしょ」


「でも、いつか2人で行きたいよね~……そうだ、今回の修学旅行は、その下見ってことで行って来るよ」


「もう、冬馬くんったら」


「お土産、何が良い?」


「沖縄と言えば……ゴーヤで」


「ゴ、ゴーヤ……」


「え、どうしたの?」


「あ、いや……ちなみに、使い道は?」


「もちろん、ゴーヤチャンプルーにするよ」


「で、ですよね~……あはは」


「冬馬くん?」


「いや、その……うん、ごはんが美味しいな~」


 慌てて隠す俺に対して、可奈子さんは小首をかしげていた。




      ◇




 修学旅行、当日――


「じゃあ、可奈子さん。いってきます」


「いってらっしゃい、冬馬くん」


 ちゅっ、とキスをした。


 そして、笑顔の彼を送り出す。


「……さてと」


 思えば、ずっと冬馬くんと一緒にいたから。


 1人だけの時間なんて、初めてで……少し戸惑っちゃう。


「冬馬くんがいない日常……か」


 寂しいけど……へこたれていても仕方がない。


「ちゃんとしないと。いつも以上にお掃除をがんばって、それから……」


 その時、スマホが鳴った。


「はい、もしもし?」


『あ、可奈子ちゃん? あたし~』


「涼香さん。どうしたんですか?」


『お互い、彼氏がいなくなっちゃって寂しいでしょ? ランチでもしない?』


「良いですね。じゃあ、すぐに支度します」




      ◇




 平日でも、やはり昼時は店内が賑わっている。


「可奈子ちゃん、昨日の夜はいっぱいエッチした?」


「へっ?」


 いきなりのジャブに私はフォークを落としそうになった。


「な、何を言っているんですか」


「だって、愛しのダーリンが2泊3日も家を空けるでしょ? だから、その分たっぷりしちゃった」


「ち、ちなみに、何回ですか?」


「ここだけの話……7回しちゃった」


「そ、そんなに?」


「本当は10回したかったけど、あたしの腰が痛くてね~。やっぱり、おばさんはやーね、あはは!」


「でも、7回は十分すぎよ……私たちは、1回しかしてないのに」


「あら、そうなの? 冬馬くんって紳士だけど、性欲は結構ある方だと思っていたけど?」


「普段はそうなんだけど……昨日の夜は、これくらいにしておこうって」


「たぶん、やり過ぎると、可奈子ちゃんを手放しがたくなるからじゃない?」


「そうなのかな?」


 私はパスタをすすった。




      ◇




 やばい、ミスったかも。


 飛行機の席にて、となりで爆睡する道三郎が羨ましかった。


『俺さ、昨日の夜は涼香さんとバンバンしまくったぜ、7回も。おかげで、キ◯◯マすっからかんで、スッキリだぜ!』


 一方、俺の方は、何か変にかっこつけて、1回だけで済ませてしまった。


 おかげで、今でも悶々としてしまう。


 可奈子さんの、しっとり柔らかボディを思い出して……


 も、揉みたい。いつもはすぐそばにある、あのKカップの爆乳を……揉みしだきたい。


「月城くん」


 急に呼ばれてビクッとした。


 ハッと顔を上げると、前の席に座っていた女子が、こちらに顔を覗かせていた。


「た、滝本たきもとさん? どうしたの?」


「何か、月城くんが悶々として苦しそうだなって」


「えっ?」


「もしかして、修学旅行で彼女と離れ離れになって、溜まっているとか?」


「なっ……何を言っているの?」


 この女子、クラスメイトの滝本宮乃たきもとみやのは、意外にも大胆な一言を放った。


 いや、思えば、普段もクラスで、その流し目に見つめられていたような気がする。


 そして、噂でもちょっと聞いていた。


 彼女は、ビッチであると。


「ねえ、月城くん」


 滝本さんは囁くように言った。


「あたしがスッキリさせてあげようか?」







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