第43話 お姉さんカノジョと学園祭

 学園祭当日。


 俺はクラス出し物であるメイド喫茶にて、キッチンを担当していた。


「冬馬ぁ、これどうするの?」


「フルーツの上にホイップをかけてサンドして。柔らかくて脆いから、ゆっくり落ち着いて切ってね」


「おう、任せておけ」


 メイド喫茶の料理を、男ばかりが作っている。


 まあまあシュールな光景だ。


 けど、女子は貴重な戦力として表舞台で戦ってくれているから。


「おい、お前ら!」


 すると、店内の様子を見て来た男子が、何やら色めき立って叫ぶ。


「ものすげえ美人が来ているぞ! しかも2人も!」


「「「「「「えっ、マジで!?」」」」」」


 料理中にも関わらず、男子どもは我先にと店内の様子を伺う。


「なあ、もしかして……」


 道三郎の声に、俺は頷く。


「うっひょ~! 清楚なロングヘアーのお姉さん、しかも爆乳!」


「ショートヘアのお姉さまも素敵だぜ~!」


 俺と道三郎は肩をすくめながら、彼らをかき分けて顔を覗かせた。


「ミッチーと冬馬くん、いないね~」


「冬馬くんたちはキッチンを担当しているみたいだから」


 案の定、可奈子さんと涼香さんだった。


「ちょっと、ごめん」


 俺はそちらの方に歩み寄って行く。


「可奈子さん」


「あっ、冬馬くん」


 可奈子さんがニコッとして振り向いた。


「来てくれたんだね」


「うん。ごめんね、忙しい所に来ちゃって」


「いや、良いよ」


「ミッチー、あんたもがんばっているみたいね」


「うっす」


 とか話していると、


「え、あの美人なお姉さんたちと月城くんたち、知り合いなの?」


「どういう関係?」


「まさか、恋人とか?」


 メイド姿の女子たちもまた、色めき立った。


「おーい、冬馬ぁ、道三郎ぉ。ちょっと来い。まだ料理の途中だ」


 男子たちがギラついた目で俺たちのことを睨んでいた。


「あはは、ごめん。仕事に戻らないと。ごゆっくり」


「うん。あ、休憩時間はいつなのかな?」


「たぶん、もうすぐだよ」


「じゃあ、ここで待っているね」


「分かった」




      ◇




 学園祭の廊下は賑わっていた。


「ごめんね、クラスの男子たちに根掘り葉掘り聞かれて、遅れちゃった」


「ううん、良いの」


 可奈子さんは優しく微笑んでくれる。


「ねえ、あそこに行かない?」


 涼香さんが指差す先にあったのは、おばけ屋敷だ。


「カップルでイチャラブろーぜ」


「良いっすね~!」


 と、陽気なカップルはすっかり乗り気だ。


「可奈子さん、どうかな?」


「と、冬馬くんが良いなら……」


 俺たちは遠慮がちながらも、一緒におばけ屋敷に入ることになった。


「はい、カップル様、ご案内ぃ~」


 先に道三郎&涼香さんが入って、少し遅れてから俺&可奈子さんも足を踏み入れた。


「そういえば、可奈子さんって、おばけとか平気?」


「えっと、ちょっと怖いかも……」


「ワッ!」


「きゃっ!」


 むにゅっ。


 驚いた可奈子さんが俺に抱き付くことで、豊満すぎるJさんが押し付けられた。


「ご、ごめんね」


「い、いや、大丈夫」


「……ちっ、リア充が」


 おばけが何か言った気がするけど……


「冬馬くん、ちょっと怖いから、このままくっついても良い?」


「い、良いよ」


 むにゅにゅっ。


 俺の腕に、遠慮なくJさんが押し付けられる。


 この温もりに包まれていると、どんなおばけも怖くない。


 まあ、元からそんなに怖くないけど。


 何だかんだ、学生レベルのおばけ屋敷だから。


「ちっ、リア充め」


「ちっ、リア充め」


「ちっ、リア充め」


 ……うん、やっぱりちょっと怖いな。


 嫉妬の炎に焼かれない内に、俺は可奈子さんとサッとおばけ屋敷から出た。


「いや~、中々たのしかったね~」


「そうっすね~」


 先に出ていた2人は満足したようだ。


「可奈子さん、どうだった?」


「楽しかったよ。何だか、学生の頃に戻ったみたい」


「学生の頃……」


 あのムチムチ、パツパツな制服姿が脳裏に浮かんだ。


「何を考えているのかな?」


「い、いや……あっ、外に行ってみない? 美味しいクレープとかたこ焼きの屋台があるよ」


「良いね、行こう~!」


「いっぱい食うぞ~!」


 陽気カップルはノリよく言ってくれる。


「冬馬くん」


「えっ?」


「手を繋いでも良いかな?」


「あ、うん」


「うふふ」


 今年の学園祭はとても楽しい。







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