第20話 淡々とバイトをして、段々とバカップルになる。
幸いなことに、俺の通う高校はアルバイトを禁止していない。
また、俺は両親がいないという家庭事情も相まって、他の生徒に比べてバイトすることを先生に咎められることもないだろう。
今の時代は、スマホで検索すれば、短期のアルバイトがいくらでも出て来る。
長期でやるつもりはない。可奈子さんと過ごす時間が減っちゃうし。
短期の方が色々と割が良いからな。
「道三郎、先に帰るな」
「お、急いでどうした? 可奈子さんとデートか?」
「いや、バイト」
「マジで? お前の家、親の遺産でそんなに困ってないんだろ?」
「まあね。けど、夏休みに可奈子さんとデートに行きたいからさ。そのための軍資金を貯めているんだ」
「どこに行くの?」
「温泉デート。静岡の辺りを狙っているんだ」
「偉いなぁ。俺なんて、涼香さんに甘えっぱなしだよ。昨日も、高級ディナーを奢ってもらっちゃった」
「良いんじゃないかな? 涼香さんが喜んでいるなら」
「けど、俺もちょっとバイトしようかな。安物でも、気持ちを込めて涼香さんにプレゼントしたいし」
「良いと思うよ。お互い、がんばろうぜ」
「おう」
と、軽くグータッチをして、俺は道三郎を別れた。
◇
「え、月城くん彼女いんの? しかも、年上?」
「そうなんですよ~。これがまた巨乳美女で」
「うらやましいな~。俺の彼女は同い年で貧乳だよ」
「大学生ですよね。大学って、楽しいですか?」
「まあ、楽しいよ。けど、俺としては、君の夢みたいな生活の方がうらやましいけどね~」
そんな風に話すのは、同じ清掃バイト仲間の
大学生の優しいお兄さんだ。
「でも、何でバイトしてんの? 遊びたい金欲しさ?」
「そうですね。彼女と少しリッチなデートをしたいので」
「ていうか、年上の彼女なんでしょ? 軽くヒモっちゃえば良いじゃん」
「いや、それは申し訳ないですよ。可奈子さんもパートでそこまで収入が多い訳じゃないし」
「へぇ~。じゃあ、生活費はどうしてんの?」
「まあ、色々とあるんすよ。とりあえず、成り立っているんで」
「そっか。まあ、夢みたいな時間がずっと続くと良いな」
「大丈夫ですよ。ちゃんと、現実として定着させますんで。あ、そこ汚れてます」
「おう」
◇
「ただいま~」
俺が帰宅したのは、夜の7時過ぎだった。
「おかえりなさ~い」
可奈子さんがパタパタと音を立ててやって来た。
「冬馬くん、バイトお疲れさま」
「うん、ありがとう」
「あっ……お風呂にする? ご飯にする? それとも……わ、私?」
「じゃあ、可奈子さんで」
「ふぇっ!? あ、えと、こ、心の準備が……」
「嘘だよ。汗かいたから、先にお風呂に入っても良いかな?」
「むぅ~。冬馬くん、お姉さんをからかって~」
「良いでしょ? 可奈子さんは俺の嫁な訳だし。あ、まだ彼女だけど」
俺が言うと、可奈子さんは赤面した。
「た、たくましくなるのは嬉しいけど、ちょっと生意気だぞ?」
「ははは、可奈子さんのおっぱいほどじゃないよ」
「こら。オヤジくさいぞ~? こんなに若くてイケメンなのに」
可奈子さんが両手で俺のほっぺを引っ張る。
「ご、ごめんなさい」
「本当に反省している?」
「してます」
「じゃあ……はい」
可奈子さんはスッと目を閉じて、キス顔になった。
「か、可愛いな~……」
「んっ……ほら、早くして。疲れるんだよ?」
「あ、はい。じゃあ……」
俺はちゅっ、と彼女にキスをした。
「……唇、やわらかいっすね」
「ふふ。お風呂、沸いているよ」
「ありがとう」
「あ、また一緒に入って、ちょっとイケないお店ごっこしてあげようか?」
「いや、今日は遠慮しておくよ。お金は大事に取っておかないと」
「無料サービスですよ? お客様だけ、特別な♡」
「でも、遠慮しておく。可奈子さんとはちゃんと、ベッドの上でしたいから」
「こ、こら……あまりお姉さんをドキドキさせないの」
可奈子さんは赤らんだ頬を手でパタパタとする。
「じゃあ、お風呂に行って来るよ」
「いってらっしゃい」
何だか大分バカップルになってしまった気がする。
けどまあ、楽しいからいっか。
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