第24話 2人だけの混浴タイム

 その温泉宿は割と質素な佇まいで。


 けど、決して貧弱ではなく。


 長旅をして来た俺たちのことを、しっかりと包んでくれるような感じがした。


「ようこそ、おいで下さいました」


 丁寧な所作でお出迎えをしてもらう。


 俺たちは部屋に案内してもらった。


「わぁ、素敵なお部屋」


 可奈子さんが目を輝かせる。


「こちら、個室の露天風呂が付いていますので」


 ベランダに設置されたそれを見て、俺はゴクリと息を呑む。


 俺はあそこで可奈子さんと……


「何かございましたら、遠慮なくお申しつけ下さい。失礼いたします」


 仲居さんは去って行った。


「ちゃんと、あるね。個室の露天風呂」


 可奈子さんが言う。


「そ、そうだね」


「どうしたの? もうドキドキしているの?」


「うん、まあ。何なら、ここまでの道中……いや、可奈子さんとこんな所に来るって決めて、バイトで資金を貯めていた時から……ずっとドキドキしている……かな」


 ああ、ちくしょう。


 いざその時を迎えると、メチャクチャ照れ臭くなっちゃう。


 心臓がバクバクして落ち着かない。


 ここに来る前は、内心であんなにハシャいでいたのに。


 可奈子さんとイチャラブ混浴だって。


 バカみたいだな、俺。


 そんな風に自嘲していた時、ふわっと優しく包まれた。


「……可奈子さん?」


「ほら、分かる? 私もこの後のこと考えて、すごくドキドキしているよ」


「いや、分からないよ。おっぱいデカすぎて」


「こら」


 可奈子さんはニコッとする。


「もう、入っちゃおうか」


「へっ?」


「2人きりの混浴風呂に」


「いや、でも……まだ明るいよ?」


「昼も夜も、冬馬くんと一緒に温泉に入りたいの」


「か、可奈子さん……」


 何て可愛い人なんだ。


 あと、やっぱりおっぱいデカすぎるし。


「あ、そうだ。じゃあ、お昼の混浴タイムはエッチなことなしね」


「う、うん……そうだね」


「がっかりした?」


「そんなことないよ。例えエロなしだって、俺は可奈子さんと一緒なら幸せなんだ」


「私もだよ。じゃあ……先に入ってくれる?」


「わ、分かった」


「私もすぐに行くから……」


 可奈子さんが少し艶っぽい目で俺を見た。


「う、うん……」


 ゴクリ、と息を呑む。


 俺が服を脱ぐ間、可奈子さんは見えない所に引っ込んでいた。


 別に、お互いにもう隠す仲でもないのに。


 けど、それが余計にドキドキ感を煽った。


「うわぁ……」


 ガララ、と開けてそこは、夢のような光景だった。


 景色がとても良い。


 晴れ渡った青空が、遠くの方で大きな山の山頂に突かれている。


 俺は軽く体を流して湯に浸かった。


「……おふぅ~」


 その心地良さに、思わず変な声が出てしまう。


 至極の喜びとはこのことか。


 俺はそのままお湯に溶けてしまいそうになる。


 ガララ。


「……冬馬くん」


 しっとりした声に呼ばれて、ハッとする。


 振り向くと、タオルに身を巻く可奈子さんがいた。


 清楚で可憐だけど、健康的な肌ツヤが素晴らしい。


「あっ……」


 俺は言葉が出ず、固まってしまう。


 もうお風呂には何度も一緒に入って、エッチなこともしている。


 それでも、やはりこのシチュで改めて見ると……可奈子さんって、最高に素敵な美女だよなって思ってしまう。


 何度も言うけど、おっぱいデカいし。


 可奈子さんは少し照れたように微笑むと、ハラとタオルをはだけた。


 俺は少し驚いて、目を見開く。


「か、可奈子さん……きれいだ」


「は、恥ずかしい……」


 可奈子さんは手で局部を隠しながら、身を屈める。


 そして、かけ湯をしてから、お湯に浸かった。


「冬馬くん、お邪魔します」


「ど、どうぞ」


「あっ……気持ち良いね」


「うん、だよね……」


 ふととなりに来た可奈子さんを見た。


 ぷかぷかと浮かぶその物体が、何ともエロチックだ。


 あの山よりも、こっちの山の方が断然好きです。


 って、俺はおっさんか。


「ねえ、冬馬くん」


「は、はい?」


「エッチなことはしないから……その代わり、手をつないでも良いかな?」


「ど、どうぞ」


 俺はドギマギしながら答える。


 可奈子さんがお湯の中で俺の手を握った。


 そのまま、一緒に景色を眺める。


「また1つ、夢が叶ったね」


「うん。最高だよ」


「冬馬くんがバイトがんばってくれたおかげだよ」


「いやいや、可奈子さんのおかげだよ」


「じゃあ、2人のおかげだね」


 可奈子さんが微笑むと、俺も自然と笑みがこぼれた。


 俺はそんなに長風呂はしない方だけど。


 このお湯にはずっと浸かっていたいなと思ってしまう。


 可奈子さんと一緒なら。


「ねえ、冬馬くん。風情あるこの雰囲気の中で言うのもなんだけど」


「え、何?」


「お互いに相手の好きな所、言いっこしない?」


「マ、マジで? 良いけど、めちゃくちゃ照れるね」


「じゃあ、言い出しっぺの私から……年下で可愛い」


「あはは。じゃあ、可奈子さんは年上できれいなお姉さん」


「て、照れるなぁ~……えっと、年下なのにしっかりしている」


「年上なのに、可愛らしい」


「年下なのに、キスが上手」


「ぶふっ」


「はい、冬馬くんの負け~」


「え、これそういうルールなの?」


「そうです」


「可奈子さん……ズルいひとだよ。ていうか、俺は別にそんなキスとか上手くないよ?」


「でも、冬馬くんにキスされると、いつもトロけちゃうし」


「俺だって」


 言い合っている内に、いつのまにか距離が近くなっていた。


「……確かめてみる?」


 可奈子さんの優しい囁き声が決め手だった。


 俺たちは唇を重ねる。


 しっとり柔らかい、可奈子さんの唇が気持ち良かった。


 やがて、そっと離れる。


「……冬馬くん、ちょっと加減したでしょ?」


「へっ?」


「いつもはもっと、舌とか入れて来るのに。照れちゃった?」


「ま、まあ……」


「もう1回ね」


「あの、エロなしの約束じゃ……」


「キスなんて、可愛いものでしょ?」


「唇同士のフレンチキスならね。だから、ベロチューは……」


「良いから、もっとちょうだい……」


 可奈子さんは清楚で可憐なお姉さんだけど。


 時折、こんな風に大胆になる。


 でも、俺との生活で少しずつ変わったのかもしれない。


 俺と出会うまでは、こんなに素敵なのに男性経験が一切ない人だったから。


 段々と、この人が俺の色に染まって行くようで……たまらない。


「……冬馬、好き」


「か、可奈子……さん」


「まだ呼び捨てに出来ないの?」


「も、もう少し……時間を下さい」


「イケメンのくせに、控えめなんだね。可愛い」


「あまりからかわないでよ。ていうか、さっきからおっぱいがプカプカ浮かんでいるし」


「そうなの。とても楽だわ」


「あ、そっか。巨乳の人にとったら、浮力が働くお湯の中は二重の意味で快適なのか」


「冬馬くんって、本当におっぱいが好きだよね」


 可奈子さんは両手を合わせてグッと伸びをする。


「ていうか、可奈子さんのおっぱいだから好きなんだけど」


「本当かな~? 巨乳なら誰でも良いんじゃないの?」


「だって俺、可奈子さんと出会ってから、そういった類のエロ本とか……あっ」


 自分の大いなる失言に気付いて、俺は額を押さえてうなだれた。


「もしかして、最近の子らしくスマホの電子本とか持っていたの? エッチなやつ」


「ま、まあ……もちろん、全年齢のやつだよ」


「そこまで聞いてないけど」


「あう……可奈子さんのイジわる」


「じゃあ、お返しに……私のこともイジめて良いよ?」


「ど、どうやって?」


「いつもみたいに」


「いや、それは……夜の部ということで」


「ふふ、言い方が嫌らしいぞ?」


「嫌らしいのは可奈子さんのおっぱいだよ」


「あー、またそんなこと言って。いい加減、私のおっぱいから離れなさい」


「離れるよ。将来、結婚して赤ちゃんが出来たら、その子に譲るし」


 言った直後、俺はまた失言に気付く。


「……って、俺はまた何を言っているんだよ」


 可奈子さん、さすがに引いたかなと、恐る恐る指の隙間から表情を伺う。


「冬馬くん……もうそこまで考えてくれているの?」


「えっ?」


「将来、私と結婚して、子作りしてくれるところまで……」


「ま、まあね。俺が愛想尽かされない限りは、叶う夢かなって」


「……ここって、子宝の効能とかあるかしら?」


「えっ? か、可奈子さん?」


「……なーんてね。冬馬くんはまだ高2だし、正式に結婚は出来ないからね」


「そ、そうだね」


「けど私としては、籍を入れるとか、そんな形式的なことにこだわらなくても……一緒にそばに居て、実質的なお嫁さんになれている現状でも幸せなの」


「可奈子さん……」


「だから……私はいつでも準備オーケーだからね」


 頬を赤く染めて俺のことを見つめる可奈子さんが、心底愛おしく感じた。


 最後まで言わなくても、彼女の伝えたいことは分かった。


「……でも俺、まだ可奈子さんと2人きりが良いから」


「……うん、私も」


 そっと唇を重ねる。


 お互いに気持ちはとても高まっているけど、そんなに深く激しくはしない。


 とても優しいキスだった。







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