第6話 スーパーでお買い物する2人

 朝の教室はガヤガヤとしている。


「うぃーす、冬馬」


 親友の道三郎みちさぶろうがやって来た。


「うっす」


「いやー、今日もかったるい授業が……ん?」


「どうした?」


「いや、冬馬、お前……何かちょっと香水の匂いがしないか?」


「えっ?」


「しかも何か、女の人の良い匂いが……お前、まさか」


「いや、違う違う。何もないから」


「本当かよ~? お前、俺に隠れて可愛い彼女でも作ったんじゃないのか~?」


「ち、違うから」


「否定が弱いぞ~?」


 道三郎がずいずいと迫って来る。


 俺はすっかり弱ってしまう。


「でも、良いよなぁ。冬馬は家に親が居ないから、彼女をバンバン連れ込んで……あっ」


 道三郎はしまったと言う顔になる。


「……悪い」


「いや、良いよ。気にしないで」


 何だかんだ、ちゃんと分別をわきまえているからこそ、俺はこいつと安心して付き合えるんだ。


「まっ、今度その可愛い彼女を紹介してくれよ」


「だから、違うっての」


「親友の目は誤魔化せないぞ」


 と、おどけながら、道三郎は自分の席に戻って行く。


「彼女……か」


 むしろ、それ以上の関係になりつつあるんだけど。


 さすがに親友の道三郎にも、そのことはまだ打ち明けられないな。




      ◇




 学校帰り、スーパーにやって来てハッとした。


「しまった、いつもの癖で……」


 もしかしたら、可奈子さんが既に食材を買ってくれているかもしれない。


 だとしたら、食料過多になってしまう。


 賞味期限の問題もあるし、それは良くない。


「あら、冬馬くん?」


 澄んだその声にハッとする。


「あっ、可奈子さん」


 お互いに驚いた顔をしていた。


「偶然ね」


「本当に。ちょうどいま、可奈子さんのことを考えていました」


「へっ?」


「あ、いや……ほら、食材買ってくれたかもなって」


「うふふ、これから買う所よ」


「じゃあ、一緒に良いですか?」


「もちろんよ」


 可奈子さんは笑顔で言う。


「今の所、こんな感じよ」


「どれどれ」


 俺はカートの中を覗き込む。


 ふぅむ、さすがプロの家政婦さん。


 全く隙がない。


「あ、お菓子とかジュース欲しかった?」


「いや、その……あ、可奈子さんこそ、お酒とか良いんですか?」


「正直ちょっと飲みたいけど……良いの?」


「もちろんですよ。可奈子さんにはお世話になっていますから」


「だって、冬馬くんのお世話をするのは私の幸せだから」


「あはは、何か照れ臭いですね」


 とか、幸せいっぱいなのろけともとれるトークをしつつ、俺たちは買い物を進める。


「ちなみに、今日の献立はお鍋です」


「お、良いですね~。じゃあ、可奈子さんのお酒も進みそうだ」


「こら、年上のお姉さんをからかわないの」


「ごめんなさい」


 ああ、これはあれだわ。


 周りから見たら、恋人とか夫婦じゃなくて。


 仲の良いお姉さんと弟みたいな感じに思われているわ、きっと。


 トホホ、って何でやねん。


「可奈子さん、袋はぜんぶ俺が持つよ」


「うふふ、ありがとう。じゃあ、車に積んでちょうだい」


「あ、そっか。可奈子さん、車があるんだった」


 つくづく、俺よりも大人だと思わされる。


 少し、ショボンとした時。


「大丈夫だよ。冬馬くんの優しい気持ち、すごく私の胸をキュンキュンさせくれるから」


 と、耳元で囁かれた。


「か、可奈子さん……」


「早く帰って、二人でお鍋しましょ?」


「は、はい!」


 もう、この笑顔が見れたら何でも良いや。


 俺は単純にそう解決した。







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