第35話 可奈子さんのアルバム

 そのちょっとした事件は、可奈子さんと2人で買い物をしている時に起きた。


「あれ、もしかして……可奈子?」


 その声に顔を向けると、驚いた顔の女性がいた。


「えっ……芽衣めい?」


 口元に手を添えて可奈子さんも驚きを示した。


「やだもう、久しぶりじゃ~ん!」


「本当にね~!」


 相手のテンションと同じく、可奈子さんもきゃっきゃとハシャぐ。


 俺は少しポカンとして、立ち尽くす。


「ねえねえ、ていうか、その人って……可奈子の彼氏?」


「う、うん」


「え~、そうなんだ~! 初めまして、可奈子の友人の綾野芽衣あやのめいです」


「あ、初めまして。月城冬馬です」


「冬馬くん、ね。2人とも、ちょっと時間ある? せっかくだから、お茶しながら話を聞かせてよ」


「ええ、私も久しぶりに芽衣と話したいわ。冬馬くんはどうかな?」


「うん、良いよ」


「ありがとう」


 そして、俺たちはモール内にあるカフェにやって来た。


「えっ、冬馬くんって高校生なの?」


「あ、はい」


「てっきり、大学生くらいかと思ったけど……可奈子、あんたもワルよのぅ~」


「や、やっぱり、ダメかな?」


「まあ、本気で愛し合っていれば問題ないっしょ」


 芽衣さんは笑って言う。


「でも、そうか~。とうとう、可奈子にも彼氏が出来たのか~」


「あの、芽衣さん」


「んっ?」


「学生時代の可奈子さんって、どんな感じでした?」


「そうだね~。あたしは高校に入って、可奈子と出会ったんだけど。もう入学した時から、可愛い子がいるって話題だったのよ。おっぱいもデカかったし。あの時はFカップくらいだっけ?」


「そ、そうだけど……今それは良いの!」


 可奈子さんが赤面して言う。


「でね、当然いろんな男達にアプローチされたんだけど、みんな断って。どんなイケメンも可奈子は落とせなかったんだ~」


「そうなんですね」


「ホッとした?」


「えっ? いや、まあ……はい」


「良いわね~、年下の彼氏って。あたしの彼氏は年上で余裕ぶっているから、何かムカつくもん」


「あはは」


「で、2人はいつから付き合っているの?」


「4月くらいからだよ。家政婦の仕事で冬馬くんと出会ったの」


「へぇ~! 夢、叶ったんだ」


「う、うん」


「理想の旦那を求めて家政婦の仕事してたんだもんね~。やっぱり、乳のデカい女は性欲が強いよ」


「こら、芽衣?」


「あはは、ごめんって」


 何か、こんな風にハシャぐ可奈子さん、初めてみるかも。


 涼香さんとも仲が良いけど、相手が年上だから、少し遠慮している所があるし。


 芽衣さんとはきっと、気の置けない親友だったんだろうな。


「あの、芽衣さん。可奈子さんのこと、もっと教えて下さい」


「と、冬馬くん……」


「良いわよ~♪」




      ◇




 家に帰ると、


「ねえ、可奈子さん」


「なに?」


「学生時代のアルバムってあるの?」


「へっ? う、うん、一応あるけど……」


「じゃあ、見せてよ」


「えっ? ま、まあ、良いけど……ちょっと待っていて」


 可奈子さんは、2階に上がって行く。


 俺がソワソワして待っていると、やがて降りて来た。


「ね、ねえ、どうしても見たい?」


「見たい」


「わ、分かったわ」


 可奈子さんは照れながら、テーブルにアルバムを置いた。


 この中に、高校時代の可奈子さんが……


 俺はドキドキしながら、アルバムを開く。


「……わっ」


 すぐに分かった。


 一人だけ、ものすごく可愛いから。


 それに、確かに……


「……この頃から、デカい。制服の上からでも分かる」


「こ、こら、変態」


「えっ、ていうかマジで可愛すぎるんだけど。本当に彼氏いなかったの? こんなの、強引に襲われるレベルだよ」


「そ、そんなことないから……」


「あっ、ごめん。つい暴走しちゃって……」


「良いよ。冬馬くんが変態くんだって、もう知っているから」


「か、可奈子さん……」


 プチ仕返しをされてしまう。


「えー、本当に可愛いな~」


「そ、そんなに言わないで……」


「あっ」


「どうしたの?」


「……ねえ、学生服ってまだある?」


「あるけど……えっ、まさか」


「着て欲しいな~、なんて」


「ダ、ダメ、無理よ。この頃よりも、太ったし」


「確かに、一部分がすごく……」


「ゲンコツしても良い?」


「ご、ごめん。でも……俺、いつも思っているんだよ」


「何を?」


「もし、可奈子さんと学生時代に出会えたらって……」


「そんなの、私だって……思ったりするよ?」


「じゃあ、お願い。今日だけで良いから、俺と可奈子さんが同じ学生気分で……ね?」


 俺は必死にお願いをする。


 可奈子さんは少し難しい顔をしていた。


「……ちょっと待っていて」


 可奈子さんは立ち上がると、また2階に上がって行った。


 待っている間、俺は可奈子さんのアルバムをひたすらに眺めていた。


 それから、30分くらい時間が経った。


 ギシ、と音がする。


 俺はピクリと反応した。


「……ご、ごめんね。どうしても、手間取っちゃって」


「ああ、良いよ、そんなの……」


 俺は絶句した。


 確かに、その制服はパツパツだった、特に一部分が。


 けど、それでも……このアルバムの写真と何ら変わりない、色あせない美少女がそこにいた。


「……は、恥ずかしい」


 可奈子さんはパツパツの胸部とそれからお尻を押さえて言う。


「や、やばっ……」


 俺はある意味、禁断の扉を開いてしまったのかもしれない。







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