第33話 やっぱり浴衣って……良いよね
パタン、とケースを閉じる。
「じゃあ、冬馬、可奈子ちゃん。お世話になりました」
繭美が笑顔で言う。
「もう少し居ても良いんだぞ?」
「おやおや~? 急に寂しくなっちゃった?」
「まあ、そうだな」
「ほぇっ!?」
「ぷっ、焦ってやんの」
「むっ、冬馬のくせに生意気……可奈子ちゃん、こいつビンタして」
「何でだよ。さっさと帰れ」
「言われなくても帰るよーだ、べーっ!」
どこまでも生意気な繭美が言う。
「繭美ちゃん、またいつでも遊びに来てね。って、ここは冬馬くんのお家だけど」
「いや、もう可奈子さんの家でもあるから」
「冬馬くん……」
「全く、隙あらばイチャイチャしちゃって~。あたしがドアを閉めた直後、もうキスとかするんじゃないの?」
「し、しないわよ、そんな……」
とか言いつつ、可奈子さんはチラッ、チラッと俺の方を見て来た。
何かこっちまで心臓がドキドキするんだけど……
「これは、これは……その内、できちゃった報告されたりして」
「いや、俺たちはきちんとしているから」
「何を?」
「繭美、いい加減にしろ」
「あはは! 冬馬って、もう経験者のくせに、いつまでも童貞みた~い!」
「うるせえよ! さっさと帰れ!」
「はいはい。二人とも、バイバ~イ!」
繭美は笑顔で手を振りながらドアから出て行った。
バタン、と閉まる。
それから十秒後、また開いた。
「あれ、キスしてないなぁ?」
「早く帰れってば!」
「怒りんぼ冬馬バーカ!」
最後にまたあかんべーをされ、繭美はようやく帰った。
「全く……疲れたなぁ」
「でも、楽しかったね。賑やかで」
「まあ、そうかもね」
俺は苦笑する。
「あの、冬馬くん……」
「ん? どうしたの?」
「えっと……キスするの?」
「えっ!? あ、いや、その……」
可奈子さんは潤んだ瞳で俺を上目遣いに見て来た。
俺は戸惑いつつも、その繊細な顎に触れ、そっとキスをした。
「あっ……優しいキス、気持ち良い」
「じゃ、じゃあ……掃除しますか。繭美のやつがいっぱい汚したからさ」
「うふふ、そうね」
可奈子さんは微笑んで頷いた。
◇
夏は色々とイベントを味わったけど。
まだ最後に、楽しいイベントが残っていた。
「よし」
俺は着替えを済ませると、一つ息を吐いた。
まあ何てことはない、いつも通りの私服だけど。
一方、可奈子さんは……
「……と、冬馬くん」
畳部屋の方から、可奈子さんが顔を覗かせた。
何だか少し困った顔をしている。
「どうしたの?」
「あの、浴衣の着付けを手伝って欲しいの」
「えっ? あっ……お、俺で良ければ」
「じゃあ、お願いね」
俺はそっと、中に入る。
「お、お邪魔しまーす……」
そして、軽くギョッとした。
「えっ、可奈子さん、下着姿で……」
「あっ、ごめんね。お見苦しいものを……」
「いや、全然そんなことはないけど……で、何をどうすれば良いの? 俺、着付けなんて分からないよ?」
「あのね、さらしを巻くのを手伝ってもらいたくて」
「さらし?」
「うん。胸が大きすぎると、ちょっとバランスが悪いから……」
言われて、俺は可奈子さんの豊かな胸に目が行く。
相変わらず、たぷんと柔らかく、かつ重量感を感じさせる素晴らしいおっぱいだ。
しかも、今はノーブラの状態で、可奈子さんが腕で隠していて……いや、隠し切れていないけど。
って、俺のバカ!
「そ、そんなにジロジロ見ないで」
「あっ、ごめん……えっと、どうすれば……」
「これを私の胸に巻いて」
俺は白い布を渡される。
「じゃ、じゃあ……失礼します」
俺はドギマギしながら、可奈子さんの背後に回ると、そのさらしを巻き始める。
可奈子さんの豊かな胸を捕えると、確かな抵抗を感じた。
優しくおっとりした、可奈子さんみたいなおっぱいだけど。
やはり、少しばかり窮屈だから、軽く暴れそうになる。
けど、すごく柔らかいから、何とか包むことが出来た。
「もう少し、引っ張って良いよ?」
「わ、分かった」
ぐい、ぐい、と。
「んっ、あっ……」
「い、痛くない?」
「うん、冬馬くんが上手だから……平気」
「そ、それは良かった」
俺は尚もドキドキしながら、さらしを結んで止めた。
「どう、苦しくない?」
「正直、ちょっと窮屈だけど……でも、こうしないと、目立っちゃうから」
「確かに。可奈子さんみたいな超美人が浴衣で魅力マシマシになっていたら絶対に注目されるし。その上、巨乳であるとバレたら、周りの男どもが……クソ、想像しただけでムカついて来た」
この前の市民プールは平和だったけど。
夏祭りともなれば、ちょっと悪い奴らもいたりするし。
そんな奴らに、可奈子さんのエッチな姿を見せたくない。
「大丈夫よ、冬馬くん」
「えっ?」
「だって、冬馬くんがそばに居てくれるから。ねっ?」
「か、可奈子さん……」
つい、見つめ合ってしまう。
「……あっ、ま、まだ着付けの途中だったね」
「う、うん」
それから、可奈子さんは浴衣を着て行く。
彼女によく似合う、薄桃色の浴衣だ。
マジで、きれいで可愛い。
俺は思わず見とれてしまう。
「可奈子さん、あの……」
「あっ、ちょっと待ってね」
「えっ?」
可奈子さんは、なぜか足を少し上げた。
「よいしょ、と」
そして、細くきれいな脚を伝って、何かが下りて来た。
こちらも愛らしい、桃色のパンティー。
というか、俺は昨日それを見ている。
ていうか……えっ?
「か、可奈子さん!? ノ、ノノ、ノッ……!?」
「……浴衣は下着を身に付けないのがマナーなの。あっ、さらしはどうなんだろう……まあ、それもマナーだよね。あまり大きすぎると、品が無いから」
可奈子さんは少し照れながら言う。
その間、俺は衝撃のあまり軽く顎が外れそうだった。
「と、冬馬くん……ど、どうかな?」
「いや、その……ありがとうございます」
「ど、どういたしまして?」
やばい、これはもう。
絶対に守ります。
飢えた狼どもに食わせる訳には行かない!
「可奈子さん、安心して。俺、密かに筋トレしているから。可奈子さんにふさわしい男になるために。だから、ケンカでも負けないよ?」
「えっ? こら、ケンカはダメだよ」
「あっ、ごめんなさい……」
「冬馬くんも、甚平を着れば良いのに。絶対に似合うしカッコイイよ」
「そ、そうかな?」
「こんなことなら、買っておけば良かったな~……」
「じゃあ、それはまた来年の楽しみってことで」
「うふふ、そうね」
可奈子さんは白く滑らかな手で俺に触れた。
ドキリとしてしまう。
「人生初のお祭りデート、楽しみなの」
「そ、そっか……可愛すぎる」
「えっ?」
「な、何でもないよ。早く行こう」
「うん」
こうして、夏の最後の思い出づくりが始まる。
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