第27話 悶々とする

「可奈子ちゃん、ごちそうさま~!」


「お粗末さまです」


 両者は笑顔で言い合う。


「でも、どうしよう。こんなに美味しいごはんを毎日食べたら、あたし太っちゃうよ~」


 繭美は頭を抱えて言う。


「へぇ~」


 俺が生返事をすると、繭美はチラっと横目で見て来た。


「おっぱいがますます大きくなっちゃうかも~♡」


「下品な女だな。見損なったぞ、繭美」


「何でそんなこと言うの~? 可奈子ちゃんの方がおっぱい大きいでしょ?」


「可奈子さんは清楚で上品なんだよ。下品なギャルのお前と違ってな」


「あー、それギャルに対する偏見だから! あたし、臭くないもん!」


「そこまでは言ってないだろうが」


「こらこら、2人とも。あまりケンカしていると、今度からごはん抜きにするわよ?」


「「ごめんなさい……」」


 結局、可奈子さんが最強だった。


「そうだ、2人のどっちか先にお風呂に入ってちょうだい」


「あー……じゃあ、繭美が先に入れよ」


「えっ、良いの?」


「まあ、お客さんだからな」


「とか言って、本当は可奈子ちゃんと2人きりになりたいんでしょ~?」


「バカ、違うよ。だったら、俺が先に入るから」


「良いよ。その間、あたしが可奈子ちゃん寝取っておくね♪」


「ご機嫌な調子で何を言ってやがるんだ」


「あれ~? 自信が無いのかな~?」


「うるさいな」


 俺は立ち上がると、風呂に向かった。




      ◇




 ちゃぷ、とお湯の音がした。


「全く、繭美の奴め。勝手に来ておきながら、好き勝手しやがって」


 でも思えば、昔からあいつの奔放さに振り回されていた気がする。


 まだ俺が小さかった頃は、親戚のおじさん達に色々とお世話になったから。


 もちろん、今でもお世話にはなっているけど。


 繭美ともよく会っていた気がする。


『とうまぁ、将来はあたしがおヨメさんになってあげようか~?』


 ……って、何で今そんなことを思い出すんだ。


 確かに、あいつは大人になって、良い感じに成長した。


 顔も可愛くてスタイルも抜群。


 けど、性格はウザい。


 それに、俺は可奈子さん一筋なんだから。


 ていうか、あいつ彼氏とかいるだろ、きっと。


 ギャルだからな。


 って、これも偏見か。


 ザパッ、とお湯から上がる。


「はぁ~……」


 ため息がずっと止まらない。


 夏休みの間だけって言ったけど、そのまま入り浸ったりしないだろうな?


 まあ最悪、その時はおじさんに連絡するか。


 ていうか、今の段階でやっぱりした方が……


 ふと、優しくそれを止めた可奈子さんの顔を思い出す。


 もう少しだけ、様子を見ておくか。


 俺は脱衣所で着替えとドライヤーを済ませた。


 リビングへと向かう。


「……んっ、あっ」


 ふいに、艶めかしい吐息が聞えた。


 これは……可奈子さんの声だ。


「可奈子ちゃん、気持ち良い?」


 繭香の声もする。


「うん、気持ち良い……繭美ちゃん、どこでこんなの覚えたの?」


「日々、勉強してますから。冬馬とどっちが上手?」


「冬馬くんには……あまりしてもらったことが無いかも」


「え~、そうなの? 冬馬もまだまだだなぁ。こりゃ本格的に、あたしが可奈子ちゃんをモノにしちゃおうかな~」


「ダ、ダメよ。私には冬馬くんが……んあっ!」


「とか言いながら、ここすごくコリコリしてるよ? こんなに立っちゃって……興奮してるんじゃないの?」


「ま、繭美ちゃんがイジめるから……」


 な、何だ、この会話は……


 ガチで可奈子さんを繭美にNTR……


 いやいや、落ち着け。


「お、おい、何をしているんだ!?」


 勢い良くドアを開けた。


「へっ?」


「えっ?」


 俺が見た光景は、ソファーの上で仰向けになり、ひざを立てた状態で涙目になっている可奈子さんと、それを小悪魔的な顔で見下ろす繭美だった。


「と、冬馬くん……?」


「おっ、どうしたの?」


「いや、それはこっちのセリフだよ。お前、可奈子さんに何をした?」


「そんな怖い顔するなって。ただのマッサージだよ。ねぇ、可奈子ちゃん?」


「う、うん」


「本当かよ? 可奈子さんに嫌らしいことしてないだろうな?」


「ていうか、嫌らしい声をずっと漏らしていたのは可奈子ちゃんだけど?」


「これ以上、可奈子さんを汚すな、ビッチが!」


「あー、言ったね! またギャル差別したね! ギルティー!」


「うるせえよ! 良いから、早く可奈子さんから離れろ!」


「冬馬ぁ、男はもっと余裕がないとダメだよ~?」


「お前なぁ~……」


「と、冬馬くん、そんなに怒らないで。繭美ちゃんは私にお礼をしてくれただけだから」


「お礼?」


「そっ。飛び切りおいしいごはんを食べさせてくれたお礼♡」


「まあ、そういうことなら良いけど……」


 俺はため息を漏らす。


「俺、ちょっと疲れたから先に寝るよ」


「男のくせに情けないな~」


「いちいちうるさいよ」


「冬馬くん、大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ。おやすみ、可奈子さん」


「ちょっと、あたしには~?」


「早く風呂にでも入れよ、バカギャル娘」


「バカは冬馬の方だよ」


「うるさい。じゃあな」


 俺はズンズンと階段を上がって行った。







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