第50話 聖なる夜に

 クリスマス当日。


「可奈子さん、ワインどうぞ」


「ありがとう。冬馬くんは、何を飲む?」


「俺はリンゴジュースで」


 お互いのグラスにとくとくと注ぐ。


「「じゃあ、メリークリスマス、カンパイ」」


 チン、とグラスをぶつけてこくりと飲む。


「美味しいわ」


「それは良かった」


「冬馬くん、今日はがんばって作ったから。いっぱい食べて」


「うん、ありがとう、可奈子さん」


 骨付きのチキン、シーザーサラダ、コーンポタージュ、などなど……


 クリスマスだからって、そこまでハリキリすぎない。


 そんな所が、きれいだけど素朴で優しい可奈子さんらしくて、素敵だと思った。


「美味しいよ、可奈子さん」


「うふふ」


 可奈子さんは微笑んでくれる。


「あ、そうだ。忘れない内にこれを……」


 可奈子さんはそばに置いていた包みを俺に渡してくれる。


「はい、メリークリスマス」


「うわぁ、ありがとう、可奈子さん。開けても良い?」


「うん、どうぞ」


 俺はドキドキしながら、その包みを開ける。


「……おぉ、マフラーだ。もしかして、これって……手編み?」


「うん、編んじゃいました」


「さすが、可奈子さん。これがあれば、寒い冬もへっちゃらだね」


「もう、冬馬くんってば」


「じゃあ、俺からもプレゼントを……」


 俺も包みを可奈子さんに渡す。


 俺がもらったそれよりも、小ぶりだけど。


「開けても良い?」


「どうぞ」


 可奈子さんは包みを開けた。


「まぁ、これは……ヘアブラシね」


「うん。ネックレスあたりが無難かと思ったけど……可奈子さんは、そのままできれいだから。自然にもっときれいに見せるためにはどうしたらって考えた時、これかなって」


「冬馬くん……ありがとう」


「ちょっと貸して」


 俺はヘアブラシを手に取ると、可奈子さんの背後に回った。


「今からちょっと、髪をかしても良いかな?」


「え、冬馬くんがしてくれるの?」


「うん、任せて」


「じゃあ、お願い」


 俺は可奈子さんのきれいな髪に触れた。


 サラサラとしている。


 このままでも十分だけど。


 より美しく、可奈子さんが輝けるように。


 そう願いを込めて、ゆっくりと丁寧に髪を梳かした。


「今まで自分でやっていたから。人にやってもらうのって、気持ち良いね」


「くすぐったくない?」


「うん、平気だよ」


 髪を梳かしている間、俺は平常心を保つように心がけていた。


 可奈子さんのきれいなうなじを見る度に、心臓が少し落ち着きなく跳ねるけど。


 ちゃんと最後まで、髪を梳かし終えた。


「どうかな?」


 可奈子さんは自分の髪に触れる。


「わぁ、すごい。なめらか」


「鏡も見てみる?」


 そばにあった手鏡を渡した。


「まぁ、素敵……ありがとう、冬馬くん」


「じゃあ、お礼をもらっても良いかな?」


「えっ?」


 俺は可奈子さんの頬に唇を寄せた。


「あっ……と、冬馬くん」


「可奈子さん、すごく良い匂いがする……耳、噛んでも良い?」


「そ、それは……ダメ」


「ほんの少し、甘噛み程度だから」


「……少しなら」


 ありがとう。


 その後、興奮した俺は、少しばかり可奈子さんにイケないことをしてしまった。


「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 俺の腕に抱かれながら、可奈子さんは吐息を乱していた。


「可奈子さん、大丈夫?」


「す、少しだけって、言ったのに……」


「だって、可奈子さんが可愛すぎるから、つい」


「もう、力が入らない……」


「お、チャーンス」


「こら?」


「ワイン、もっと飲みなよ」


「何を企んでいるの?」


「お客様、そろそろ就寝時間でございます」


「片付けがまだだから……」


「そうだね。このままだと、可奈子さん寝ちゃいそうだし。眠気覚ましに、一緒に片づけをしますか。ほら、立って」


 俺はフラフラ状態の可奈子さんを立たせる。


「ちょ、ちょっと、待って……」


「辛かったら、俺に寄りかかっても良いよ?」


「もう、バカぁ~」


 その後、肩を寄せ合ってお片づけを済ませた。


「あ、そうだ。お風呂にも入らないとだね」


「あ、でも……」


「どうしたの、可奈子さん?」


「お風呂に入ったら、せっかく冬馬くんに梳かしてもらった髪が……」


「可奈子さん、可愛いなぁ」


「か、からかわないで」


「大丈夫だよ。お風呂から上がったら、また梳かしてあげるから」


「……じゃあ、入る」


「うん」


 その後、お風呂でもちょっとジャレついた後、洗面台の前で可奈子さんの髪を梳かしてあげた。


 それから、2人で手をつないで、2階の寝室に向かう。


 ドアを閉じた瞬間から、もう抱き締めたかったけど。


 俺はぐっと堪えて、可奈子さんをベッドに導いた。


「今日は1年で1番、カップルがエッチをする日なんだって」


「そ、そうみたいね」


「じゃあ、俺たちも……」


「あっ……」


 俺は可奈子さんとキスをした。


 深く、優しく。


「……ちょっと待っていて」


 それから、準備をしようとするけど。


「冬馬くん」


「えっ?」


「今日は、その……そのままが良いかなって……」


「そ、それって……」


「……ダメ、かな?」


 うるんだ瞳で見つめて来る可奈子さん。


 俺はゴクリと息を呑む。


「あ、でも、万が一デキちゃったら……冬馬くんに迷惑だよね」


「そんなことはないよ……うん、しよう。初めてで、緊張するけど」


 俺は照れて笑いながら言う。


「私も、初めてだから……ドキドキしちゃう。今まで、エッチはいっぱいして来たのに」


 可奈子さんが俺に抱き付く。


「……今日は、そのままの冬馬くんを感じさせて?」


「俺も……そのままの可奈子さんを感じたい」


 お互いに微笑み合って、キスをする。


 聖なる夜には、やはり不思議な力があるようだ。







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