第29話 夕暮れ時に世界は揺らぐ
朝、目が覚めると。
もうとなりに可奈子さんはいなかった。
けど、俺の腕には彼女の温もりが確かに残っている。
「ごはん、もう出来ているかな」
のんきなことを呟きつつ、俺は部屋を出て階段を下りて行く。
「おはよう」
「あ、冬馬くん。おはよう」
いつも通り、キッチンで笑顔を咲かせる可奈子さんがいた。
それによって、どんな憂鬱な朝も一気に晴れ上がる。
「そういえば、繭美は?」
「もう起きているわよ」
可奈子さんが微笑みながら見つめる先では、ソファーに佇む繭美がいた。
「よう、ちゃんと早起きなんだな」
俺は声を掛ける。
「あ、冬馬……おはよう」
「ん? どうした?」
「えっ、何が?」
「いや、いつもと様子が違うから」
「あ、いや~……」
「もしかして、枕が違うと眠れないタイプか?」
普段はからかわれる分、俺はここぞとばかりに仕返しをした。
「う、うるさいよ、バカ……」
あれ?
本当に様子がおかしい。
普段の繭美なら、もっとノリ良く返すはずなのに。
どうして……
「あ、そうだ。2人とも」
ふいに可奈子さんが言う。
「私、今日はお友達と出かける予定なの」
「あ、そうなの? お友達って、涼香さん?」
「うん、そうだよ。だから、お夕飯は自分たちで用意してくれるかな?」
「もちろんだよ。俺、普通に料理できるし。何なら、出前か外食でも良いし。なあ、繭美?」
「へっ? あ、う、うん……」
繭美はまたぎこちなく頷く。
「じゃあ、よろしくね。さあ、朝ごはん出来たわよ」
「ありがとう。繭美も食べようぜ」
「う、うん」
やっぱり、様子がおかしい繭美のことが気になりつつも。
俺は可奈子さんの作ってくれた幸せな朝食にすっかり心を奪われてしまった。
◇
「じゃあ、行って来ます」
「いってらっしゃい」
夕暮れ時。
俺は玄関先で可奈子さんを見送った。
「さてと……繭美、夕飯はどうするよ?」
俺が問いかけても返事はない。
見れば、繭美はソファーに座ってボーッとしていた。
「おい、繭美?」
「へっ? あっ、何?」
「今日の夕飯、どうするんだ?」
「あ、えっと……冬馬が作ってくれるの?」
「ああ。まあ、出前や外食の方が美味いかもしれないけど」
「良いよ。あたしも手伝って良い?」
「出来るのか?」
「むっ、バカにしないで」
繭美は頬を膨らませた。
「悪い、悪い」
俺は笑いながらキッチンに向かう。
「さて、何を作ろうか」
腕まくりをしながら言う。
「シンプルにカレーとサラダなんてどうだ?」
「うん、良いよ」
「じゃあ、俺はカレーの具材を切るよ。繭美はサラダ用の野菜を下ごしらえしてくれるか?」
「どうすれば良いの?」
「キャベツを使おうか。それなら、包丁を使わなくても良いし」
「分かった」
俺はまな板でにんじんを切る。
それから、ジャガイモの皮を剥いて行く。
ふと、繭美の視線が気になった。
「どうした?」
「あ、いや。いつの間にか、こんなに料理が上手になったんだなって」
「まあ、ずっと1人暮らしをして来たからな。最初の内は、おじさん達に助けてもらったり、インスタント食品ばかりだったけど」
「そうだね」
繭美は昔を思い出したように、クスクスと笑う。
「そういえば、おじさんとは連絡したか? ていうか、連絡はあったか?」
「ううん……無い、かな」
「そっか……」
俺はそれ以上、詮索するような真似はしなかった。
「サラダはキャベツを手でちぎって、あとはクルトンを散らす。んで、シーザードレッシングをかければ出来上がりだ」
「簡単だね。あたしでも出来るよ」
「そういうこと」
「むっ、またバカにして」
「だって、お前が言ったんだろ?」
「そうだけど……バカ冬馬」
「ごめんって。つまみ食いしても良いよ?」
「うるさい、バーカ」
俺はカレーの具材を下ごしらえすると、フライパンで炒めて行く。
それから、カレールーと水を投入して、煮込みタイムに入った。
「あ、そうだ。繭美」
「なに?」
「今、可奈子さんがいないから、ちょっと聞きたいんだけど……あ、いや、やっぱりやめておこうかな」
「そこまで言われたら気になるじゃん。何でも良いから、言ってよ」
「えっと、それじゃあ……繭美って、ギャルだから、経験が豊富だよな?」
「へっ? な、何の?」
「その……エッチの」
俺は自分から言い出しておいて、すごく恥ずかしい。
「俺も、さ……可奈子さんとそういう関係にあるって言うか……自分では、ちゃんと出来ているつもりだし、可奈子さんも気持ち良いって言ってくれるんだけど……もっと、出来るんじゃないかなって」
俺はぎこちなく語る。
となりを見ると、繭美は顔を俯けていた。
「ご、ごめん。兄妹みたいなお前になら、相談しても良いかなって思ったけど……女の子相手に、デリケートな話だったな」
俺は苦笑する。
「……あたし、処女なんだ」
「……へっ?」
「同じギャルの中でも相当可愛くておっぱいがデカいし、何なら学年でもトップクラスのルックスだから、モテる訳。でも、今までいろんな人の告白を断って来たんだ」
「えっと……マジで? 俺はてっきり……」
「昨日さ、見たんだ」
「えっ?」
「冬馬と可奈子ちゃんの……エッチ」
俺は半ば愕然としてしまう。
「あたしは経験は無いけど、知識だけは一丁前にあるから、分かったよ。冬馬、すごく上手だった」
「あ、ありがとう……」
「だから、見ていてすごく気持ち良さそうで……思わず、あたしは自分で自分を慰めちゃった」
もはや、言葉が出ない。
気付けば、繭美が艶っぽい目で俺を見ていた。
「……ねえ、覚えている? 昔、あたしが冬馬のお嫁さんになるって言ったこと」
「そ、それは……覚えているけど、あんなの冗談だろ?」
「うん、そう思われても仕方ないよね。あたしだって、無邪気な子供ながらの冗談だって思っていたけど……」
繭美は胸の前でキュッと手を握った。
「もしかしたら、本気だったかもしれない」
「ま、繭美……」
褐色肌でむっちりした谷間に、首から掛けたペンダントが挟まっていて、エロい。
胸の大きさでは可奈子さんが上だけど……こいつは十分すぎるほど、魅力的なカラダをしてやがる。
って、いとこ相手に何を考えているんだ!
「や、やめよう、繭美……」
「ゴム無し、無制限、好き放題」
「はっ?」
「普通、お店だったらそんなの諭吉さんが何枚も飛んで行くだろうけど……冬馬には特別サービスで、タダでやらせてあげる」
「お、おい、繭美?」
「分かっている、冬馬には可奈子ちゃんがいるって。あたしも可奈子ちゃんが好きだし、傷付けたいなんて思わない。けど……お願い」
繭美は切なげに瞳を歪めて俺を見つめた。
「昨日の夜から、カラダが火照って、火照って、たまらないの……だから、あたしを慰めて……」
「繭美……」
「これは……そう、ただのオ◯◯ー……冬馬があたしのカラダを好き勝手に使って気持ちよくなってくれれば良いの……あたしはただの……道具だと思って」
「そ、そんな風に思えるかよ」
「冬馬っ」
繭美が抱き付いて来た。
可奈子さんとはまた違う、むっちりハリのあるギャル巨乳が押し付けられて、俺は激しくドキドキした。
「……エッチしよ……もう一度言うけど、ゴム無しで良いから……あっ、可奈子ちゃんとしたことある?」
「そ、そういえば、まだ無いかも……」
「だったら……その初めては、あたしにちょうだい?」
繭美は切なる瞳で俺に訴えかけて来る。
俺は自分の胸の高鳴りが凄すぎて、世界が揺らいで見えた。
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