第10話 ドキドキが行き過ぎる

 俺と可奈子さんはショッピングモール内を一緒に歩いて行く。


 慣れない手つなぎをして。


「なあ、あの人メッチャ美人じゃね?」


「うわ、本当だ」


「ていうか、一緒に居るのって……弟?」


 ガクリ、と内心で膝が折れる。


 まあ、仕方ないよな。


 俺はまだお子ちゃまだし。


 それに引き換え、可奈子さんは清楚で爽やかかつ、大人の女性の魅力があるから。


「ていうか、おっぱいデカ」


「弟でもなりたいわ~」


 ピキリ。


「可奈子さん、ちょっと急いでも良い?」


「えっ? うん」


 俺は可奈子さんの手を引っ張って、少し早歩きをした。


 そして、やって来たのは一軒の服屋だ。


「わぁ~、可愛い」


 可奈子さんは俺から手を離す。


 少しばかり、寂しいと思ってしまう。


「ねえ、冬馬くん。どうかな?」


 可奈子さんは自分に服を当てながら言う。


 か、可愛い……


「あ、イマイチだった?」


 可奈子さんが少し困った様子なので、俺はハッとする。


「そ、そうじゃなくて。可奈子さんがあまりにも可愛いから、つい見惚れて……」


「も、もう、何を言っているのよ……」


 お互いに照れ臭くなって、顔を俯けてしまう。


「その服、可愛いね」


「本当に? じゃあ、試着してみようかな」


 可奈子さんは店員さんの許可をもらって、試着室に入る。


「じゃあ、俺はこの辺りで待っているね」


「うん、ごめんね」


「良いよ、ごゆっくり」


 俺は笑顔で言うと、そばで適当に待つ。


 やがて、


「……と、冬馬くん」


 カーテン越しに可奈子さんの声がした。


「どうしたの?」


「ごめんね、これ……きつくて着られない」


「え、きつい?」


「うん。胸がきつくて……」


「なっ……」


 俺は数秒、硬直した。


 その間に、可奈子さんは試着室から出て来る。


「ちょっと、胸が前よりも成長したのかも」


「マ、マジですか?」


「この歳になって、恥ずかしいよね」


 いや、むしろ……最高です。


 俺は思わずよだれたこぼれそうになるのを堪えた。


「何かお困りですか?」


 すると、笑顔で女性の店員さんが来てくれる。


「あの、すみません。ちょっとサイズを計ってもらうこと出来ますか?」


「かしこまりました」


 頷いた店員さんは、ポケットからメジャーを取り出す。


「あ、じゃあ、俺は……」


 とその場から離れようとするけど、


「良いよ、冬馬くんもここに居て」


「えっ」


「優しい弟さんですね」


 店員さんが言う。


 うっ、やっぱり……


「いいえ、私の……旦那さまです」


「「えっ?」」


 俺と店員さんの声が重なった。


「あ、まだ彼氏だった。えへへ」


「か、可奈子さん……」


 やばい、もう可愛すぎてヤバい。


 今すぐ抱き締めたい。


「そうでしたか、失礼しました」


 店員さんは微笑んだまま、


「じゃあ、計りますね」


 と、メジャーを可奈子さんの胸に巻いた。


 俺はドキドキが止まらない。


「わっ、すごい大きいですね。こんなの初めてかも」


「そ、そうですか?」


「えっと、サイズは……96cmですね。私は下着屋じゃないですけど……たぶん、これIカップくらいですね」


「本当ですか? じゃあ、今のHカップのブラじゃダメですね」


「羨ましいです。こんなに美人でおまけに巨乳だなんて」


「そんな、ありがとうございます」


 女性2人が会話するそばで、俺は1人勝手にオーバーヒートしていた。


 か、可奈子さんはHカップで、けど今はそれ以上のIカップで……


「ねえ、冬馬くん」


「は、はい?」


「この後、下着屋さんにも寄って良い?」


「あっ、も、もちろん」


「そっちの方も、冬馬くんに選んで欲しいな」


「えっ」


 俺は動揺しつつ、そばに居た店員さんに目を向ける。


「……年下も悪くないわね」


「えっ?」


「いえ、何でもありません。ごちそうさまでした」


「あはは……」


 俺はぎこちなく笑う。


「お客様のバストサイズで可愛いお洋服は……これが良いと思います」


「わ~、可愛い~。冬馬くんはどう思う?」


「はい、もう可愛いです」


「えへへ、じゃあ試着するね」


 微笑む可奈子さんが、やっぱりメチャクチャ可愛いと思った。







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