第13話 親友に美人で巨乳のカノジョが出来たら発狂する

 朝、階段を下ると、


「あ、おはよう。冬馬くん」


 爽やかに明るい笑顔で迎えてくれる素敵なお姉さん。


 いや、俺の彼女であり、将来のお嫁さん。


「おはよう、可奈子さん」


「朝ごはん、出来ているよ」


「うん」


 俺は顔を洗ってから、食卓に着く。


「いただきます」


「どうぞ」


 微笑む可奈子さんに見守られながら、俺はほかほかの朝ごはんをいただく。


「うん、美味しい。やっぱり、可奈子さんの手料理は最高だね」


「やだもう、照れちゃう」


「あはは」


 あの日、初めてキスをしてから。


 俺たちの距離は以前よりも一段と縮まった気がする。


 やっぱり、キスの力ってすごいんだな。


「ん? どうしたの?」


「あ、いや、何でもないよ」


「おかわり、したかったら言ってね」


「うん、ありがとう」


 どこまでも温かく幸せな朝ごはんの時間だった。




      ◇




「じゃあ、可奈子さん。そろそろ行くね」


「うん、いってらっしゃい。私も、そろそろ行かないと。今日が最後の家政婦さんのお仕事なの」


「そっか……最後のお客さんはラッキーだね。って、こんなこと言ったら嫌味か」


「うふふ、そんなことないわよ。ちなみに、最後のお客さんは女性の方だから」


「あ、そうなんだ。はは、何か安心しちゃって。仕事でお客さんとはいえ、男の人と2人きりだと心配というか……嫉妬しちゃうからさ」


「大丈夫。私はもう、とっくに冬馬くんだけの物だから。あの晩、キスしてもらってから……」


 可奈子さんが頬をわずかに朱に染めて、俺をジッと見つめる。


 こ、これは、もしや……


 俺は息を呑む。


「可奈子さん……」


「あっ……」


 優しく彼女の肩を抱き寄せると、そっと唇が触れ合った。


 まだ、深くする度胸はないけれども。


 それでも十分すぎるくらい、お互いの温もりを感じられた。


「……い、行って来ます」


「……うん、行ってらっしゃい」


 まるで本当の新婚さんのようなやり取りに、俺は朝からドキドキが止まらなかった。




      ◇




「……臭うな」


 朝、登校した途端。


 俺の席にやって来た道三郎が鼻をクンクンとさせて言った。


「えっ?」


「いや、匂うだな……良い匂いがする。お前の体から」


「な、何だよ、気持ちが悪いな」


「お前、やっぱり……彼女でも出来た?」


「へっ?」


「動揺しているな。図星だろ?」


「いや、別に……」


「しかし、この漂う色気はとても同級生とは思えない。上級生とも違う」


 何やら道三郎が1人で勝手にブツブツと呟いている。


「まさか……年上のお姉さんか? 大学生とか」


「いや、違うから……あっ」


「ふっ」


 俺はこの親友が小憎らしいと思ってしまう。


「まだ時間はあるし、ちょっと廊下に行こうか」


「……分かったよ」


 俺は大人しく観念して、道三郎に連れて行かれる。


 人気ひとけの少ない場所までやって来た。


「で、冬馬の彼女ってどんな人?」


 道三郎がニヤつきながら言う。


「それは……」


「もしかして、年上で美人で巨乳のお姉さん……とか? おまけに家庭的で性格も優しいと……なーんて、そんなラブコメヒロインみたいな人いるかっての!」


「えっと……だいたい当たっているね」


「は?」


 道三郎は目をパチクリとさせる。


「俺の彼女……年上の美人で巨乳で、おまけに家庭的で性格も優しいんだ。家政婦さんだからさ。まあ、今日でその仕事も終わりなんだけど……」


「っざけんなよ!」


「うおっ!?」


 俺は道三郎に胸倉を掴まれた。


「お前はどこのラブコメ主人公だよ!」


「いや、そんなんじゃないから。ていうか、離してくれ!」


「うおおおおおおおおおおぉ!」


 しばし、泣き叫ぶ道三郎に揺さぶられる。


「はぁ、はぁ……ど、どうやって知り合った?」


「いや、ほら、俺って両親がいなくて1人暮らしだろ? 基本的に家事は自分で出来るけど、たまには人が作ってくれた温かいご飯が食べたいと思って、家政婦さんを頼んだんだ」


「ほうほう」


「家政婦さんっていえば、優しいおばちゃんが来るのかなと思ったら……メッチャ美人で巨乳のお姉さんが来たんだ」


「ふざけんな、コラ!」


 俺はまた胸倉を掴まれる。


「このラブコメ主人公がああああああああぁ!」


「だから、うるさいっての!」


 また泣き喚く道三郎の手を振り払う。


「おい、写真を見せてくれよ」


「え~……嫌だよ」


「頼む、写真を見せてくれたら、もう何も言わないから!」


 道三郎は本当に必死で頼んで来る。


 俺は出来ることならこのアホ親友に見せたくなかったけど……


「……はぁ、分かったよ」


 スマホを取り出すと、俺は画像フォルダを開く。


「これ、この前のデートで撮った写真なんだけど……」


 俺はスマホの画面を道三郎に見せた。


 直後、奴はなぜか硬直した。


 ピシリ、と石化する。


「おい、どうした?」


 俺が声をかけるも、しばし無言のままだった。


「……び、美人でおまけに可愛すぎる……しかも……マジでデカいじゃん」


「うるさいよ」


「え、この超絶に素晴らしい巨乳美女のお姉さんが……お前の彼女?」


「そうだよ」


「ちなみに、お名前と年齢は?」


「まあ、ここまで来たらもう良いか……桜田可奈子さくらだかなこさん、24歳だよ」


「な、名前からして美人さんだし……しかも、24歳とか……そそるな。むしろ、もうちょっと年上でも良いくらいだよ」


「黙れ、変態。人の彼女で変な想像するなよ」


「な、なあ。どこまで進んだんだ?」


「教えない」


「良いじゃんか。相手は年上のお姉さんで経験豊富だろうから、まさかもう……?」


「いや、可奈子さんは今まで男性経験とか無いから」


 俺はとっさに早口で言って、ハッと口を押さえた。


「えっ、マジで? こんな国宝級の巨乳美女さんが男性経験なし?」


「そ、そうだよ」


「……どんだけ羨ましいんだよ。お前、やっぱりラブコメ主人公だわ」


「それは違う……とも言い切れないかもな」


「ぐぬぬ……あ、そうだ。この可奈子さんの友達もきっと美人だろうから。俺にその人紹介してもらおうかな」


「はぁ? クズ発言はやめろよ」


「どこがクズなんだよ! 良いじゃんか、お前ばっかり良い思いしやがって! 俺だって巨乳美女なお姉さんと付き合いたいぞ!」


「バカ、声が大きいよ!」


「大きいのはお前の彼女のおっぱいだ!」


「黙れ!」




      ◇




「へくち!」


 私はついくしゃみが出てしまう。


「あら、可奈子ちゃん。もしかして、風邪かしら?」


 家政婦先の在宅ワーカーの女性が心配してくれる。


「あ、いえ。誰か噂しているのかな?」


「もしかして、彼氏さんとか?」


「へっ? いや、その……はい。最近、出来まして」


「だよね。家政婦の仕事をやめるってそういうことだよね。もしかして、結婚するの?」


「い、今の所はまだ……ここだけの話、彼は私よりもだいぶ年下なんです」


「えっ、もしかして……学生?」


「はい……しかも、高校生の子なんです」


 普通なら、そこまで踏み込んだ話はしないけど。


 この鏑木涼香かぶらぎりょうかさんは常連さんで、いつも私を指名してくれるから。


 頼れるお姉さんって感じで、むしろ私の方が助けてもらうこともままあった。


「可奈子ちゃん、それは……」


「や、やっぱり、ダメですかね?」


「ううん、すっごく萌える。ていうか、記事にしても良い?」


「ダ、ダメです!」


 涼香さんは恋愛系のエッセイを書くライターさんだった。


「じゃあ、記事にはしないからさ。聞かせてよ、甘々なエピソード」


「そ、それは……恥ずかしいです」


「可奈子ちゃん、かーわいい」


 ああ、この人とはたぶん、家政婦をやめた後も付き合いが続くんだろうな。


 もちろん、私としてもそれを望んでいるけど。


「ていうか、だから最近、また一段とおっぱいがデカくなったんだね」


「む、胸の話はやめてください」


「とか言って、可愛い彼氏くんをそのおっぱいで誘惑しているんでしょ?」


「そ、それは……否定できないです」


「淫乱だね~、可奈子ちゃん。顔とか性格は清純系なのに。本当に罪深きおっぱいだよ」


「か、勘弁して下さいよ~」


「あはは!」


 私は人生の先輩であるお姉さんにからかわれて困惑する。


 けど、頭の中に、胸の中心のずっといるのは、変わらず冬馬くんだった。


 早く帰ってまた……キスして欲しいな。


「いま、エロいこと考えたっしょ?」


「そ、それは……否定しません」


「へぇ~? これは、可奈子ちゃんのロストバージンも近いね」


「ま、まだ時間はかかりそうですけど」


「もう襲っちゃえよ」


「ダ、ダメ……とも言い切れないかも。私の方が焦れて、冬馬くんを襲っちゃったら……嫌われるかな?」


「良いんじゃないの? 最後はその大きなおっぱいで包んであげればイチコロよ」


「涼香さんって、下品ですよね」


「下品なのは、あんたのデカパイよ♡」


「もう帰って良いですか?」


「冗談よ~! 最後なんだから、優しくして?」


「セリフがいちいち意味深なんです~!」


 私はぷんすかと怒りつつも、涼香さんとの時間を楽しんでいた。


 でもやっぱり、早く家に帰って、冬馬くんとラブラブしたかった。







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