第15話 初体験

 カチャ、と静かに音が鳴る。


「で、可奈子ちゃん。相談って何かな?」


 テーブルを挟んで向かい側に座った涼香さんが、紅茶をすすって言う。


「えっと、それは……あまり大声では言えないんですけど」


「うんうん」


「……どうやって、冬馬くんを誘って……その気にさせれば良いのかなって」


「それは、もしや……エッチの話?」


 涼香さんは悟って声のトーンを落としてくれる。


 私はコクリと頷いた。


「その、この前、私が家政婦の仕事最後の日にお祝いをしてくれて……その時、良い感じになったので、ちょっと誘ってみたんです」


「うんうん、そしたら?」


「冬馬くん、照れちゃって……キスの時は1週間置いたから、エッチは……1ヶ月くらいかなって」


「何それ、超ピュアるんだけど」


 涼香さんは手で口を押さえながら言う。


「可奈子ちゃん、あんた遅れて青春がやって来たんじゃないの?」


「そ、そうかな?」


「そうだよ。学生時代はこの美貌とエロいカラダを持て余していたんだからさ。今から思いっきり楽しまないと」


「そ、そんな……恥ずかしい。もう良い歳なのに」


「あのね、可奈子ちゃん。女はいつまで経っても少女なの。分かる?」


「そうなんですか?」


「そう。可奈子ちゃんはまだ全然若くて可愛くて巨乳ちゃんなんだから、遠慮しなくて良いのよ」


「は、はい」


「で、その可愛い彼氏くんの誘い方だけどさ……」


 それから、私は少し前のめりになって、涼香さんの話を聞いていた。




      ◇




「ふぅ~、終わった」


 俺はグっと背伸びする。


「宿題、疲れたな~」


 ようやくリラックスできる。


「可奈子さん、まだ起きているかな?」


 俺と可奈子さんは、お互いの部屋で交互に一緒に寝ていた。


 今日は俺が宿題をするため、可奈子さんは自分の部屋で寝ているのだ。


「じゃあ、行きますか」


 寝ていたら、起こしちゃうと悪いから、このまま自分の部屋で寝ても良いんだけど。


 可奈子さんが寂しがるかもしれないから。


 俺は部屋を出ると、彼女の部屋の前に立ちノックをする。


「はい」


「あ、可奈子さん。起きていたんだ」


 俺は部屋に中に入る。


「良かった、じゃあ一緒に……」


 言いかけて、俺はハッと目を見開く。


「ど、どうしたの?」


 ベッドの上に立たずむ可奈子さんは寝間着姿だった。


 けど、いつものパジャマじゃない。


 何かセクシーな……ネグリジェってやつか!?


 すごい、ちょっと透け透けなんだけど……


「……か、可奈子さん? その格好は」


「へ、変かな?」


「いや、決して変じゃないけど……」


 俺は恥ずかしながら、下半身がムズつくのを感じた。


「遠慮しないで、来て?」


「じゃ、じゃあ……お邪魔します」


 俺はそっとベッドに上がった。


 改めてそばで見ると、何かすごくエッチだぞ、この姿は……


 ギリギリのラインで、大切な所は透けていないけど……


「……ねえ、冬馬くん」


 可奈子さんが俺の手に触れると、ドキっとする。


 それから、彼女は何も言わず、上目遣いに俺を見つめる。


 所詮、俺はまだ子供だから。


 彼女を上手くリードすることは出来ない。


 けど、男の端くれとして……


「……あっ」


 優しく彼女にキスをした。


 しっとりとした唇の柔らかさに溺れそうになる。


「……可奈子さん、可愛いよ」


「……冬馬くん……抱いて?」


「あ、えっと……しまった、またアレが……」


 俺が焦った時、


「はい、コレ」


「えっ」


 可奈子さんが赤面しつつ、枕元からスッと出した。


 それで口元を隠しながら、


「……買っちゃった」


「マ、マジですか?」


「……エッチな女だって、思っちゃう?」


「お、思うかな……でも、悪い意味じゃないよ……控えめに言って、最高です」


「良かった……私、もう冬馬くんなしじゃダメだから」


 その一言がもう決め手だった。


 俺は可奈子さんをベッドに押し倒す。


「可奈子さん、俺は初めてだけど……がんばるから」


「うん、大丈夫。私も初めてだから……一緒にがんばろ?」


 優しく微笑む可奈子さんが、とても愛おしく感じる。


 俺はまたキスをすると、そのまま可奈子さんを強く、優しく抱き締めた。




      ◇




 気付けば、朝だった。


 俺たちは布団の中で、生まれたままの姿で抱き締め合っていた。


「……おはよう、冬馬くん」


「……おはよう、可奈子さん」


「き、昨日はその……すごかったね」


「お、俺、ちゃんと出来ていたかな?」


「う、うん……大丈夫。けど、思っていたよりも……」


「えっ? や、やっぱりダメだった?」


「ううん、そうじゃなくて……こんなに可愛い顔なのに、たくましかったから」


「か、可奈子さん……そんなこと言われたらまた……ちくしょう、もう朝だから学校に行かないと……」


「冬馬くん」


「えっ?」


 可奈子さんの指先が、俺の鼻をツンとする。


「今日は土曜日です」


「……あっ」


「まだまだ、出来ちゃうの?」


 可奈子さんはクスっと優しく微笑んでくれる。


「か、可奈子さんが相手なら、いくらでも……」


「も、もう、バカ♡」


 休日の朝は静かにのんびりと、けど、少しだけ激しかった。







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