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このままぱっくり食べられちゃうのかな、とか思う。どうせなら、噛まずにそのままお腹の中に放り込んでくれれば……。そうしたら助かるかもしれないじゃない? くじらのお腹から生還する話あったじゃない? ピノキオ? そう、あんな感じで……。
いや、でもやっぱりこのびっしりと並んだ歯にひっかからないなんて、まず無理じゃない? そう、私
は咀嚼される。かまれ、ちぎられ、ひきさかれ、ばらばらにされて消化される。
私は目をつぶった。
――誰か……誰か助けて……!
強く願った瞬間、声が響いた。
「ほのか!」
「ほのかちゃん!」
二つの声。二人の別の人間の声。そのどちらもよく知っている。そして声とともに、魚の身体に水が弾け、強い光が覆った。
――――
気づけば中庭にいる。いつもの中庭だ。……私、助かったんだ……。
私を助けてくれたのは……見なくてもわかる。一人は、瑞希だ。
視線の先に瑞希が立っていた。私はたちまち瑞希に駆け寄った。そして力いっぱい抱きしめる。
「……み、瑞希~!! 怖かったよ! すごく怖かったの! 助けてくれてありがとうー!」
泣きそうだよ。ほんとに九死に一生、って感じなんだもん。そういえば前のピンチのときも瑞希に助けてもらったんだ。くまより頼りになるんじゃないだろうか。
瑞希のやわらかい髪に顔をうずめる。いつもならこの辺で押し返されるところだけど、今日は違った。ぽんぽんと優しく背中を叩いてくれた。
「無事でよかった」
優しい声だ。心からそう思ってる声。ほんとに私は泣きそうになってしまう。
「……ごめんね」
「うん?」
瑞希からそっと離れて、今度は目を見て言う。
「ごめん。けんかしてる間、すごく嫌な気持ちだったの。早く謝りたくて仕方なかった。でもなかなかできなくて……」
「私の方からも、ごめんって言いたいよ。ほのかの言ったこと、当たってると思う。私はきつくて、冷たくて……嫌なところがあるんだ。こういう性格、直そうと思ってるんだけど……」
瑞希がそう言って目を伏せる。なんて珍しい。しおらしい瑞希だ。こんな姿、滅多に見れるもんじゃない。私は思わず笑う。
「どうしたの? なんか変なものでも食べたの?」
「いや……あのさあ、ほのか」
「冗談だよ」
私は瑞希の手を取る。嬉しくなって。テンションが上がって。
「瑞希はでも、いいところいっぱい持ってるよ。でなきゃ、こんなに長く友だち続けられないって」
本当にほんと。瑞希はちょっとむっとした様子で私を見る。でも手をほどこうとはしないし、顔をわずかに赤い。
「ほのかは口が上手いね」
「これは心から言ってること。口先だけじゃないよ」
私はつないだ手を左右に揺らす。よかった。これで元通り。仲直りできたよね。明日から、というか、今この瞬間から、またいつもの私たちに戻ったよね。
「……あのー。私たちもいるんですけど……」
控え目な声がした。その声は楓ちゃんだ。見ると、楓ちゃんと沢渡さんが立っていて、楓ちゃんが両手を振っている。沢渡さんは穏やかな微笑み。
沢渡さんが口を開いた。
「放課後、中庭の敵の気配に私が気づいて。西川さんと篠宮さんに声をかけたの。一瀬さんは姿が見当たらなかったから、もう帰ったんだろうと思って、三人で倒そうと、他の子たちが下校するのを待ってたんだ。異空間で一瀬さんに会うとは思わなかった」
「うん。私も昼休みに敵に気づいたの。でも……一人で倒そうと思って」
「なんで? 声をかけてくれればよかったのに。魔法少女は四人いるんだよ」
楓ちゃんが言った。私は胸を熱くして頷いた。
「うん」
そうだね。どうして一人で解決しようと思ったんだろう。結局一人では倒せなかったし。だったら最初から、みんなに手伝ってって言えばよかったんだよ。
なんだかちょっと馬鹿みたい。
また泣きたくなってしまった。でもそこで、はたと思い出した。異空間で聞いた声。瑞希ではなく、もう一人の声。あれもよく知った声だった。
周りを見る。声の主はすぐに見つかった。私たちから少し離れたところに立っている。そして不安そうな顔でこちらを見ている。
声の主は――そう、ほたるちゃん。
――――
「ほたるちゃん……」
私は声をかける。瑞希も沢渡さんも楓ちゃんも、ほたるちゃんのほうを見た。私は瑞希から手を放して、ほたるちゃんのほうへ近づいていった。「誰?」と瑞希に尋ねる楓ちゃんの声がする。瑞希が短く答える。「ほのかのお姉さん」
ほたるちゃんは立ち尽くしたまま、私を見ている。逃げも隠れもしない。こちらに近づきもしないけど。私はほたるちゃんの傍まで行って足を止めた。
「私を助けてくれたでしょ? ありがと」
異空間で。「ほのかちゃん」って私を呼んで。そして光が溢れた。あの光はたぶん、ほたるちゃんの魔法だ。
ほたるちゃんはやっぱり、魔法少女だったんだ。
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