第二話 乙女の園
1
季節は春。うららかで美しい五月。私は中学二年生。13歳。
何もかもがまだ新しいって、感じ。希望に満ち溢れてる感じ。でも私は悩んでいた。悩み事を抱えていた。
休み時間の教室で、みんながわいわい騒ぐ中で、私はその同級生を見つめていた。
なんだか大人っぽい子。周りとあんまりはしゃいだりしない子。私も実はあんまり喋ったことのないクラスメート。
彼女が今、私の心を占めている……。
何故なら……。彼女が、沢渡さんが、魔法少女かもしれないから!
――――
魔法少女としての活動はまずまず順調にいっていた。
あれから二、三の敵を倒したりしたのだ。敵……っていうのかな? お祓いみたいな行為のような気もするから違和感あるけれど、どう呼んでいいのかわからないので、「敵」ということにする。
くまが言っていた、石が教えてくれる、というのもなんとなくわかった。まず、嫌な予感がする。ポケットにある石から、何か警告のようなものが発せられる(しゃべるわけではない)。そして敵と遭遇。これが「教えてくれる」ってことなんだね。ちょっとずつコツを掴んできたみたい。
敵はいろいろ。最初は猫ちゃんだったけど、次は電信柱だった。電信柱……。何を言ってるんだって気がするけれど、私もよくわからない! 電信柱がどういうわけかうねっていたの! 魔法の力は無機物にも影響を与えるみたい。
教室のカーテンと戦ったこともある。放課後、みんな帰った教室で。カーテンが広がって私と瑞希を包もうとするから大変だったよ。なんとかやっつけて、一息ついていたら、そこに担任の後藤先生が現れた。私たちに注意をする。いつまで残っているの、もう遅いから早く帰りなさいって。
後藤先生は私たちの担任で40代の女性の先生。国語担当。ほとんど笑わない人。厳しい……けど、理不尽なことで怒ったりすることはないから、生徒たちからそんなに嫌われてもいない。
まあともかくそんな感じで頑張ってるんだ。そしてそれと並行して仲間探し。紫と緑の石を持って学校に行く。魔法少女はこの学校の誰かだから。該当の人物が近くにいれば、石は光って熱を帯びるはず。紫の石はすぐに反応があった。緑はさっぱりだけど。
紫の石が反応した人。それが沢渡さんだ。
私の部屋で、私と瑞希がそのことをくまに報告する。くまはベッドの上に座って、私たちは床の上。話が一通り済んだところで、私はくまに尋ねる。
「沢渡さんが……魔法少女なのかな」
紫の石の持ち主で。くまは言った。
「石が反応しているのなら、そうなんだろう」
でも私は少し自信がない。それにそのことをどう沢渡さんに伝えればいいのか……。いきなり、あなたは魔法少女です! って言って、信じるかな……。信じないよね。
それにもし間違いだったら。もし彼女にこちらの秘密がばれてしまったら。その時は魔法少女でいられなくなってしまう。
「早く彼女にそれを伝えて、仲間になってもらうように――」
くまは簡単に言うけれど。と思っていたら、瑞希がくまの耳をぎゅっと掴んだ。
「いてっ!」
くまは悲鳴を上げる。瑞希の顔が輝いた。
「痛いの? 本体は異世界にあるんじゃないの?」
「異世界にある……けれどどういうわけだか、痛みは本体に伝わることになっている……」
「へー!」
瑞希がさらに耳を引っ張る。さすがにくまが怒った。
「痛いと言ってるだろう!」
瑞希はぱっと手を放したけれど、顔は楽しそうなままだ。くすっと笑って、くまを見た。
「偉そうなことばっかり言ってるからだよ」
「偉そうではない。私は君たちを教え導く役割があるのだ」
やっぱり偉そうなくまだった。
帰り際、玄関で瑞希は私に言った。
「くまの弱点がわかってよかったね」
目がきらきらしてる……。嬉しそうだ。
「沢渡さんのこと、どうしよう」
具体的にどういう行動をとるべきかは決まらなかったのだ。瑞希は少し考えて、私に言った。
「とりあえず、まずは彼女と親しくなる。私たち、沢渡さんのこと、ほとんど知らないじゃない?」
そうなのだ。私は頷いた。
玄関の扉を開けながら、瑞希は私に笑いかける。
「ね、くまがこれ以上つけあがるようなら、お風呂に入れちゃおう。あの子、中身は綿だから水を吸って重ーくなっちゃうよ」
私は目を丸くして、
「それ、大丈夫なの?」
本体にはどういうふうに伝わるんだろう。本体に水分がたまる……わけでもないのかな。ただものすごく身体が重くなるのかな。
「大丈夫なんじゃない?」
瑞希はあっさり言う。
「考えてみたらずっとくまの言いなりだもん。こちらが対抗する手段を持ってることも大事だよ」
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