いやー……それはないな。なんだか馬鹿みたいな質問、というか。そしてもし、はいそうです、って言ったらどうするの?


 私の疑問に、瑞希はあっさりと答えた。


「奇遇ですね、私もそうなんですよって返せばいいじゃない。姉妹でなかなか面白いこともあるもんですね、って」


 ……瑞希があまり真面目にこの問題をとらえていないことがわかった。


 くまにきいても、誰が魔法少女かは教えてくれないし。やっぱり、私の見間違いなんだろうってことで、この件を片付けておくことにした。




――――




 合唱コンクールの練習で講堂が使えるのは一度だけだ。時間もきっちり決まってる。今日はその貴重な講堂での練習日。


 クラスの子たちがわいわい集まってきて、楓ちゃんはもうピアノの前に座って肩慣らしみたいな感じで鍵盤の上に指を走らせている。すごく落ち着いて見えるんだけど、これが本番になるとプレッシャーでがちがちになってしまうらしい。


 私の隣に加奈ちゃんがやってきた。ねえねえ、知ってる? と話し始める。


「講堂に怪物が出るの」

「……文芸部に幽霊が出た後に?」

「そう! 文芸部の幽霊、いつの間にか出なくなっちゃったんだよね。引っ越しちゃったのかな」


 それは私たちがやっつけたから……と思うも、言えない。加奈ちゃんはむむむと考えながら、自らの推理を披露した。


「文芸部の幽霊が講堂に引っ越したのかも」

「でも文芸部に出たのは幽霊で、講堂のは怪物でしょ?」

「幽霊が怪物にパワーアップした……」

「幽霊って、パワーアップすると怪物になるものなの?」


 私の疑問に加奈ちゃんは首をひねっている。


 講堂の怪物の話は、私も既に聞いている。そしてたぶん、文芸部のときと同じく魔法で姿を変えられた何かなのではないかと思ってる。いつかやっつける機会があるといいんだけど……。


「魔法少女!」


 突然、加奈ちゃんが私の腕をつかんで大きな声で言った。私は慌てふためく。ま、魔法少女!? どうして急にその言葉を!?


「えっ、な、何……」

「魔法少女の噂があるじゃない? この学校に、魔法少女がいる、って」

「あ、ああそれね……」


 それは昔からある噂。最初に聞いたときは変な噂だな、って思ってあんまり気に留めてなかったけど、今となっては――。誰か私の先輩の魔法少女が、うっかり姿をばらしてしまって、それでこんな噂が残ったのかな、と思ってしまう。


 加奈ちゃんは無邪気に目を輝かせながら、


「この学校、いろいろ面白い話があるよねー。ほら、結構歴史もあるしさ、校舎だってレトロで。それでね、私、その不思議な話をちょっと調べてみようと思うの!」

「な、何でまたそんなことを!」


 調べてほしくない! そんなこちらの正体を探るようなことをしてほしくない~! けれどそんなこと言えないし。加奈ちゃんはきょとんとした顔で私を見る。


「だめなの? 小説のネタになっていいなーって思ってるんだけど」


 うん、小説……。加奈ちゃんは文芸部だった。まあ小説のネタ探しは別に悪いことじゃないけど……。


 練習が始まる。楓ちゃんのピアノは堂々として立派なものだった。これなら本番も特に不安はないのにーと思うんだけども。私たちの合唱も息が合ってる。


 何度かさらって、気をつけるべきことをチェックして、練習が終わる。そのとき、ふと、嫌な予感がした。瑞希に声をかけようとすると、瑞希もこちらを見ていた。沢渡さんも、楓ちゃんもやってくる。


 敵の気配だよ、ってみんなの顔が言ってる。でもまだ変身はできない。


 みんなが講堂を去って、誰もいなくなったところで、変身と相成る。次のクラスの子たちが来る前に、ぱぱっとやっつけなくちゃ!




――――




 足元はおがくずだった。周囲は白い壁らしきものが取り囲んでいる。天井も、白い。


 異空間はいつも違ってて、その度に、面食らってしまう。


「……これは何?」


 知ってるような、知らないような空間。きょろきょろしてると、へんてこなものを見つけた。


 回し車だ。小動物用の。ハムスターのおうちとかに入ってるやつ。


 でもこの回し車、でかい。私たちが中に入れるくらいあるよ。……そこで私はふと思い当たった。ここって……ハムスターのケージの中みたい。私たちがハムスターサイズになっちゃってる。


「回し車って……」


 そう言って沢渡さんが、回し車に近づいていく。そしてその中に入った。すごく真面目な顔をして。


「私……常々疑問だったの。これ……回してるほうは楽しいのかな、って……」


 そういって沢渡さんは回し車を回し始める。両手両足を使って。なんだかシュールな光景なんですけど……。すっごく真面目な顔をしたクールな沢渡さんが、魔法少女の恰好をして、回し車をくるくるしてる……。


「あの……沢渡さん?」


 思わず声をかけてしまう。


「楽しい……楽しくない……うーん……」


 回しながら、そんなこと言ってる。とても真剣な顔をして。それ、そんなに深く考えるべきことなの!?


「そんなことより、敵はどこ?」


 瑞希が言う。沢渡さんには特に興味はないようだった。楓ちゃんが不安そうに辺りを見る。と、そのとき、どこからかキイキイという声がした。たぶん、頭上から? 私は声がしたと思しき方を見上げる。

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