第三話 麗しの転校生

 転校生がやってきた。


 6月になって、でも梅雨入りはまだで、さわやかな晴天が続く頃のことだった。朝、学校に行ってみると、教室がざわざわしてた。今日、転校生が来るって。


 その話は少し前から聞いてて、私はこの日を期待して待っていたのだ。


 だって――。その転校生は、私たちの仲間かもしれないから!


 緑の石の持ち主。魔法少女。


 学校中探したのに、緑の石は反応しなかった。でもくまが言うには、絶対この学校のどこかにいるらしい。


 ひょっとしたら――これから現れるのかもしれない、ってくまは言う。


 だから転校生でも来るんじゃないかな、って思ったんだ。そうしたら本当にそんな話が出てきて――そして本当にやってきたんだよ!


 朝のホームルーム。みんな席に座って待っている。


 後藤先生に連れられて、現れた彼女は――彼女は――。




――――




 何日か前のこと(まだ転校生の話が出回る前のこと)私は部屋で、ベッドに仰向けに寝転んでため息をついていた。


 緑の石の持ち主が見つからないのだ。


 学校中を石を持って歩いたのに、びくびくしながら上級生の棟まで行ったたのに、なのに何も反応がない。


 緑の石の持ち主……本当にいるのかな。どこにもいないのでは。


「……三人のままなのかな……」


 ぽつりとつぶやくと、頭の上で声がした。枕元に置いてるくまだ。


「それはないと思う。こうして石が四つあるのだから。誰かがいるはずだ。この石に適合するものが」

「そうなのかなー」


 くるりと回って今度は腹ばいの姿勢になる。上半身を上げて、くまを見た。


 あれからまた敵との戦いがあって。三人でもすごく困る、ってことはないんだけど、でももう一人魔法少女がいるなら、ぜひ仲間になってほしい。心強いし、それに仲良しが増えるのは嬉しいし。


 沢渡さんとは、今までより距離が縮んだような気がする。でもやっぱりわかりづらい人なんだけどね。


 そういえば。くまに聞きたいことがあったんだった。


「ね、ね。もしさ、私たちが戦いに負けて死んじゃったらどうなるの?」

「死ぬ? そんなことはないよ」


 くまは笑った。一笑に付す、といった感じだ。


「死なないの? ほんとに?」

「死なないよ。……たぶん」


 たぶん、って言ったな。私はくまをじっと見つめる。


 くまは少し視線を逸らして言葉を続けた。


「……少なくとも、今までそんな話は聞いたことがない。それに――心配しなくてもいい。窮地に陥ったら、私たちが助けに行くから」

「私たち? たち?」

「そう。私は組織に属していると言ったろう?」


 どんな組織なのかまるで見当もつかないけど……。でも私は嬉しくなった。嬉しくなって、ぽんぽんとくまの頭を軽く叩いた。


「よろしくね」

「まかせてくれ」


 くまも嬉しそうだ。瑞希はよく、このくまは偉そうだ鼻もちならないって言うけれど……でもいいところやかわいいところがあると思う。少しずつ私とくまの距離も縮まっていると思う。


 信頼ってものが形成されつつあるんだと思う。そうだといいけど。


 それから少しして、転校生が来るという話を聞いた。そして、今日、その朝を迎えたのだ。


 後藤先生に連れられて、転校生が入ってくる。私はどきどきして彼女を見た。私たちの仲間! かもしれない人。


 背が高い。沢渡さんよりと同じくらいか、それより少し高いかもしれない。すらりとしてスタイルがいい。黒板の前に立って、私たちを見た。


 綺麗な人だなーって、まず、最初に思った。緊張してるのかな、少し表情が硬い。でも綺麗な顔。目が大きい。目だけじゃなくて鼻も口もパーツが大きくてくっきりとした魅力を放っている。


 少しエキゾチックな雰囲気。ただ、ややきつい、冷たい印象がなくもない。けれどもはにかんだように笑うと、途端に愛らしくなった。――素敵な人だー!


 後藤先生が紹介する。名前は篠宮楓しのみやかえで。隣の隣の市からやってきたらしい。本人の自己紹介。音楽が好きなんだって言ってた。よろしくお願いします、と頭を下げると、長い髪がさらりと流れる。


 多くの生徒が感心しているであろう中を、篠宮さんは長い足で、自分の席へと歩いていく。ぼんやりしていた私ははっと思い出す。そうだ、魔法少女!


 篠宮さんが――篠宮さんがもしかしてそうなの!?


 私は机から、小さな袋を取り出した。その中には小さな緑の石。宝石のように澄んだ緑。でもこれは今までその輝きを変えることはなかった。


 でも今は違う。その石は――光り、そしてほんのわずかに熱を帯びていた。




――――




「四人目が見つかったよ!」


 一時間目が終わって、私はすぐに瑞希と沢渡さんに報告した。石が光って温かくなったこと。一大ニュース! もう諦めかけてた最後の魔法少女が、ついに見つかったよ!


「さっそくスカウトに行こうよー!」


 私は興奮して主張するけど、瑞希はちらっと篠宮さんの方を見て言った。


「今は駄目でしょ」

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