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取り囲まれてる。篠宮さんはクラスメイトに囲まれて、質問攻めにされている。この状況で、魔法少女だのなんだのの話はさすがにできない。
「スカウト?」
沢渡さんが面白そうに尋ねた。「私もスカウトされたの?」
「スカウトしようと頑張ったんだけど、でももし沢渡さんが魔法少女じゃなかった場合、こちらの秘密がばれるとまずいし、そういう意味でとても困った」
ということは、篠宮さんの場合も困るということだ。けれども、今までぴくりとも変化がなかった石が今日はばっちり変化してたし、篠宮さんが魔法少女ということはたぶん間違いない。洗いざらい全てをぶちまけてしまいたい。
でも沢渡さんのときのように、ひょっこりと戦いの場に現れるということもあるかもしれない。それを期待したい。
そんなわけで、一時間目の休憩は篠宮さんと話せなかった。それから、二時間目、三時間目。……やっぱりクラスメイトの誰かが篠宮さんと一緒にいる。いろんな人が入れ替わり立ち替わり声をかけている。こちらの番はいつになったらやってくるやら、だ。
四時間目は体育。今日の体育はバスケットボールだ。私はそんなに球技が得意というわけじゃない。もっとシンプルなものならなんとかなるけど。(走るだけとか跳ぶだけとか)
自分のチームの試合が終わったので、コートの外で見学する。沢渡さんはさすがで、くるりと敵をかわしてシュートを決めていく。見ている人たちから声援が上がる。瑞希はちっちゃいけど、でも気の強さなら負けてない。
篠宮さんは――。……意外だった。一生懸命、すごく頑張ってるんだけど、あんまり活躍できてない。長身なのに、せっかくの長身が生きてないというか……。ボールが飛んできても、つかみそこねてすぐ相手チームに取られてしまう。
篠宮さん、すごく申し訳なさそうな顔してる。
ふと、私は授業中の光景を思い出した。授業で当てられても上手く答えられてなかったな、篠宮さん。前の学校の授業がここまで進んでなかったのかな、と思ったりもしたけれど
篠宮さんの長い髪は今はきりっと結ばれている。真面目に取り組もうとする気持ちが表れているみたいに。申し訳なさそうな顔をして、ミスをしても、でも頑張って周りについていこうとしている。……ちょっとどんくさいのかもだけど、すごくいい人かもしれない。
――――
昼休みとなった。私たちは素早く行動した!
誰かが声をかける前に、いち早く篠宮さんを捕まえる。一緒にご飯食べよーって。篠宮さんは快諾してくれた。私たちは机をくっつけあって、お弁当を広げる。
上品なダークグリーンのお弁当箱。黒いシンプルな箸で、篠宮さんはおっとりとご飯を食べる。
魔法少女の話をしたいけど……さすがに唐突にそれはできない。だから、まずは他愛もない自己紹介など。少しずつ、近づいていくつもり。
「部活はどうするの?」
沢渡さんが文芸部の話をして、それが一通り終わったところで、私はきいた。私の学校では部活は強制ではない。私と瑞希は入ってないし。
「あ、音楽が好きって言ってたよね。音楽関係?」
今度は瑞希がきく。篠宮さんは少し考えて答えた。
「まだ何も決めてないの。音楽は好きだけど……そんなに得意でもないし……」
「何が得意なの?」
再び瑞希がきく。篠宮さんはお弁当に視線を落とす。少しの沈黙。そして頼りない調子で言う。
「……私は……得意なものが何もなくて……」
……暗い。篠宮さんの声が暗かった。表情も。たちまち、場が沈んでしまった。瑞希も沢渡さんも何も言わない。いや、ここは誰かが何か言うべきでは!? そんなことないよー! とか。
そんなこと……しかし私は思った。篠宮さんの得意なことって……なんだろう? まだ出会って数時間しか経ってないからわからないことが多すぎる。えーっと……。これまでの篠宮さんの姿を思い浮かべる。数学の時間、国語の時間、体育の時間に、えーっと……。
私が悩んでいると、さらに、篠宮さんの暗い声が聞こえた。
「……私は、勉強も運動も苦手だし……」
そんなこと、そんなことないよー! って誰か言ってよー! でも瑞希も沢渡さんも言わない。その代わりに瑞希が話を変えた。
「うちの学校にどんな部があるか、まだ知らないよね」
瑞希は学校のクラブ紹介を始める。篠宮さんが気を取り直して、興味深そうに聞いている。沢渡さんも穏やかにそれを聞き、ときおり口をはさむ。私はほっとした。
魔法少女の話はもちろん出てこない。まずはある程度、仲良くなってから。
――――
五時間目の授業は音楽だ。篠宮さんが好きだと言っていた音楽。合唱のときにちらりと篠宮さんを見ると、楽しそうに歌ってる。ものすごく上手い、というわけでもないようだけど、でも伸び伸びとした声が綺麗だ。
得意なものは何もない、って言ってたけど、好きなものはあるじゃない。それならそれでいいような気もするけれど……。
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