9
ほたるちゃんは挑むように先生を見つめた。
「なぜそう言い切れるのですか。先生は何を知っているんですか? そもそも「魔法少女」って言ってますけど、先生はそれについて何を――」
「そうね、それについて知らないことはたくさんあるわね」
先生は私たちの傍まで来て止まった。そして、滅多に見せない笑顔を見せて言った。
「でも、少しは知っていることもある。私も魔法少女だったのよ」
――――
……うん。
姉が魔法少女だった、まではいいとして。母が魔法少女かもしれない、これはまあ、疑惑として置いておくとして。でも。
担任の先生が元魔法少女ってどういうことなんだろうな、と思ってると、後藤先生は親切に説明してくれた。
「私とあなたのお母さんはこの学校の生徒だったでしょう? その時、二人で魔法少女をしてたの」
そうなんだ……。そう……。……どういうことなの!?
魔法少女多いなーと私はぼんやりと思った。人口のかなりの割合が魔法少女なのかな。ひょっとすると、あちこちにいっぱいいるのかな。
私は警戒して辺りを見回した。この流れでは、さらに二人三人と魔法少女が現れかねない。「私も!」「私もよ」「奇遇ねー」とかって。
でも誰も現れなかった。魔法少女どころか、人っ子一人現れなかった。今、私の視界で確認できる範囲にいるのは、私たち四人とほたるちゃんと後藤先生だけ。中庭も校舎も静かだ。
ここにいる六人、みな黙っている。ほたるちゃんが呆気にとられた顔をしている。後藤先生の表情は穏やかだ。おずおずと、瑞希の声がした。
「……先生も……魔法少女だったんですね……」
確認するだけの言葉。まあそれ以外に、まだ言うべきことが見つかってないんだろうなあ。私もそうだし。
先生は微笑んだ。
「そうよ。つまりあなたたちの先輩ね」
「……先生。私たちが魔法少女だって、知ってたんですか?」
瑞希が尋ねる。先生は首を横に振った。
「いいえ。ただね、元魔法少女だからだろうけど、敵の気配がなんとなくわかるの。そしてその気配の近くにあなたたちがいる――だから、あなたたちが魔法少女ではないかな、とは思っていたの」
先生は中庭を見やった。
「今日もこの中庭が気になっていたの。そうしたらあなたたちの姿が突然現れて、なんだかんだともめはじめたから、ごめんなさいね、隠れて盗み聞きをしていたの。そうしたら、何か大きな勘違いをしているようだったので」
先生がよくしゃべっている。珍しい。いや、授業とか私たちの指導とかではしゃべるけど、こんな風にプライベート? なことでは珍しい。
先生は目を転じて、今度はほたるちゃんの方を見た。
「魔法少女だから若くして死ぬ、ということはないわ。現に私は死んでいない。それに私は元魔法少女たちをたくさん知っているけど、高齢でお元気な方はたくさんいるわ」
元魔法少女を……たくさん……。この学校、歴史が長いから、歴代の魔法少女もそれなりの数にはなるのだろうけど……。
「元魔法少女たちでつながりがあるんですか?」
驚いた声で、沢渡さんが尋ねた。先生は頷いた。
「そうよ。魔法少女でなくなる前に、新たな魔法少女に出会う人もいるでしょ、今のあなたたちのように。そういったところから私たちのネットワークが作られる。一瀬さん、あなたは先代の魔法少女に会わなかった?」
一瀬さん、とは、私じゃなくてほたるちゃんに向けて言ったもの。ほたるちゃんは顔を強張らせながら答えた。
「……はい……」
「そうね、みんながみんな、前の世代のそして後の世代の魔法少女と会うわけではないわね。でもこうして今の私のように、ひょんなことから、現役の魔法少女に会う場合もあるわけで、そこから私たちの仲間が増えていくこともあるわ」
先生は少し、ほたるちゃんのほうに近づいた。ほたるちゃんは警戒の表情をして、でも逃げたりはしなかった。先生はほたるちゃんに言った。
「あなたは死なないわ。あなたの妹とその友人たちも。安心した?」
「でも……」
ほたるちゃんは納得していないようだった。先生から視線を逸らし、何か言いたそうにして、でも何も言わなかった。
「魔法少女になると若くして死ぬ、なんて、ほんとに信じていたわけではないでしょ?」
先生はさらにほたるちゃんに問いかけた。ほたるちゃんははっとして、伏せ気味にしていた顔をあげた。ほたるちゃんは今度ははっきりと先生を見た。その目は少しぎらぎらしていた。
「でも、終わってしまうんです」
強い調子でほたるちゃんは言った。「終わってしまいます。何もかも」
「何が終わるの?」
静かな、先生の声。ほたるちゃんとは対照的だ。
「……魔法少女じゃいられなくなってしまいます。変身もできなくなってしまいます」
「私もそうよ。あなたのお母さんもそうだった。みんなそうなの」
「――ぬいぐるみの声も聞こえなくなってしまいます」
「ぬいぐるみ? ああ、異世界人がその中に入って、あなたとコンタクトを取っているのね」
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