ふと、ほたるちゃんもお母さんの作ってくれたぬいぐるみを持っていることを思い出した。ほたるちゃんはうさぎさん。うさぎもやっぱり本棚に飾られてて、今ももちろんあって――。


 私たちは、似たようなものを持っている。


 ……くまは言っていたよね。魔法少女が他にもいるって。私と瑞希、これから仲間になる子たちの他に、そろそろ卒業を控えた魔法少女がいるって。卒業。ほたるちゃんは高校三年生だ。そして私たちは同じ学校に通っている。


 ひょっとして――ひょっとして、ほたるちゃんがその魔法少女だったりする?


 ほたるちゃんのうさぎが、私のくまと同じような役目を果たしているのだとしたら。同じようにそこを通じて異世界人がコンタクトを取っているのだとしたら。そうだとしたら、ほたるちゃんはやっぱり魔法少女で――。


「あの!」


 私はくまに声をかけた。くまが私を見る。


「どうした?」

「私たちの先輩――っていうのかな、今高校三年生の魔法少女は――誰なの?」


 単刀直入に私はきく。くまは一瞬、迷いを見せた。前もそうだった。何か、言いたくないことがあるのかもしれない。


「知らない」


 返ってきた答えはあっさりとしたものだった。くまは一瞬の迷いなどなかったかのようにはっきりと言う。


「私は知らない。その魔法少女とコンタクトを取っているのは私ではない。私は――一種の組織に属していて、同じようなことをしている仲間が何人かいるのだ。そのうちの一人の管轄だ。そして私たちは、必要以上に、他人の仕事に介入したりしない」

「……そうなの?」


 疑わしい。私はくまをじっと見る。黒い目が、よりプラスチックの質感を強くして、これはただの無機物なのだと主張している。感情が読めない。私は諦め、小さくため息をついた。


 向こうの魔法少女が望めば、会うことができるとか、そんなことをくまは言ってたっけ。だからもし、ほたるちゃんが魔法少女なら――ほたるちゃんがそう望めば、私たちは同じ魔法少女として対面したりするのかな。


 なんだか変な話――だけど。 




――――




 体育の授業でバレーボールをやる。私は沢渡さんと同じチームになった。


 沢渡さんは運動が得意だ。長身を生かして活躍している。勉強もできるし、結構なんでもできる人なんだな。密かに憧れてる子たちはいるだろうけど、でも沢渡さんは群れない。


 授業が終わって、私は沢渡さんの傍へと近づいた。なんとか話をするきっかけを作りたい。今回はちょうど同じチームだったから、そのことを話してみる。


「沢渡さんすごいね! 沢渡さんのおかげでうちのチームは大勝利だよ~」

「そう? ありがと」


 沢渡さんはさらりと言う。謙遜したりしない。褒められなれてるって感じ。大人っぽい余裕も見える。


 瑞希もやってきた。私と沢渡さんが何を話すのか、注目しているようだ。


 ……えーっと。何を話そうか……。


「あの、さっきの試合でね……」


 試合のハイライトに触れながら、更衣室へと入る。話を続けたかったので、荷物を持ってきて沢渡さんの隣で着替えた。瑞希もそうする。


 ちょっと強引な風にもなってしまったけど……沢渡さんは別に気にしてないみたい。いつもの穏やかな笑顔で私の話を聞いている。


 口数は少ない。そっけないわけでもないんだけど。でもあまり話が広がらない。会話が一段落して、次の言葉を探していると、横から瑞希が口を出した。


「ところで沢渡さん! あなた、しゃべるくまには興味ある?」

「しゃべる……くま?」

「そう、ぬいぐるみなんだけど」


 沢渡さんが不思議そうな顔をする。み、瑞希め、一体何を言い出すんだよー! はらはらしてると瑞希はさらに言葉を重ねる。


「しゃべって動くの。しかも生意気。それでね、魔法が……もがっ」


 私は慌てて瑞希の口をふさいだ。これ以上自由にしゃべらせておくわけにはいかない。


「何の話?」


 沢渡さんがめんくらった表情で私たちを見る。私は不器用に笑った。


「な、なんでもないの! その……あはは」


 更衣室を出て、沢渡さんと別れて、私は瑞希と二人きりになった。さっそく、瑞希に文句を言う。


「もう、ぺらぺらと余計なことをしゃべらないでよー!」


 私たちが魔法少女だとばれてしまったら、もう魔法が使えなくなってしまうのに!


 瑞希は悪びれた顔を見せない。


「肝心なことは言ってない。というか、ほのかがあまりにも回りくどいからイライラして」

「回りくどいんじゃなくて、用心深いの!」

「はいはい」


 私は瑞希と違って慎重なタイプなの! と主張したい。まあでもさっきの瑞希の台詞で沢渡さんが私たちの正体に気づくとは思えないけど。


 正体といえば。思い出すことがある。昨日からちくちくと気になっていたこと。まだ、瑞希に話していない。


 教室に戻りながら、私は思い切って、瑞希に打ち明けてみることにした。


「――あのね。この学校の高等部の三年生に、魔法少女がいるってくまが言ってたじゃない?」

「私たちの先輩ね」


 私は頷く。


「そう。それ。それが――その人が、うちのほたるちゃんじゃないかなって、思うの」

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