4
かばんの中から小さな袋を取り出す。その中に残されていた最後の一つ。ついにこれの出番がやってきたのか……感慨深い気持ちで、私は石を瑞希に渡す。
「これがあなたの!」
そう言って、瑞希が篠宮さんに石を押し付けた。篠宮さんは驚きつつ、その石を手に取る。
光が走った。篠宮さんを取り巻く、柔らかな光。
そして、光がおさまった後には、さっきまでとは違う篠宮さんが立っていた。制服姿ではない。緑を基調としたかわいらしい服装。私たちと似てるけど、でもやっぱり違う。こちらは少しシックでエレガント。
四人目の魔法少女だ。ついに……全員揃ったんだ!
――――
「私たちはこれから敵を倒しにいきます。それが魔法少女の仕事だから」
驚いてぼんやりとして、口もきけない篠宮さんに、瑞希は言った。
「は、はい」
瑞希に合わせてなのか、丁寧な言葉になっている篠宮さん。「敵は……どちらに?」
「向こうの木の下に。でも私たちの正体を他の人に知られては駄目。例外もあるけど……ああ、めんどくさいから、説明はまた後で」
「はい」
私はまたも出入口から顔を出した。辺りには……誰もいない。子どもたちもこちらも見ていない。今がチャンスだ!
瑞希に合図して、瑞希が篠宮さんを引っ張って外に出す。二、三歩進んだところで世界が変わった。異空間に入ったのだ。
ほんのりと黄色い光に満ちた、殺風景な空間。そこに白く眩いものがある。それ自体が発光している。二つの楕円形のものがくっついた形をしており、その楕円が上下にひらひらと動き、私たちの胸の高さ辺りを飛んでいる。大きさは20センチほど。今回の敵はあまり強そうじゃない。
なんとなく気づいていることがある。学校やその近くで出会う敵の方が強力なのだ。たぶん、こちらの世界と異世界をつなぐ穴とやらが学校にあるから、ではないかと思うのだけど……。
「あれが敵です。私たちはあれを魔法で倒します」
瑞希が篠宮さんに講釈している。篠宮さんの初陣であることを考えると、弱そうな敵でよかった。
「魔法が使えるんですか!?」
「そう。あなたも」
「すごい!」
「こんなふうに」
瑞希が手から水を出して、ひらひらしているものにかけた。たちまちその発光体は力を失ってしまう。バランスを崩し、地に落ちる。そこへ私が、小さな炎を放った。
それでおしまい。たちまち世界は元に戻った。
目の前を飛んでいく白い小さな蝶。敵の正体はこれだったのか。
「わかった?」
私たちはトイレの前に立っていた。制服姿に戻って。瑞希の言葉に、篠宮さんは目を輝かせた。
「すごーい! なんだかよくわからないけど……ごめんなさい、わかった? ってきかれてその返答もどうかと思うけど、でも、すごいです!」
もうちょっと何かあればよかったなあ……と私は思った。あまりにも手ごたえがなさすぎた。篠宮さんの魔法がなんなのかわからないままだし、それに……私たちが活躍する姿をもうちょっと見てほしかった、というか……。
でもこれからずっと一緒に戦うんだし! かっこいい姿を見てもらう機会はいくらでもあるよね。
「そりゃ、わからないことだらけだよね」
私は言う。トイレに戻って荷物を持って、私たちは再び外に出た。そして篠宮さんにさらに言った。
「たくさん説明することがあるの。あ、そうだ――私の家に来る?」
家に行けばくまがいる。くまを見せたいのだ。沢渡さんも一度うちに来て、くまとの対面を済ませている。
「ぜひ!」
篠宮さんは言った。というわけで、決定。私たちは公園を後にして、私の家を目指した。
――――
魔法少女が四人そろったことに、くまは大変満足していた。そして、初めてくまを見た篠宮さんもとても興奮していた。何しろ、動いてしゃべるぬいぐるみだもんなあ……。篠宮さんは、くまがとてもかわいいと言っていた。確かに見た目はすごくかわいい。私のお母さんが作ったんだもん。
そう言われてくまもまんざらでもない表情。本体は別の姿なんだけど――ほんとに奇跡のように美しいのかしらん――褒められて悪い気はしないっぽい。それに篠宮さんは美人だから、美人に好かれて嬉しいのだろうと思う。
石の持ち主はみなわかった。これで完璧な体制になったわけだ。でも――残念なことに、それからしばらく出番がなかった。沢渡さんが、家の近くでちょっとした敵をやっつけたくらい。
でも平和な日々が続くのも悪くない。それに篠宮さんと、秘密を共有することによって、もっとずっと仲良くなれたし。
ある日の放課後、私たち、私と瑞希と篠宮さんは被服室にいた。沢渡さんは文芸部。被服室には、三人しかいない。
「できたー!」
私はチェックのきんちゃく袋を顔の前に掲げた。家庭科の課題のきんちゃく袋。授業中に完成できなかったので、こうして居残って作業を続けていたのだ。瑞希はとっくに終わらせている。でも付き合ってくれている。
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