かばんの中から小さな袋を取り出す。その中に残されていた最後の一つ。ついにこれの出番がやってきたのか……感慨深い気持ちで、私は石を瑞希に渡す。


「これがあなたの!」

 

 そう言って、瑞希が篠宮さんに石を押し付けた。篠宮さんは驚きつつ、その石を手に取る。


 光が走った。篠宮さんを取り巻く、柔らかな光。


 そして、光がおさまった後には、さっきまでとは違う篠宮さんが立っていた。制服姿ではない。緑を基調としたかわいらしい服装。私たちと似てるけど、でもやっぱり違う。こちらは少しシックでエレガント。


 四人目の魔法少女だ。ついに……全員揃ったんだ!




――――




「私たちはこれから敵を倒しにいきます。それが魔法少女の仕事だから」


 驚いてぼんやりとして、口もきけない篠宮さんに、瑞希は言った。


「は、はい」


 瑞希に合わせてなのか、丁寧な言葉になっている篠宮さん。「敵は……どちらに?」


「向こうの木の下に。でも私たちの正体を他の人に知られては駄目。例外もあるけど……ああ、めんどくさいから、説明はまた後で」

「はい」


 私はまたも出入口から顔を出した。辺りには……誰もいない。子どもたちもこちらも見ていない。今がチャンスだ!


 瑞希に合図して、瑞希が篠宮さんを引っ張って外に出す。二、三歩進んだところで世界が変わった。異空間に入ったのだ。


 ほんのりと黄色い光に満ちた、殺風景な空間。そこに白く眩いものがある。それ自体が発光している。二つの楕円形のものがくっついた形をしており、その楕円が上下にひらひらと動き、私たちの胸の高さ辺りを飛んでいる。大きさは20センチほど。今回の敵はあまり強そうじゃない。


 なんとなく気づいていることがある。学校やその近くで出会う敵の方が強力なのだ。たぶん、こちらの世界と異世界をつなぐ穴とやらが学校にあるから、ではないかと思うのだけど……。


「あれが敵です。私たちはあれを魔法で倒します」


 瑞希が篠宮さんに講釈している。篠宮さんの初陣であることを考えると、弱そうな敵でよかった。


「魔法が使えるんですか!?」

「そう。あなたも」

「すごい!」

「こんなふうに」


 瑞希が手から水を出して、ひらひらしているものにかけた。たちまちその発光体は力を失ってしまう。バランスを崩し、地に落ちる。そこへ私が、小さな炎を放った。


 それでおしまい。たちまち世界は元に戻った。


 目の前を飛んでいく白い小さな蝶。敵の正体はこれだったのか。


「わかった?」


 私たちはトイレの前に立っていた。制服姿に戻って。瑞希の言葉に、篠宮さんは目を輝かせた。


「すごーい! なんだかよくわからないけど……ごめんなさい、わかった? ってきかれてその返答もどうかと思うけど、でも、すごいです!」


 もうちょっと何かあればよかったなあ……と私は思った。あまりにも手ごたえがなさすぎた。篠宮さんの魔法がなんなのかわからないままだし、それに……私たちが活躍する姿をもうちょっと見てほしかった、というか……。


 でもこれからずっと一緒に戦うんだし! かっこいい姿を見てもらう機会はいくらでもあるよね。


「そりゃ、わからないことだらけだよね」


 私は言う。トイレに戻って荷物を持って、私たちは再び外に出た。そして篠宮さんにさらに言った。


「たくさん説明することがあるの。あ、そうだ――私の家に来る?」


 家に行けばくまがいる。くまを見せたいのだ。沢渡さんも一度うちに来て、くまとの対面を済ませている。


「ぜひ!」


 篠宮さんは言った。というわけで、決定。私たちは公園を後にして、私の家を目指した。




――――




 魔法少女が四人そろったことに、くまは大変満足していた。そして、初めてくまを見た篠宮さんもとても興奮していた。何しろ、動いてしゃべるぬいぐるみだもんなあ……。篠宮さんは、くまがとてもかわいいと言っていた。確かに見た目はすごくかわいい。私のお母さんが作ったんだもん。


 そう言われてくまもまんざらでもない表情。本体は別の姿なんだけど――ほんとに奇跡のように美しいのかしらん――褒められて悪い気はしないっぽい。それに篠宮さんは美人だから、美人に好かれて嬉しいのだろうと思う。


 石の持ち主はみなわかった。これで完璧な体制になったわけだ。でも――残念なことに、それからしばらく出番がなかった。沢渡さんが、家の近くでちょっとした敵をやっつけたくらい。


 でも平和な日々が続くのも悪くない。それに篠宮さんと、秘密を共有することによって、もっとずっと仲良くなれたし。


 ある日の放課後、私たち、私と瑞希と篠宮さんは被服室にいた。沢渡さんは文芸部。被服室には、三人しかいない。


「できたー!」


 私はチェックのきんちゃく袋を顔の前に掲げた。家庭科の課題のきんちゃく袋。授業中に完成できなかったので、こうして居残って作業を続けていたのだ。瑞希はとっくに終わらせている。でも付き合ってくれている。

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