6
そこへ加奈ちゃんがやってきた。
「ね、ね。また幽霊が現れたんだよ! 部室に!」
加奈ちゃんは語る。先輩が一人で部室にいたときで、やっぱり髪の長い女の人で。私と瑞希は顔を見合わせた。
「放課後、部室に行ってもいい?」」
「いいよ」
瑞希の言葉に、加奈ちゃんはあっさりとオッケーをくれる。幽霊の正体は……ただの幽霊かもしれない(ただの幽霊ってなんなんだ)。でも、魔法の力で姿を変えられたものかもしれない。くまは警戒を怠らないよう言っていた。私たちもそれを調べてみたい気持ちがある。
かくして放課後。私と瑞希はまたも文芸部の部室にいた。
加奈ちゃんが他の文芸部員の子と教室に忘れ物を取りに戻って、部屋には私と瑞希だけが残された。私たちは黙って、室内を見回す。気配を探る。ここにあってはならぬものの気配。幽霊じゃなくて、それは魔法の力で変質したもので、それは私たちがやっつけねばならないもので、それは――。いた。
瑞希の方を見る。目が合って、瑞希の表情から彼女もそれを感じたことがわかった。石がよびかけてくる。気をつけたほうがいいよ。声なき声で石が言う。変身をして、戦いに備えたほうがいい。
すっと目の端を横切るものがあった。淡い金色の長い髪。たぶん、文芸部の人たちが幽霊だって言ってたもの。でも違う。私はそっと瑞希に近寄った。
戦いとなると、異空間に放り込まれることになる。そうすると、私たちはその場にありながら、その場にいない、ということになるらしい。つまり、ここに加奈ちゃんが帰ってきても、私たちの姿は見えない。それはいいんだけど、戦いが終われば突然その場に私たちが現れるわけで、加奈ちゃんがびっくりしちゃう。
異空間に流れる時間は私たちがいる世界に流れる時間と全く違うらしい。そこで長く戦っても、こちらでは一瞬なのだとか。だから、加奈ちゃんが帰ってくる前に急いで戦闘を終わらせなきゃとか心配することもないんだけど……でも石が警告しているからには、ここでささっとやっつけちゃったほうがいいのかも。
「瑞希……」
「うん。変身だね」
私はポケットに手を入れた。けれども石に触れる直前に手が止まってしまった。文芸部のドアがすうっと開いたのだ!
そこに現れたのは――沢渡さん!
沢渡さんは意外そうな顔をしている。
「二人も、文芸部員だったの?」
沢渡さんが尋ねる。私は首を振った。
「違う。そうじゃないんだけど、今日はちょっと遊びに来たというか……」
「じゃあ、私と一緒だね」
沢渡さんは微笑む。テーブルに近寄って、荷物を置いたところで、瑞希が私にささやいた。
「ほのか! 紫の石持ってる!?」
「う、うん、一応……」
紫の石は、小さな布袋に入れて、かばんにいれてある。
「貸して!」
有無を言わせない瑞希の声。私は石を出した。瑞希はそれを受け取ると、沢渡さんに向かって差し出した。
「沢渡さん! これに触れて!」
「何? 綺麗だね。宝石?」
沢渡さんが言う。ほんと、綺麗。きらきら輝いてる。……うん。やっぱり沢渡さんが魔法少女だからだろうな。石は喜んでいるみたい。自分の持ち主が見つかって。
沢渡さんの手が石に触れた。光がもっと強くなって、沢渡さんを包む。私もポケットの赤い石に触れた。こちらも眩い光が私を包んでいく。
沢渡さんにあれこれ事情を説明しなければいけないんだったら、こっちも魔法少女になったほうが話が早いだろうな、なんて思いながら、私も変身する。
――――
「……これは、何事?」
沢渡さんが呟く。自分の姿をまじまじと見ている。……そりゃあ驚くだろうね。いきなり、服が変わっちゃったんだもんね。
沢渡さんは紫が基調の服。私たちのと似ているけれど、どこか大人っぽい。こういうの、本人の特性が出るのかなあ。私と瑞希の服も、全く同じというわけではない。私のほうが装飾が多くて、瑞希は少しすっきりしている。
「あなたは変身して魔法少女になったの」
瑞希が沢渡さんに近寄る。そう言う瑞希もすでに変身を済ませている。
「話せば長いけど、私たちはこれから敵と戦うことになる」
「敵って?」
「それは……」
瑞希が言いかけてやめる。本棚からゆっくりと煙のように何かが浮かび上がってきたからだ。人みたいに見える。髪の長い、女性っぽい人。
それは徐々に大きくなって、部室全体に広がっていく。そして変化が起こった。
世界が変わる。ここではない場所に。それがどこにあるのかよくわからない場所に。
私は一瞬目をつぶり、そしてまた目を開けた。
――――
「か、かわいい~!」
まず口に出たのはその言葉だった。何これ! かわいいよ! 世界がメルヘンになってる!
今までは殺風景な白い世界(もしくは微かに色がついていることも)だったけど、今回は全然違う!
おとぎ話の世界だー!
私たちはどこかの庭園の小道に立っていた。遠くにお城が見える。西洋の、きらきらしたお姫様が住んでいそうなお城! じゃあここはお城の庭なんだ。綺麗に刈り込まれた木、緑の鮮やかな芝生、バラの垣根。バラのアーチも見える。赤と白の花がよい配分で混じりあってる。
「あ、うさぎがいる!」
木の向こうからぴょこんと跳び出してくる小動物の姿があった。真っ白のかわいいうさぎさん! 私は思わず追ってしまう。
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