4
結局、講堂の裏で食べることにした。階段に座って、すぐ左はわずかな空き地と壁。壁は汚れて暗い色をしている。
お弁当を開いたけど、あまり食べる気にはなれない。でも頑張って詰め込んで、半分は食べた。けれどもそれ以上は無理。ため息をついて、蓋を閉じて、丁寧にお弁当包みに包んで、昼食を終える。
……何をやってるのかな、私は。なんだかみじめだ。なんでこんな暗い昼休みをおくらなければならないんだろう。
いつもなら四人で楽しく食べてるのに……。他愛もない話なんかして。
謝ればいいんだと思う。瑞希にごめんね、って。でも私、謝らなければならないくらいひどいことしたかなあ。してない。してないと思う。たぶん。
そもそも瑞希もひどいよ。どうしてあんなにきつい性格なのか。私、実によく我慢して付き合ってると
思う。よく長いこと友達を続けてられるなあって。
でも……。友達を続けていられるのは、欠点ばかりではなく、よいところも知っているからだ。
その後も瑞希とは口を聞かなかった。帰りも別々。いいんだ。一人の方が。気が楽だし。
家に帰って部屋に入った。かばんを乱暴に床に置いて、疲れた気持ちでベッドを背もたれにして座ると、くまがふわふわと飛んできた。
「どうしたんだ? 浮かない顔をしてるが」
気遣ってくれるとはなかなかいいくまだと思う。でも普段はあまりこんなことないので、私がよっぽどひどい顔をしているのだろうか。
「瑞希とけんかした」
不機嫌に言うと、くまはちょっと困った表情になった。
「魔法少女同士、仲良くやらなくては……共に戦う仲間でもあるのだし」
先生みたいなことを言うくまだなー。でもくまは私たち魔法少女にとって指導者的立場でもあるのかな。だったら、先生でもおかしくないのかな?
仲良くやらなくては、なんて簡単に言うけれど。それが正しいことなんだって、私にもわかっているけれど。でもわかっていても上手くやれないことってあるじゃない。
「くまは誰かとけんかしないの?」
向こうの世界で。私の頭に、いがみあってるくまのぬいぐるみ二体が浮かんできた。楓ちゃんの説をとるなら、異世界はぬいぐるみたちの暮らす場所だ。かわいい……。ちょっと心が和んだかも。
「けんかは……」
くまが言いよどむ。くまはたぶん、向こうの世界で大人だと思うので、けんかしないのかもしれない。大人ってそんなにけんかしないじゃない? いやそうでもないか?
「くまに友だちはいるの?」
何気なくきいたけど、くまは黙ってしまった。悪いこと聞いちゃったかな。友だちいないのかな。大人の男性って……確かにあまり友だちいないイメージがあるけれど。いないというか、子どものときほど、みんなで集まってわいわいしないイメージ。
「友だちは……仲間ならいるよ」
「仲間?」
ああ、仕事仲間? それって友だちなのかな。でも大人の友情ってそういうものなの?
「そう。仲間。私たち」
変な言い方だった。くまは穏やかな顔をしている。「私たち」? 仲間のことをそんなふうに呼ぶかな。
私たち。私たちクラスのみんな。私たち家族。私たち住民。うん――仲間のことをそういうふうに呼ぶこともあるかな。
「どんなところなの? 異世界って」
答えてくれないだろうことはわかってる。でも聞かずにはいられなかった。気分が落ち込んでいて、くまを捕まえてあれこれと質問をしてみたかった。異世界ってどういうところ? 魔法少女ってなんなの?
魔法少女がどういう存在で何のために戦っているかは、最初に説明してもらった。魔法の力で姿を変えられたものをもとに戻すため。それを放置しているとよくないことになるのらしい。でも――いまいち実感がわかないところがある。
魔法少女は世界(私のいる場所、くまの本体がいる場所)のために戦ってるわけだけど、でも本当にそうなのかな。ちゃんと世界を、守れてるのかな。
「……前にも言っただろう? いいところだって」
くまはやっぱりはぐらかした。いつもの私なら、ここで、ふーんとか思って引き下がるところだけど、今日は気持ちが落ち着かなくて、さらに質問を重ねてしまう。
「どうして教えてくれないの? 私、くまの本体や異世界についてほとんど何も知らない」
苛立ちをこめて、きつい調子で言う。そのせいか、くまの態度もわずかに固くなった。
「知らなくてもかまわないだろう? 魔法少女をやっていく上では何も支障がないことだ」
「かまうよ!」
どうしてこうなのかな、って思っちゃうけど、今日は何もかもがおかしいのだ。私はくまにくってかかった。そんなことしなければいいのにと、ちょっぴりうっすらとは思いながら。
「おかしいよ! なんで何も教えてくれないの? 何を隠してるの? 言えないことがあるの?」
「……ほのか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます