6
瑞希の手から水の塊が放出された。それを影は器用に避けた。影が高く跳び、その身体から、黒い束のようなものが瑞希めがけて放たれた。瑞希が間一髪のところでそれをかわす。
攻撃してくるんだ。気をつけなくちゃ!
瑞希を助けようと私も炎を出して、影にぶつけた。……はずなんだけど……、途中で消えてしまった。瑞希が放った水とぶつかって、どちらもちりぢりになって消滅しまったのだ。瑞希の怒った声が聞こえる。
「ほのかー!」
「ごめん! タイミング悪かったね!」
戦うの初めてだし……と思う。息を合わせるのはなかなか難しいよー。影が動きを止めた。光る二つの目がこちらを見ている。まるであざ笑うかのようにその目が細くなる。
「笑ったなー!」
瑞希がまたも突進していく。……さっきまでクールだったけど、すごく熱血になったね……。うん、そんな子なんだ瑞希は。クールそうに見えるけど、実は熱くてかっこいい。
瑞希と影の応酬が続く。放たれる水と黒の乱舞。ぱっしゃぱっしゃと水鉄砲か何かで遊んでるみたい。ううん、遊んでるわけじゃなくて……。
私は走って、影の背後に回る。影がはっとなって、動きを止め振り返る。私はそこに、ありったけの力を込めて、炎の球をぶつける。
影が炎に包まれた、かのように見えた。でも燃えたわけではないみたい。それは一瞬で、炎は消えて、影の身体がみるみる縮んでいった。そして――。
世界が元に戻る。
私たちはいつもと変わらぬ庭に立っていた。
――――
にゃー、と猫の声がした。茫然としていた私ははっと我に返る。庭に一匹の白黒の猫がいる。隣のおうちの猫だけど……。
「これがあの影の正体だよ」
上から声がした。見上げるとくまが浮かんでいる。夕暮れ空をバックにくまは言った。
「魔法の力によってあのような姿になっていたのだ」
「じゃあ、私たちがさっきまで戦っていたのは、この猫ちゃん……」
手を出して呼び寄せようとするけれど、ぷいと顔をそむけてしまう。思いっきり炎をぶつけたけど大丈夫なのかなあ。その辺りをくまに聞くと、心配いらない、という声が返ってきた。
「あの猫にはまったく影響はないよ」
ほっとした。猫は塀に上って、隣の敷地に姿を消してしまった。周囲は静かだ。日が暮れようとしていて、遠くから車の音が聞こえてきて、いつもと変わらぬ日常の光景。さっきまでの異空間とやらが、そこでの戦いが、なんだか嘘みたい。
「あっ! 服が元に戻ってる!」
私は唐突に気付いた。いつの間にか、シンプルな普段着になってる……。瑞希もだ。あの服かわいかったのにちょっと残念、と思ってしまう。もっともずっとあれでも困るけど。
「部屋に戻ろう。まだ、説明しなければならないことがある」
くまはそう言って、私たちをうながした。
変身が解けてしまっているので、窓に跳びあがることはできない。私たちは玄関から入る。そしてまた私の部屋へ。くまの前に、私と瑞希が、並んで座った。
「――君らの役目が、どういうものかわかっただろう?」
くまは言う。私は神妙に頷いた。
「なんとなく」
最初にしては上手くいったような気がするけれど……。くまは私の気持ちを察したように言葉をかけた。
「初回にしては上出来だ。今後もまた、あのように魔法で姿が変わったものが現れる。それらを今回のように元に戻してくれればよい。近くにそういったものが出現すれば、石が教えてくれる」
「石が?」
あの赤い石が? 教えてくれるってしゃべるのかな、と思っていると、横から瑞希がきいた。
「どうやって?」
「あの石を身につけていれば、自然とわかるようになる」
うーん、曖昧だな……。
「そして、もう一つ、君らがやらなければならないことは……」
「仲間探し」
瑞希が言う。くまは同意して、
「そうだ。それから注意しておくが、魔法少女であることが周りにばれてはいけない」
おおー、お約束だー! なんだか感心してしまう。
「瑞希と、これから仲間になる魔法少女たち以外の前で、変身してはいけない、ってことだよね!」
瑞希につられて、私も、くまへの口調がくだけたものになる。そしてふと疑問がわいた。
「変身って、いつでもできるの?」
「それは無理だ。戦う必要が出てきたときだけ」
「ふーん……」
ちょっとつまらない。自由にできないってことなのか。
「過去に魔法少女だったもの、現在も魔法少女であるものもいる。彼女らにばれるのはかまわない」
「えっ! 魔法少女他にもいるの!?」
私と瑞希と仲間になる二人だけじゃなくて、他にも!? 驚いて尋ねると、くまは冷静に説明してくれた。
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