第二十八話 メリッサさまと、お友達になりましたの。

 八月も、五歳になった伯爵令嬢の、お披露目パーティーがありますの。

 正直、めんどくさくなっていましたし、もういいやって、思ったのですが、子爵家と男爵家は行かなくていいからと、お母さまに言われてしまいましたのよ。そういえば、今までも、侯爵家と、伯爵家にしか、行っていませんわね。


 めんどうですけど、行きますわよ。

 いつも、広間では、お母さまと、デュオン兄さまが、ご一緒ですしね。わたくし一人で、ふらりと移動することはありますが、同じ空間に、家族がいるのは、安心しますの。


 というわけで、がんばって、行きましたのよ。

 藍色のドレスでねっ!


 金色の長い髪をまとめているのも、藍色のリボンなの。ネイルも藍色よ。

 紫色の石のペンダントも、とってもすてきなのっ!


 ドレスをオーダーする時は、なんとなくでしたけど、わたくし、日本にいたころに、がんばるぞって時はよく、藍色の服を着ていましたの。ドレスもですけどね。


 音楽と声がにぎやかな、伯爵家の広間に入ると、たくさんの人たちと、ふわふわ浮かぶ、精霊さんたちが見えました。


 しばらくすると、今日、五歳になったばかりの伯爵令嬢の、ごあいさつが始まりましたの。

 そのあと、公爵家――わたくしたちから、話しかけましたのよ。


 次も公爵家で、なんと、メリッサさまのお母さまとご一緒に、深紅のドレス姿のメリッサさまがいらっしゃいました。


 おひさしぶりですわねっ!


 メリッサさまは、今日も、深紅のイヤリングと、黒い花のコサージュと、黒い石のペンダントを、身に着けていらっしゃいます。ネイルは今日も紅いわね。


 すごいですわねっ!

 小さいのに、とても目立っていらっしゃいます。


 公爵家の次は、侯爵家。

 橙色の髪と瞳のミリアムさまが、同じ橙色の髪と瞳のお母さまとご一緒に、いろいろとお話をされていますの。

 そして、それが済んだあと、ミリアムさまがわたくしを見て、ニコリと笑ってくださいましたの。


 しあわせですわっ! 癒しですわっ!

 わたくし、うれしくて、つい、小走りで駆け寄ったあと、ミリアムさまに、勢いよく抱きついてしまいましたの。


「キャッ」

 っと、小さく悲鳴を上げる女の子って、いいですわねっ!

 守ってあげたく、なりますわねっ!


 水色のドレスも、青色の石のペンダントも、すてきですわっ!

 ネイルは今日も、あんず色ねっ!


 この愛らしいミリアムさまを守ってくださる男性が、この中にいらっしゃると、よいのですが……。


 デュオン兄さまはね、メリッサ嬢がよいみたいですし、よく考えると、可憐なミリアムさまが、デュオン兄さまにいじめられたら、わたくし、鬼と化しますわよ。


 人化ではなく、鬼化しますの。

 最初から人ですからね。人化は、しませんのよ。

 オホホホホ。


 楽しい気持ちで、ミリアムさまと語り合っていましたら、「まあ! なんてこと!」という、わざとらしい声が、聞こえましたの。

 大きな声で、はしたない大人ね。そう思いながら、視線を向けると……。


 ご婦人方が、派手な扇子をパタパタさせながら、「嫌だわ」とか、「何を考えているのかしら?」とか、周りに聞こえる声で話してましたの。


 うるさいわね。

 なんて思いながら、ご婦人方の視線の先を見ると、黄色い髪と、橙色の瞳の、天使な美少年――デュオン兄さまが、楽しそうに笑っていらっしゃいました。しあわせそうねっ!


 お相手の方は、メリッサさまですわっ!

 なんだか、顔が赤いわね。身体を震わせて……。

 お怒りなのでしょうか?


 いや、あれは……泣きそう?

 そんなメリッサさまの頭を、デュオン兄さまがほほ笑みながら、そっと撫でました。


 うーむ。

 これは、どういう状況なのでしょうか?

 デュオン兄さまがいじめたあと、なぐさめていらっしゃる気もするのです。


 お二人の世界なので、邪魔をしてはいけません。馬に蹴られたくありませんの。痛いの、ダメ! 治癒魔法、使えますけどね。


 そういえば、お母さまと、メリッサさまのお母さまが、近くにいませんわね。お友達とお話をされているのかしら?


 ――あらっ?


 デュオン兄さまが、メリッサさまと共に、こちらに向かってきますわね。

 嫌だわ。なんだか、とても嫌な予感がするの。

 ここには、とっても可憐な、ミリアムさまがいらっしゃるのに……。


 ドキドキドキ。


「やあ!」

「なんでしょうか? デュオン兄さま」

「フフッ。こわい顔だね。ララーシュカ」

「嫌な予感がしたので」


 わたくしが小さな声で伝えると、フフッと笑ったデュオン兄さまが、口を大きく開けました。


「ララーシュカ、聞いてよぉ! メリッサ嬢がさぁ、女の子の友達がいなくて、さびしいんだって! 君に、友達になってほしいんだって!」

「アッ、アタシは……クッキーの、お礼を……」


 真っ赤な顔で、身体をプルプル震わせながら、メリッサさまが、そう、おっしゃっていますから、デュオン兄さまのセリフは、ウソなのでしょうね。


「ああ……お城で偶然出会った時にあげた、猫さんクッキーのことだねっ! 僕が作った猫さんクッキー、殿下も、僕の可愛い妹も、おいしい、おいしいって、喜んで食べてくれたんだっ! またお菓子作るから、みんなで一緒に食べようねっ!」


 デュオン兄さま、わたくし、なんだか、胸が、痛いのです。


 デュオン兄さまは、無邪気な美少年を演じていらっしゃるのでしょうが、周りの目が、チクチクと、突き刺さると言いますか……。


「――で、ララーシュカ、メリッサ嬢の友達になってくれるよね?」


 笑顔が、こわいです。圧を感じます。デュオン兄さま。

 わたくしは、ドキドキする胸を、そっと押さえたあと、口を開きましたの。


「わたくしで、よろしければ」

「よかったっ! 殿下は僕の親友だし、親友の婚約者も、親友みたいなものだし、愛する妹と親友が、仲良くなってくれたらしあわせだよっ!」


 無邪気過ぎて、意味不明です。


 メリッサさまは、怒っていらっしゃるような、泣いていらっしゃるような、よくわからないお顔をされているだけで、嫌だとは、おっしゃっていませんし、わたくしとお友達になってもよいと、いうことなのでしょうか?


 まあ、わたくしとしては、どちらでもよろしいのですけどね。

 オホホホホ。

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