第七話 聖獣さまが生まれる泉に、行きましたの。

 ごきげんよう。ララーシュカですわ。

 五月三十日になり、孤児院の方々と一緒に、大きなケーキを作りましたの。

 とってもおいしかったですわ!


 いつまでここにいられるのかは、わかりませんが、この村にいる時間を大切に、毎日を生きようと思いますの。


 六月になり、セレスさまに誘われたので、一緒に、聖獣の森に行くことになりましたの。聖獣さまが生まれる泉を、見せてくださるのよ。


 王都の神官さま方が、わたくしの望みを叶えるために、動いてくださっているそうなのですが、もうすこし、時間がかかると聞いていますの。


 お菓子や動物が好きというのは、わかりやすいと思うのですが、やさしい兄というのは、難しかったかもしれませんわね。


 孤児院からきた幼女に、やさしくできるか、ということですし。しっかりと面接でもしないと、わからないかもしれませんね。


 楽しみな気持ちも、すこしはあるのですが、緊張もしていますのよ。どんな家族と、会えるのかしら?


 ふう。


「大丈夫ですか?」


 ――ハッ!


 そうだわっ! 今は、神官服姿のセレスさまと、お出かけなのですわっ!

 わたくしは、荷物を持っていないのですが、セレスさまは、カゴを持っていらっしゃるの。薬草でも、入れるのかしらね。


 孤児院のお散歩では、別の森に行っていましたから、聖獣の森には、生まれた日以来、行ってないのです。あの時は夜でしたね。精霊さんたちが、キラキラしていたのを覚えています。


 朝の聖獣の森は、どのような感じでしょうか?


 森も泉もきっと、美しいでしょうねっ!

 ワクワクしますわっ!


 ニコニコしながら、村を歩いていると、村の人たちが、笑顔で、ごあいさつをしてくださいましたの。

 セレスさまと、わたくしに。


 もちろん、笑顔で返しましたわよ。


「ララーシュカちゃん、今日も可愛いわね」

 って、うれしそうな表情で、褒めてくださるおばさまと出会いましたの。この方、よく褒めてくださるのよ。


 わたくし、笑顔で、「ありがとうございます!」って、お礼を言いましたのよ。

 うふふふふ。


 今日のわたくしの服はね、お気に入りなの。

 お下がりだけど、可愛いひよこ柄の、ワンピースなのよ。


 金色の、長い髪の毛を結んでいるリボンも、好きな色なの。瞳と同じ、青色よ。

 うふふふふ。


 この村には、とんがり屋根の、カラフルな家が、たくさんあるの。まるで、絵本の中にいるみたい。


 ルンルン楽しく、歩いていたら、草原に入りました。草原には道があるので、とても歩きやすいのです。


 セレスさまのうしろを、テクテク進むと、聖獣の森に、たどり着きました。


 わたくしと、セレスさまには、聖獣の森が、淡く、かがやいて、見えるのです。孤児院の子たちや、先生方には、そんな風に、見えないらしいのですけどね。

 魔力の強さが、関係しているのかしらね。


 セレスさまが、「聖獣様」と、森に向かって、呼びかけました。すると、白い毛並みのユニコーンさんが、目の前に現れました。


「――聖獣様。ララーシュカに、森を見せてあげたいのですが」

「うむ」


 ユニコーンさんがうなずいて、姿を消しました。

 それだけですか。なんだか、さびしいですわね。


 許可が出たみたいなので、入りましょうか。

 わたくしは、セレスさまのお顔を見上げて、「行きましょう」と言ってから、歩き出しました。


 道は、ちゃんとあるのです。


 森に入ると、空気が変わったのが、わかりました。

 まあっ! 虹色のアジサイですわっ!

 鳥の声がしましたわねっ!


 立ちどまり、木の枝を見上げましたが、鳥の姿は、見えません。

 でも、リスさんがいました。


「リスさんっ!」


 大きな声を出したら、おどろいたのか、リスさんが、動かなくなりましたの。

 こういうことって、たまにありますのよ。リスさんって、繊細なのね。


 ごめんなさいって、心の中で思いながら、進むことにしましたの。


 テクテク、テクテク、歩きますー。楽しい、楽しい、楽しいなー。

 木漏れ日、キラキラ、していますー。


 精霊さんたちが、集まってきましたわっ!

 ふわふわ、ふわふわ、楽しそう。

 とってもきれいで、見ているだけで、しあわせな気持ちになりますわね。


 ここ、空気がおいしいですし、とっても満たされる場所ですわね。

 うふふふふ。


「楽しいですか?」

「ええ、とっても」


 セレスさまの声がしたので、わたくしは、お返事をしてから、ゆうがにふり向きました。そして、ニコリと笑います。


「連れてきてくださって、ありがとうございました。セレスさま」

「私にできることは、これぐらいですから」


 セレスさまは、ほほ笑みながら、そう言いましたの。それから、聖獣さまが生まれる泉に、案内してくださいました。


 青くきらめく、幻想的な泉を、目にして、わたくしの胸は、感動で、震えましたの。

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