夢 その二 パーティーのあとで。

 つらいだけのパーティーが終わったあと、わたしたち、月夜つきよの民は、部屋に向かった。

 キラキラかがやくふしぎな石のついた首輪は、とてもきれいだとは思うけど、長くしているのは嫌だと思う。苦しくはないけど、わたしには重たいし。


 わたしを合わせて、四人いる月夜の民は、全員子どもだ。男の子が二人で、女の子が二人。

 男の子のデューク、女の子のメリリ、男の子のヴィー、そしてわたし――ランカの順番で歩いてる。


 ランカという名前は、月の女神さまと同じ名前だから、ここではランと呼ばれてるけど。


 子どもたちはみんな、首輪をしてる。

 首輪には、リードがついている。大人の男が四人、それを持って、広い廊下を進む。

 月夜の民が四人だから、大人の男も四人いる。


 彼らは、わたしたちの世話係だ。全員、元孤児でご主人さまに拾われたと話していた。わたしの世話係のロロさんが。


 月夜の民は、漆黒の髪と、藍色の瞳を持っているけど、この男たちは違う。

 魔力を持つ彼らは、いろいろな属性の色の髪と瞳を持つから、みんな違う。同じ属性を持つ人はいるけど。


 ロロさん以外の世話係は、魔力が弱いらしくて、髪と瞳の色が薄い。

 他の屋敷で働いてる人たちは、髪と瞳の色が濃い人もいるし、薄い人もいる。


 ご主人さまと、パーティーで見た人たちは、色が濃い。魔力が強いということだ。


 金持ちがたくさんいる土地では、月夜の民がめずらしいから、たくさんお金がないと、見ることができないみたい。

 まあ、めずらしいから、わたしたちが捕まって、ここで飼われているのだけれど。


 そんなことを考えながら、ペタペタ歩く。廊下には、青色のじゅうたんがあるから、冷たくはない。

 わたしのリードを持つ若い男――ロロさんはやさしいから、わたしに合わせてくれるんだ。


 ロロさんは、十八歳で、緑色の髪と、青色の瞳の持ち主。

 彼は水属性と大地属性の持ち主で、水を出したり、植物を操ることができるんだ。お願いして、見せてもらったんだけど、水が出るのも、植物が生き物みたいに動き出すのも、面白かった。


 自分も魔法が使えたらいいのになって、そう思った。


 ロロさんは庭にくる妖精たちや、屋敷の小人たちと仲良しなんだ。ロロさんが小人と話してるところは見たことないけど、小人の話をたまにするから。

 この屋敷の小人たちは三十人いるんだって。そんなにたくさん見たことないから、見たいなって思ったけど、部屋にくるのは五人までなんだ。


 小人の髪はこげ茶色で、瞳は黄緑色。服の色はよく変わるから、だれがだれなのか、わからない。

 生まれ育った森でも、よく人の名前を間違えてたし、この屋敷にきてからも、なかなか名前を覚えられないから、もう、あきらめてる。


 ロロさんは昔、草原にいた時に、ドラゴンの姿の聖獣さまを見たって言ってた。わたしは聖獣さまなんて、絵本でしか知らないから、すごいなって思う。


 まだ、目的の場所に着かない。


 貴族のお屋敷って、広い。そして豪華だ。

 もう五月なのに、空気が冷たい。風を感じない。

 さびしいと感じる。悲しいと感じる。


 お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんたちも、ここにはいない。

 同じ村で生まれ育ったヴィーは、いるけど。


 そう思いながら、ヴィーのうしろ姿を見る。

 さらさらな漆黒の髪。細い首に、豪華な首輪。キラキラとした衣装を身にまとう彼は、今日も人気者だった。

 たくさんの、大人の男や女に、触られたり、キスされてた。


 なにをされても彼は無口で、とても静かにしてるから、いつも、たくさん褒められる。

 パーティーでは、人形みたいだと、よく言われてる。大人たちに。


 わたしは嫌いだ。よく知らない相手に触られるのも、キスされるのも、とても嫌だ。だから、暴れて、怒られる。

 サルだと言われる。


 でも、叩かれたりはしない。


 飲みものが入ったグラスに手が当たって、飲み物が貴族の男にかかり、真っ赤な顔で、怒鳴られたことはあるけれど。

 その時はご主人さまが、わたしを助けてくれたんだ。


 それからは、グラスやお皿にぶつからないように気をつけているけれど、つい、手が当たってしまうこともあるんだ。


 難しいなって、思う。

 わたし、ドジだし。


 あの時も、わたしがドジなせいで、ヴィーまで捕まってしまったんだ。


 森の奥にあった村は、どうなってしまっただろうか?

 みんなは、無事だろうか?


 ここにきて、一年経った今でも思う。家族のことを。

 そして、二つ年上の、ヴィーのこと。


 九歳になったばかりだった去年の三月、わたしが紅い鳥が見たいと言ったせいで、朝から、たくさん森の中を歩いたせいで、わたしたちは疲れてた。


 だから。

 いつもは行かない、草原の近くにある小川で、わたしが落ちてしまったんだ。


 その時、大きな音や、声を出してしまったから。

 ちょうど近くにいた月夜の民狩りの男たちに、見つかったんだ。


 わたしも、ヴィーも濡れてたから、服が重くて、速く走ることができなかった。


 わたしが、紅い鳥が見たいと言わなければ、すぐにあきらめていればよかったのに。

 小川になんか、落ちなければよかったのに。


 捕まったあと、馬車の中でも、何度も思った。

 ここにきてからもだ。


 後悔しても、なにも変わらない。


 何度も謝った。

 ヴィーはやさしいから、『気にするな』と言ってくれるけど、苦しみは、胸の中にある。


 わたしのせいだ。ヴィー一人なら、逃げられたはず。だってヴィーは、わたしよりも足が速いし、木登りだって上手だから。


 あこがれてた。大好きだった。

 ヴィーは、村長の息子だし、こんなところにいていい存在ではないのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る