夢 その三 鳥かご。

 カギの音と、扉が開く音。

 わたしはそちらに視線を向ける。


 大きな扉が開いている。二人ずつ、入って行く。


 あそこは、わたしたちの鳥かごだ。

 鳥じゃないけど、わたしはそう思ってる。


 あの場所なら、重たい首輪を外してもらえるし、服も好きなのを選べるから、楽ではあるのだけれど、わたしたちはペットだ。

 飼い主がいて、自由に外に出られない存在。


 わたしが外に行きたいってさわいだ結果、散歩の時間はあるけど、その時は首輪をしなきゃだし。庭は広いけど、高い塀がある。門扉もあるため、逃げたくても逃げられない。


 もし、運よくここから出られても、一人じゃなにもできないんだけどね。ここがどこで、生まれ育った場所がどこにあるのか、わかしにはわからないし。


 馬車ではオリに入れられてたし、馬車がゆれる振動がすごかったから、食欲もなくて、体調も悪かった。月夜つきよの民狩りの男たちがこわかったし。


 あの場所よりも、ここの方がいいけれど、それでも、ずっと屋敷から出たれないのはつらかった。

 だからロロさんに、外に出たいとうったえたんだ。


 ヴィーとデュークも世話係にお願いをしたらしくて、時間は違うけど、一日一回、散歩に行くことが決まった。メリリ以外。


 ロロさんと一緒に、わたしは部屋に入った。

 とても広い部屋には、天蓋つきのベッドが四台、デンッとあり、タンスやクローゼットや、おもちゃ箱や本棚なんかもある。

 床には、淡い緑色のじゅうたんが敷いてある。


 大きな窓もあるけれど、ここは二階だ。

 翼があれば飛べるのにと、何度も思った。


 窓からは、木や、大きな家や、道、それから、森が見える。

 森が見えるのに行けないというのが、ものすごくつらいから、あまり見ない。


 それに、あの森は、わたしが生まれ育った森じゃない。だけど、森は森だから、大好きな匂いを感じたり、可愛い動物と出会うことができるかもしれない。


 わたしが生まれ育った森には、クマがいなかった。ここにきて、絵本を読んで、知ったんだけど、いつか見てみたいなと思ってる。

 夢だけど、希望だけど、わたしはそう思ってる。


 この屋敷は、ご主人さまの別邸だ。別邸だから、たまにしかこない。次のパーティーは六月だ。そう、ロロさんが言っていた。


 他にもいくつか、別邸があるらしく、そこでも月夜の民が数人、飼われてると聞いた。

 パーティーで、ご主人さまがだれかに話してたから、本当のことだと思うんだ。


 月夜の民狩りに捕まった時も思ったけど、月夜の民の言葉だけでなく、大陸の共通語を覚えておいて、よかったと思う。

 勉強してたころは、ものすごく、嫌だったけど。だって、森から出ることになるなんて、夢にも思わなかったから。


 でも、村の大人たちは、月夜の民狩りと出会った時に、相手の言葉を理解できた方がいいという、考えだった。


 わたしは、森の奥までこないだろうって思ってたけど、ある日、お母さんが、『ランカ。あなたには、お役目があるの』って、意味不明なことを言い出したんだ。


 よく話を聞いてみれば、わたしを妊娠していた時に、夢を見たのだそうだ。


 長い黒髪と瞳の美しい女の人が現れて、お腹の中にいる女の子には、ある役目があると言ったらしい。


 お役目があるから、ランカと名づけるようにと、夢で言われたお母さんは、素直に、ランカと名づけた。


 ランカというのは、月の女神さまの名前だ。

 そして、月夜の民の言葉で、夢という意味を持つ。


 赤ちゃんが生まれたら、本当に女の子だったから、お母さん以外の家族や、親戚の人たちが、いや、村中の人たちが、びっくり仰天して、大さわぎになったとか、言っていたのを覚えてる。


 でも、わたしはドジだし、特別頭がいいとか、可愛い子ってわけでもないし、家でじっとしてるのも嫌いだし、料理や裁縫も苦手だから、お役目があるとか言われても、ふしぎな気持ちになるだけだった。


 苗字もランカだから、村の男の子たちに、いろいろ言われたし。その時は、ヴィーが守ってくれたけど……。


 魔力がある人間たちにはヒミツだけれど、月夜の民は、竜人族と交流してる。

 満月の夜には必ず、ドラゴンに乗った竜人族が数人、わざわざ村まできてくれるんだ。

 だから、いろいろな物が手に入る。物々交換で。


 何度か、こっそり外に出て、ドラゴンを見たことがある。いつか乗ってみたいと思ったのは、ヴィーにしか話してない。


 竜人族の言葉も、それなりに覚えてる。

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