夢 その五 森に向かって、走れ!
寝て、起きて、ロロさんと一緒に散歩をした。
世話係たちはいつも、他の部屋で寝る。
わたしたちの部屋の扉にはカギがかかっているし、カギは、世話係たちが持っている。カギが開けば音でわかる。だから、昨夜の話は聞かれてはないはずだ。
そう思いながらも、ドキドキして、あまり、ロロさんの顔を見ることができなかった。
だから。
「どうしました?」
と言いながら、わたしのおでこにロロさんが触れた時、「ひゃぁ!」って、おかしな声を出してしまったんだ。
「熱はありませんね」
いつも通りだ。ロロさんはやさしい。
なのに、わたしは逃げるんだ。ここから。
どうやって逃げるのかは、わからない。
小人たちが協力してくれるから大丈夫だと、ヴィーと、デュークが言うから、信じるしかない。
わたしとメリリにできることは、彼らを信じて、ついて行くだけ。
逃げるのは、今夜だ。
♢
夜。
世話係たちが部屋の灯りを消していなくなったあと、しばらくしてから、小人が二人現れた。
それを見て、ヴィーが着替えてもいいと言ったので、わたしたちは自分のベッドで、寝間着を脱いだ。それからヴィーに言われた通り、布団の中に寝間着を隠した。
それから、動きやすい服を着た。
ベッドを出て、みんながいるところに行くと、小人が増えていた。
七人いる。
今日、この部屋のカギを持っているのがロロさんなんだって。合カギもあるんだけど、それがある部屋には、いつも見張りがいるみたい。
合カギがあるのは、たくさんのカギが置いてある部屋で、屋敷を守る人たちがいる部屋でもあるんだって。
ロロさんの部屋に行った小人さんたちがくるのを待っていると、音がした。
カギの音だ。
それから、ギィーと、開く音。
入り込む、光と、小人たち。
多過ぎて、何人いるのかわからないや。
先頭の小人がピタリととまると、うしろの小人たちも動かなくなる。
「行くぞ」
ヴィーの声。小さな声だけど、力強く届いた。
「うん」
みんなが答えた。小人たちもだ。
扉をちゃんと閉めてから、小人たちと一緒に、階段に向かう。
廊下には、夜に光るふしぎな魔石が飾ってあるので、わりと明るい。階段もだけれど。
じゅうたんだし、小人以外は裸足だから、大きな音は出ない。長い廊下を早足で進んだあと、ドキドキしながら、階段を下りた。
そして、バレた。
一人の男に。橙色の髪と瞳の男だ。
いきなりのことにおどろいたのだろう。「なっ!」と叫び、目を見開く男。
「チッ。見回りだ」
デュークの声。
「玄関まで走れっ! 小人が開けててくれるはずだっ!」
ヴィーの声を聞き、わたしは走る。
ひさしぶりに本気で走る。暗い屋敷を。
玄関に向かって。
小人たちも走る。足が速い。
「だれかっ! ペットが逃げたぞっ!」
男の声。
風が吹く。屋敷なのに。そうだっ!
橙色は風属性だっ!
痛い。刺すように痛い、風が吹く。
それでも負けずに、わたしは走る。
みんなも。
玄関が見えた。開いてるっ!
「きたぞ!」
「きたきた!」
「おーい!」
「はしれー!」
「にげろー!」
小人たちがジャンプしてる。
「逃がすかっ!」
ん? さっきとは違う声。辺りが明るくなった。暑い。
「火はダメだ! できるだけ傷つけるなっ!」
「じゃあ風もダメだろっ!? どうするんだっ!」
「そんなん言ってたら雷だって危ねぇし、どうするんだよ? アイツら、足速いぞ」
こわい! こわい! こわい!
おびえながら走り続けて、外に出る。
息が荒くて、胸が痛い。苦しいけど、立ちどまれない。
「――ロロ、いいところに! アイツラを捕まえ――ギャアッ! キサマッ! 裏切ったなっ!」
ん? なにが? なにがあったの?
ロロさんなにしたの?
わからない。気になる。でもこわい。
「門扉まで走れっ! そこにも小人がいるはずだっ!」
ヴィーの声だ!
わたしは走る。
ロロさんのことが気になるけど、それよりも自分のことだっ!
――門扉が見えたっ!
「急げっ!」
ヴィーの声。
「よいしょっ、よいしょっ」
門扉が開いた。音を立てて。
よく見る余裕はないけど、小人たちだろう。
その時。
門扉の前に、
男は水色の髪と瞳の持ち主だ。水属性。魔力が弱い。
どうしようか一瞬迷い、わたしが足をとめた次の瞬間。
水属性の男に向かって、なにかが襲いかかった。植物だっ!
叫び声を上げながら、植物にグルグル巻きにされる水属性の男。
男の手から落ちた松明の炎が辺りに広がり、それに向かってたくさんの水が落ちた。
ジュワッと音がして、炎が消える。
わたしはハッとしてふり向いた。
緑色の髪、青色の瞳の若い男――ロロさんが駆けてくる。
「――ラン!」
ギュウッと、力いっぱい、抱きしめられた。
ロロさんに。
なんか痛い。硬い物が当たっているような。そして熱い。ロロさんの身体が熱くて、ドキドキする。
「ロッ、ロロさんっ……なにをやって……」
焦りながら言うと、ロロさんが身体を離してくれた。腰に剣と、小さな袋がある。寝間着じゃない。
「行きましょう!」
「行く?」
真剣なまなざしのロロさん。彼を見上げながら、なにも言えないでいると、「ランカッ!」と声がした。ヴィーの声だ。
ふり向けば、すぐそばにヴィーがいた。
ヴィーはわたしの手を引き、駆け出した。
そして、門扉をくぐる。
走りながらふり向くと、デュークとメリリ、それからロロさんがついてきているのが見えた。
「げんきでねー!」
「バイバーイ!」
「どうかぶじで!」
なんて声が聞こえる。
可愛らしいから、小人だろう。
熱い。苦しい。
「待てー!」
「焼かれたくなかったらとまれっ!」
追ってがきてるみたい。
「森はこっちです!」
なぜか、ロロさんが先頭になって、走る。
道案内をしてくれるようだけど、いいのだろうか?
わからない。だけど今は、走るしかない。
無我夢中で走った。
男たちに追われながら。
やがて、わたしたちは、森にたどり着いた。
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