夢 その六 森で。

 ひさしぶりに森を走る。

 身体が痛い。息が苦しい。たまに、こけそうになる。

 それでも走る。


 今はヴィー、デューク、わたしの順番で走っている。メリリは転んでケガをしたので、デュークが背負って走ってる。

 ロロさんもいるはずだ。追っ手の声も聞こえる。

 足音はたくさんで、だれがだれの音かわからない。


 月夜つきよの民は夜目がきくけど、ロロさんはそうじゃない。大丈夫だろうかと不安になる。

 そしてふいに思い出す。今日は満月のはずだと。

 いろいろあって、忘れてた。


 ここは森だけど、道が広い。光は十分に入るだろう。夜目がきかない人がどう見えるのかは、よくわかってないけれど。

 キンッと、剣なのかわからないけど、たまに音がする。風も感じる。その風が、自然のものなのか、違うのかはわからない。


 ロロさんは魔力が強いらしいけど、わたしは魔法のことはくわしくない。たくさん魔法を使えば疲れるかもしれないし、植物や水だけでは勝てない相手もいるはずだ。

 ロロさんのことが心配だけど、立ちどまることも、もどることもできない。会いに行っても、わたしじゃ力になれないから。


 しばらく走ると、木がない場所に出た。

 ヴィーと、メリリを背負ったデュークが立ちどまり、荒い呼吸をくり返してる。

 彼らの前には、黒い水――いや、大きな池を、光が照らす。


 わたしも立ちどまり、胸を押さえる。ゼエゼエ、ハアハア息をしながら、空をあおぐ。


 ――月だ! 大きな満月を見て、涙が勢いよく流れた。

 足がガクガクして、その場にしゃがみ込む。


「――ランカッ!」

 ヴィーの声。


「大丈夫か!?」

 駆け寄ってきたヴィー。わたしは小さくうなずいた。


 キンッと、どこかで音がする。

 戦っているんだと思う。ロロさんが。


 助けたい。力があれば、魔法があれば。

 そう思った時、思い出した。


 お役目のことを。

 お母さんの夢に現れた女の人は、長い黒髪と瞳の美しい女の人だったという。


 村の人たちが、月の女神さまだろうと話していたし、わたしの名前も、月の女神さまと同じだ。


 わたしは顔を上げた。

 見える。月が。


 大きな満月を見上げながら、わたしは――。

 ロロさんと、わたしたちを助けてと、願った。


 次の瞬間、眩しい光に包まれた。

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